51話 ドナドナ!?
がっくりと項垂れた村長を尻目に、パンダロンと依頼について詰めていく次郎衛門。
かなーり阿漕な方法でぼった食った感があるが、村長の自爆とも言えるのでパンダロンも特に異論はないようだ。
「10割増し。
つまり報酬は相場の2倍って事で良いな?
パンダのおっさん。
これはギルド経由の正式な依頼として処理を頼めるか?」
「ああ。事後処理となってしまうが、そこは俺が何とかしよう。
当然の様に税金や手数料は報酬から貰う事になるがな」
「その辺は当然っちゃ当然なんだから文句はないぞ。
それじゃ、今日は宿に戻って明日の朝に出る事にしようぜ。
んじゃ、村長さんはちゃんと報酬の準備しとけよ」
項垂れる村長を背に宿へと戻る次郎衛門達。
そんな次郎衛門達の背後から非難の声が浴びせかけられる。
「何で余計な事をしたんですか! 真実だとしてもこんな辛い真実なんて知りたくなかったのに!」
メルの言い分は、一理あるのかも知れない。
慕っていた義理の両親が、実は自分の事を邪険に思っていたという事実。
少女にとっては辛い現実なのだろう。
その目からは大粒の涙がぼろぼろと零れ落ちている。
「何でって、気に入らなかったからかな。
例えば、ここにいるアイリィと俺は血は繋がっていない。
でも、この娘は俺を父と慕ってくれているし、俺も娘だと思ってる。
俺を父と呼んでくれるこの娘の為なら命を懸けるし、実際に王侯貴族にも喧嘩を売った事もある。
ま、俺みたいに腕っ節で何でも押し通せるって訳じゃ無い事は分っている心算だけど、自ら子を売り飛ばす様な奴は親じゃないと思う。
俺が暴露しなかったとしても近いうちに分った事だと思うぞ?」
「確かにそうかも知れないけど、私の居場所も無くなっちゃった!
私はこの先、どうやって生きていけば良いのよ!」
確かにメルはもう、この村で生きて行くには辛いだろう。
そして村を出て生きて行くにも、身寄りのない彼女が何の当てもなく新たな地に根を下ろすのは、に困難である事も想像するに難くない。
だが、本来なら詐欺で捕まり罪人となるか、借金奴隷になっていたかも知れないのだ。
次郎衛門に助けられたと言っても、過言ではない立場であるにも関わらず、むしろ次郎衛門を責めるメルにフィリアの怒りが爆発する。
「あんたねぇ!
甘ったれるのもいい加減にしなさいよ!
ジローが居なかったら、罪人か奴隷になっていたのよ?
助けて貰っておいて、その態度はないんじゃないの?」
フィリアの正論とも言える非難に項垂れるメル。
そんなメルを擁護するべく次郎衛門が口を開く。
「まぁ、フィリアたん落ち着けよ。
信じていた親に裏切られたんだ。
取り乱しても仕方ないさ。
んで、メルちゃん。
当てがないんだったら、俺に雇われてみないか?」
「え?」
その言葉に思わずキョトンとした表情で、次郎衛門を見つめるメル。
「仮にも村長の娘をしてたって事は、読み書きと簡単な計算くらいは出来るんだろ?
俺って近いうちに商売を始めようと思ってるんだよな。
ま、直ぐに始めるって訳じゃないから、暫くは近くの孤児院で子守の手伝いでもしててくれ。
寝床は俺の家の空いてる部屋を自由に使ってくれて良い」
「本当に雇ってくれるの?
私は貴方を騙そうとしたのに?
何で?」
「何でって、このまま放っておくのも寝覚めが悪いだろう?
それに人手が欲しいのも事実だしな。
どうせ人を雇うなら可愛い女の子の方が華があって良いし」
「ありがとう……」
「ハァ……
やっぱり面倒見る気満々だったわね。
ジローってば、微妙に御人好しなところがあるのよね。
好きにしなさい」
次郎衛門の行動をフィリアは半ば予想していたらしい。
特に反対する様子も見受けられない。
「ま、オークの依頼以外にも、指名依頼があるから、俺達は暫くはラスクの街に戻れないんだよな。
どうしてもこの村に居たくないってのなら、明日の朝にでも護衛用のゴーレム作って街まで護送させるぞ?」
「そんな事も出来るんですか!?
あまりこの村には留まりたくないし、お願いします」
「んじゃ、明日の朝、村の入り口に着てくれよな」
そして翌日。
村の入り口には、次郎衛門達と最低限の手荷物を持ったメルの姿があった。
「メルちゃん準備は出来たかい?」
「1日歩けば着く程度の距離ですし大丈夫です」
その時、メルの背後からメルの肩を何者かが叩く。
察しの良い方ならお気付きかも知れないが、マンドラゴーレムの仕業である。
その姿は相変わらず禍々しい。
「ぎゃぁあぁぁぁ!!!」
何も知らないメルは、全身からどす黒いオーラを噴出すその姿を視界に捉えた瞬間。
可愛らしさとは程遠い絶叫を上げ、意識を手放しひっくり返ってしまった。
マンドラゴーレムの精神攻撃は、一端の冒険者の心ですら打ち砕いたりもしちゃうので、メルがひっくり返るのも仕方ない事なのだ。
「うーん。やっぱりダメだったかぁ。
ゴーレムの改良は中々進展しないなぁ。
無理に起こして騒がれるのも面倒だし、ゴーレムに守衛のおっさん宛に手紙でも持たせてこのまま輸送させるか」
等と言いながら、次郎衛門はメルの手足を一本の棒に縛り付け、その棒の両端をゴーレムに担がせる。
憐れにも仕留められた猪の様に棒にぶら下げられたメル。
旅用にスカートではなく、ズボンを履いている事が、唯一の救いなのかも知れない。
結局、メルはこのままラスクの街まで、輸送される羽目になる。
そしてラスクの街の入り口で、次郎衛門の悪友となりつつある守衛のおっさんに、身動きがとれないのを良い事にセクハラされたり、やっとの思いで次郎衛門の家に辿り着けば、幽霊ちゃんを見てまたひっくり返ったり、孤児院に行ってみれば、子供達のスカート捲りの洗礼にあう事となるのである。
「ジローって、微妙に優しい時と、鬼畜な時との差が激し過ぎじゃない?」
ゴーレム達に運ばれて行くメルは、ちょっとドナドナっぽい。
その様子を憐れみの表情で見送るフィリア。
「そうかな?
自分じゃよく分からんけど。
それよりオーク狩りに行こうぜ!
今日は豚肉フェスティバルになりそうだな!」
「ふぇすてぃばる!ふぇすてぃばる!」
次郎衛門の言葉にはしゃぐ肉大好きっ娘アイリィ。
そんな娘を肩車しながら、歩き出す次郎衛門なのであった。




