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50話 腹黒村長に大特価サービス!?

「娘のメルが御迷惑をお掛けした様で申し訳ございません。

 ですが、娘も村の事情を慮ってした事でして。

 どうか許して頂けないでしょうか?」


 村長と名乗る男性は娘から事情を聞き、申し訳なさそうな表情を浮かべて次郎衛門達に謝罪した。

 だが、次郎衛門はそれでも納得出来てない様子だ。

 納得出来ていないと言うよりも、かなり怒ってるようにも見える。

 次郎衛門が過去に怒ったのは勘違いで娘ごと殺そうとしたアポロに怒った時くらいだ。

 非常に珍しいといえるだろう。


「チッ。まぁ良いよ」

「ジロー、結果的に被害は無かったんだから、何時までもグチグチ言ってるとみっともないわよ」


 未だに苛々している次郎衛門を注意するフィリア。

 そんな次郎衛門の様子を探る様に村長が再び口を開いた。


「この上で、更にお願いだなんて図々しいと思われるかも知れませんが、オークを何とか退治して頂けないでしょうか?」

「結局そうなるのか。

 お嬢ちゃんにも言ったが、報酬をしっかり支払えるのか?

 難易度かなり高そうだぞ?」


 普段は採算度外視でノリで依頼を受ける癖に、今回は妙に報酬に拘る次郎衛門である。

 そんなに少女に何でもして欲しかったんだろうか、とか思わなくもないが、ひょっとしたら何か思う所でもあるのかも知れない。


「正直な所、充分と言えるほどの報酬は支払えないかも知れません。

 ですが、何時オークが襲って来るか分らない状況なのです。

 どうかお助けください!」

「ダメだ。報酬が約束出来ないのなら、依頼は一切受け付けない」


 縋る様に懇願する村長の言い分を、あっさりと却下する次郎衛門。

 ここで、村長の娘のメルが意を決したように口を開く。


「あ、あの!

 わ、私が足りない分は働いて必ず払いますから!

 どうかお願いします!」

「働いて払うって何年掛かるんだって話だよ?」

「それなら、私を借金奴隷として買って下さい!」

「メル…… なんて事を言うんだ……」

「お父さんには、血の繋がりのない私を養子としてここまで育ててくれた事にとても感謝しているんです。

 だから、今度は私が恩を返す番です」

「…… 済まない」


 メルの言葉に村長が顔を隠すように俯いて肩を震わせる。

 だが。

 次郎衛門はそんな村長にツカツカと歩み寄る。

 そして顔を掴むと、グイッと顔を引き起こす。

 不意に顔を起こされた村長の顔は―――――


 笑っていた。


「クハハ。

 村長さんよ。

 予定通りに娘を厄介払い出来そうだから、笑いを抑えきれないって感じだなぁ?」

「わ、笑ってなんてない!

 メルは実の娘同然、いや実の娘そのものとして可愛がって来たんだ。

 メルが奴隷になるだなんて喜ぶ訳がない!

 だが、このままでは村が危険なのだ。

 ワシは村長として、断腸の思いでメルの提案を受け入れるしかないんだ!」


 村長は慌てて表情を取り繕い、言い訳を並べ立てる。

 だが、さっき浮かべていた厭らしい笑顔をみた後では、どんな言葉も白々しい事この上ない。

 次郎衛門と村長以外は、一体何が起きているのか理解出来ずに、ただただ成り行きを見守るばかりである。


「いや、他の方法もあるぜ?

 例えば息子の方を奴隷にするとか…… な?

 どうせなら、体力的にこき使える男の方が俺としても嬉しいからな」

「な!? 

 そんなの認めん!

 息子はワシの後を継ぐ大切な子だ!

 奴隷になど絶対にしない!」

「クハハハ!

 村長さんよ。

 良い感じに化けの皮が剥がれてきたなぁ!

 実の娘そのものの筈のメルは奴隷になっても良くて、実の息子はダメなんだなぁ?」


 思わず漏れた村長の本音。

 やっと周囲の人間にも、次郎衛門が何に対して怒っていたのか理解し始めた様だ。


「ねぇ、ジロー。

 ひょっとして村長ってメルの事を?」

「ああ。確実に息子に村長職を継がせる為に、養子であるメルを厄介払いしたいらしい。

 わざと生活に余裕の無い素振りをして、居た堪れなくなったメルが自ら村を出て行く様にな。

 今回のオークの件は、メルを焚きつけるのに打って付けだったって訳だ。

 メルが詐欺で捕まれば良し。

 それがダメでも、親思いのメルがオークの報酬の為に自らを身売りするだろうという二段構えの工作って所だな」

「う、嘘だ!

 一体何の証拠があってそんな事を言っている!

 今日、村に着たばかりの余所者が勝手な言い掛かりを付けるんじゃない!」


 次郎衛門の暴露に反論する村長。

 確かに普通なら村長の言い分はもっともである。

 だが、相手は規格外であるが故に、神様によって異世界に引越しをさせられた次郎衛門である。

 この男に常識は通用しない。


「証拠ねぇ。確かに、今出すことの出来る証拠はないなぁ」

「ほらみろ! 勝手な事を言い……」

「証拠は出せないが、俺の耳は抜群に良くてな。

 この村の中での会話ならその気になれば聞こえるんだよ。

 情報収集は基本だからな。

 確かに聞いたぜ?

 メルを炊きつけてた事も、メルが宿屋へと向かった後に、あんた等夫婦が真相を嬉しそうにのたまっていた事も…… な?」

「な……」


 そんな次郎衛門の言葉に村長は絶句し、メルは呆然としている。


「まぁ、その話は依頼とは直接関係ないから置いといてだ。

 俺は一言も報酬はメルで良いだなんて言っていないぞ?

 さっきまでは通常価格の相場通りで受けていたんだが、今なら大特価特別価格で相場の5割増しで受けてやる。

 うわーい!

 お得だね?」


 次郎衛門の言葉に村長の顔色が変る。

 大特価で値段が跳ね上がるとか、通常なら有り得ない。

 だが、村は下手したら壊滅の危機にある非常事態である。

 もしも、次郎衛門達にオークの討伐を依頼出来なければ、正規の手段でギルドに依頼を出すことになるか、ラスク辺境伯に救援を願う事になる。

 だが、冒険者にしろ辺境伯からの救援にしろ準備が整うまでに二日は掛かる。

 間に合わない可能性もかなり高い。

 なので村としては次郎衛門に受けて貰う事が最善なのだ。

 しかし村長は完全に次郎衛門の機嫌を損ねてしまった。

 それ故に課せられたこの仕打ちなのである。


「な!? ふざけるな!」

「クハハハ。今からは7割増し~

 タイムサービスでドンドン上がるよ~

 どうすんの?

 緊急事態じゃないの?

 10割増し~」

「わ、分った!支払う!

 だから頼む!

 依頼を受けてくれ!」


 ドンドン容赦なく上がり続ける報酬。

 村長の心は完全に折れ、もはやメルを追い出すどころではなくなったっぽい。

 そしてメルは相場の2倍の報酬ですら支払う事が出来るという事に、次郎衛門の言っていた事が真実なのだと理解し、放心状態に陥るのであった。

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