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49話 村長の娘!?

 宿屋兼酒場の酒場フロアには。

 少女に謝る次郎衛門の姿があった。


「いやー悪い。ちょっと調子に乗りすぎちゃったな」

「いえ…… 少しびっくりしただけですから」

「んで、村長の娘さんが俺達に一体何の用なんだ?」


 宿屋のお姉さん曰く、この少女は村長の娘であるらしい。

 ドサクサに紛れて聞くことが出来なかった用件を聞く次郎衛門。

 そんな次郎衛門に少女は少しだけ躊躇っていたが、意を決した様に話し出す。


「オークの群れを討伐して欲しいんです!」


 どうやら最近村の近くにオークの群れがやってきたらしい。

 その群れを次郎衛門達に討伐して欲しい、と言う事らしい。


「オークの群れ?

 オークって確かDランク程度の魔物だったよね?

 この村で雇ってるムキ男達なら、楽勝に勝てるんじゃないの?」


 もっともな次郎衛門の疑問。

 その疑問にギルドの幹部を務めるパンダロンが解説するべく口を開く。


「確かにオークのランクはDだが、群れとなると上位種が率いてる可能性が高い。

 上位種に率いられた群れは、Cランク以上の討伐対象になるからな。

 群れの規模にもよるが、ロイド達だけでは厳しいものがあるかも知れんな」

「ロイドさん達にも討伐に関してお願いしてみたのですが、同じ事を言われてしまいました。

 討伐するのなら、最低でもCランクが20人は欲しいと」


 流石にそれなりにロイド達も場数踏んでいるだけあって、自分達の実力は正確に認識している様だ。


「20人って俺達見れば分ると思うけど2人しか居ないんだけど?」

「ロイドさんから、パンダロン様はBランク冒険者様である聞きました。もしパンダロン様が協力して頂けるのならば、何とかなるだろうと言っていました」


 つまりロイド達は自分達だけではオークを殲滅出来ない。

 彼等にとって、このまま村に留まり続けるという事は危険なのである。

 しかし、村の警備依頼を受けてこの村に雇われている以上、無責任に放り出す事も出来ない。

 そんな時にやってきた次郎衛門達を何とか引き込もうという魂胆で、次郎衛門達の情報を少女に流し、その話を聞いて少女がこの場にやってきたという事らしい。

 尚、何故に次郎衛門よりも弱いパンダロンの情報だけが少女に渡っているのかと言えば、無名の次郎衛門よりも、ランクの高いパンダロンの情報の方が少女を炊きつけやすいからという理由だと思われる。

 ムキ男達も今まで死なずに冒険者を続けてきただけはあり、完全なバカという訳ではなかったっぽい。


「確かに、ここに居る面子ならば、オークの群れだろうと、上位種だろうと、遅れをとる事はないだろうが、生憎と俺はリーダーじゃないんでな。

 受けるかどうかはそっちの眼つきの悪い男次第だな」


 パンダロンは肩を竦めながら次郎衛門の方をみる。

 てっきりパンダロンがリーダーだと思い込んでいた少女は驚きの表情をしながら次郎衛門の方をみる。

 実年齢はともかくとして、見た目が二十歳に届くかどうかといった次郎衛門がリーダーだとは思わなかったようだ。


「こ、これは失礼致しました。

 我が村を救うと思って受けて頂けないでしょうか?」


 慌てて次郎衛門に謝罪しつつも、改めて依頼をする少女。

 次郎衛門は少し考える素振りをした後に口を開く。


「うーむ。

 情報が少ないなぁ。

 とりあえず今分ってる事を全部教えてくれよ」

「それもそうですね。

 先週位から狩人や採集に出かけた人がオークを見かけるようになったんです。

 最初は群れから逸れたオークだと思ってたんですけど、二日前に村の周囲の見回りをしていたロイドさん達が50匹以上のオークの群れを見たらしいんです」


 それを聞いてパンダロンが顔をしかめる。


「拙いな。

 50匹以上となると、確実にハイオークが混じってるぞ。

 下手したらオークキングまで居るかも知れん」


 ハイオークはCランクなのでまだしも、オークキングは最低でもBランクの魔物であるらしい。

 経験を積み、力を付けたものならば、単体でもA以上になる非常に厄介な魔物であえう。

 Aランクにまで力を付けたオークキングに率いられた群れの討伐は、Sランクの依頼になっても可笑しくはない。

 そこまで事態が進行していた場合、もはや並みの冒険者の手に負えるレベルの問題ではない。

 騎士団が出動するレベルの大事件である。


「今の話からすると、相当難易度の高い依頼になりそうだよな。

 討伐を請け負うとしても、この村に報酬を支払える余裕があるとも思えんけども?」


 そんな次郎衛門の言葉。

 無常な言葉であるように聞こえるかも知れないが、

に少女は顔色を青ざめさながらも縋りつく様に懇願する。


「確かに充分な報酬をお約束する事は出来ないかも知れません……

 ですが、どうかお願いします!

 私達に出来る事なら何でもしますから!」

「あ!

 馬鹿!

 ジローの前でそう言う事を言っちゃダメよ!」 

「まじで!?

 まじで何でもするの?」


 やはりと言うべきか、当然と言うべきか、何でもという部分に異常に食いつく次郎衛門である。


「は、はい。討伐完了がキチンと確認された後なら……」

「ほむほむ。一応念の為に確認するけど、この依頼や報酬については村長も承知しているって事だよな?

 後からお嬢ちゃんが勝手にした事で、報酬なんか払わないとか言い出したりしないよな?」

「!? そ、それは……」

「やっぱり、しらばっくれる気だったか」


 少女はオーク退治だけさせて報酬を支払わないつもりでいたっぽい。

 今回の話はギルドを通してはいない。

 つまり、正規の依頼ではないという事だ。

 ギルドを通した依頼ならば、報酬の踏み倒しなど、出来る筈もないが、モグリの依頼という事ならば、何とでもなると思っていたのだろう。

 そんな次郎衛門の言葉に、少女は青ざめたままの表情で口を開く。


「ごめんなさい!

 でも、私達で出来る事なら本当に何でもしますから!

 お願いです!

 助けて下さい!」

「お嬢ちゃん。あのな?

 このパンダのおっさんはこう見えても、ラスクの街のギルドで幹部をやってるんだよ。

 つまり、ここで俺達を騙せたとして、更にオークの脅威を取り除いたとしてもだ。

 この村はこの先、永久にギルドに睨まれ続ける事になるんだぞ?

 その事をキチンと理解してるのか?」

「その通りなんだが。

 こう見えてもってのは余計だろ」


 パンダロンが何か文句を言っているものの、次郎衛門の言う通りだ。

 冒険者の国とも呼ばれるドルアーク王国ではギルドと国は密接な繋がりを持っている。

 もしギルドの幹部相手に詐欺を働いた場合、ギルドだけでなく国をも敵に廻すと言う事に等しい。

 次郎衛門にここまで言われて、漸く少女は次郎衛門達を騙すと言う事が村にとってどれだけ致命的な事になるのかを理解した様だ。

 ブルブルと震え涙を零し始める少女。


「ご、ごめんなさい……

 私、そんなつもりじゃ……」


 少女は自分の仕出かした事の恐ろしさに泣いてしまい、それ以上言葉が出てこないらしい。


「まだギリギリセーフだから安心しな。

 とりま、お嬢ちゃんじゃ話にならんから、村長のところへ案内してくれよ」

「ひっく。ひっく。分りました……」


 泣きじゃくる少女を宥め、村長の元へと向かう次郎衛門達なのであった。

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