3話 引越しの準備!?
「まあ、移住するのは良いとして、今すぐって訳じゃないよな?
記憶から消えちゃうとは言え、俺なりに別れの挨拶とか仕事の引継ぎとかしときたい。
特に仕事は、人1人がいきなり消えたんじゃ、職場の連中がたまったもんじゃないしな。
それに色々準備して持って行きたい物もあるし」
と、次郎衛門が神に言う。
確かに次郎衛門のいう事は尤もである。
「まあ、多少の時間なら待つがの。
あと、こちらの世界の物をあちらへ持って行くのは、何でもOKという訳にはいかぬぞい?
特に機械類は、問答無用でNGじゃよ」
確かに、こちらの世界のバランスをとる為に異世界へ移住するっていうのに、未知の文明の利器で、移住先の世界のバランスを壊してしまっては、本末転倒である。
「神の癖に結構ケチ臭いなぁ。
持っていきたいものは冒険で役に起ちそうなキャンプ用品一式と、後は、衣類や愛用の武器くらいだな。
出来れば神様パワーでチートっぽい性能にして欲しいかな」
仮にも神に向かっても、平気で文句をたれる次郎衛門。
メンタルは強いようだ。
サラッと、チート品を求める辺りは、ゲームやラノベから学んだ事なのかも知れない。
まぁ、貰えたらラッキーといった程度の、軽い気持ちなのだろうが。
「ハア…… どうして人間ってばそんなに欲張りで図々しいのかしら?
私みたいな美しい女神が、一緒に行ってあげるってのに、それだけじゃ不満なの?」
自分の事を美しいとか言っちゃう時点で、フィリアもかなり図々しい気もするが、そんな事は棚上げして次郎衛門に不満をぶつけるフィリアであった。
「いや、不満ってよりは不安って感じだな。
フィリアは俺の事を以前から調べて知ってたかも知れんが、俺はフィリアの事は何も知らないんだ。
それに、死ぬまで一緒に居てくれるって訳でもないんだろ?
そんな中で移住しなきゃならないんだ。
駄目元で多少要求するくらい良いじゃん。
んで、爺さん、神様パワーでなんとかなるの?」
次郎衛門の普通の人間っぽい不安の吐露。
フィリアは一瞬だけその表情に後悔の色を灯す。
そんな二人の様子を見かねた神が口を開く。
「フィリアは基本的には、お主が死ぬまで行動を共にさせるつもりじゃが…」
「まじで?
うおおおおいきなり嫁げっとおおおおおお!
しかも、御義父様から直接託されてしまった!」
「誰があんたなんかの嫁になるのよ!
向こうの世界での人間の寿命は、魔力が多いほど長い傾向にあるけど、それでも精々数百年って程度なのよ。
神々からしたらそんなの大した時間でもないわ」
「ほむほむ。って事は…… フィリアたん超年増?」
「年増って言うな!
神々の中じゃ若いほうなんだから!
次年増って言ったら、あんたを殺してすぐ帰るからね!」
「何時の日か、誰かに本当に御義父様とか……
呼ばれる日が来るのかのう……」
年齢の事を弄りだす次郎衛門に、割と本気で言い返すフィリア。
そして未来の娘の嫁入りに思いを馳せ遠い目をしだす神。
話しが脱線しまくりである。
しばらくギャーギャー騒いだ後にやっと話題は本線に戻るのであった。
「ごほん…… 持ち物に関して、その程度なら良いじゃろう。
お主が持っていく持ち物に適当になんか能力を付けて置く事にしようかの。
しかし良いのか?
お主の武器って例のあれらじゃろ?
こちらの都合で移住させる訳じゃし、ちょっとした魔剣くらいならプレゼントしてやっても良いんじゃがの」
「適当にって付けるって大丈夫なのかよ……
ってか、俺の武器は軍隊や宇宙人にも通用したんだが、魔物ってあれが通じない程強いの?
そんなの相手に戦うとか冒険者半端ねえな……」
これから向かう世界を想い、慄く次郎衛門。
軍隊はともかく、宇宙人との交戦経験があるとか、どう考えても次郎衛門も、慄かれる側である気がするは気の所為なのだろうか。
「いやいやいや!?
他の者があれで戦うのなら、自殺以外の何ものでもないが、お主なら下級の魔物くらいなら楽勝じゃ!!
ただもっと良い武器であれば、ドラゴンとだって渡り合えちゃったりするかもしれんのじゃよ? 」
死が身近にある世界でも、何故あれで戦おうとするのか、理解に苦しむといった表情で神は言う。
「ねぇ、あれって何よ?
凄く不安になるんだけど、転移して早々に死亡エンドとかやめてよね。
私の経歴に汚点が付いちゃうじゃない!」
次郎衛門が死んだら、フィリアは帰って来れる筈なのに、こんな事を言い出す辺り、本当は異世界生活を楽しみにしているのかもしれない。
「フィリアたんを、いきなり未亡人にするつもりはないから安心してちょ。
最初から無双も悪くないけどさ。
どうせなら成長する過程も楽しもうぜ。」
そう言って、ニヤリと悪人顔で笑う次郎衛門。
本人は会心の笑顔のつもりだろうが、一般人が居たら即通報もの笑みである。
「誰が未亡人よ!
……私は神だからあんたと違って最初から強いけどね。
あんたは精々死なないように頑張りなさいよ」
ちょっと偉そうに言い放つフィリアだったが、それを聞いていた神がフィリアにとって衝撃発言をぶっ放す。
「いや、フィリアの神としての力はかなり制限するぞい?
お前に神の力をバンバン使われたら、世界のバランスが狂うじゃろうが。
修行にもなるしの、頑張ってきなさい」
「そんなぁ……」
言われてみれば当然である。
しょんぼりと肩を落とすフィリアであった。
そして、次郎衛門は出発に向けて、色々準備をし始める。
向こうに着いて、すぐに食料を入手出来る保証もない。
こっちの食べ物も、もう食べれないとなると結構辛いものがあるし、保存食以外にもすぐに食べられるものをコンビニで買って持って行くべきか。
買うと言えば、こっちに預金残していっても意味はないし、貴金属でも買って持って行くべきだろうか。
などと、考えながら準備を進める次郎衛門なのであった。
そして次郎衛門とフィリアの旅立ちの日が来た。
鈴木次郎衛門の毎日がファンタジーな異世界ライフがいよいよ幕を開けるのであった。