46話 鉱山へ向かおう!?
鉱山に出発する当日。
ラスクの街の門には、次郎衛門、フィリア、アイリィ、パンダロン、支部長、サラ、そして何故かゲコリアスや辺境伯まで居たりする。
「何だか見送りが多いな。てか、何でゲコリアス達まで居るんだ?」
「何を仰いますか。
ジロー先生の新たなる英雄伝の幕開けの日に、先生の教え子たる私が、付いて行くことが許されないのは無念でありますが、見送りに来るのは当然でありましょう」
既に依頼は達成するものとして話すゲコリアス。
彼の次郎衛門に対する信頼は、崇拝を超えて最早盲信と言っても過言ではないかも知れない。
次郎衛門が死ねと言えば、本当に死にかねない勢いである。
まぁ、次郎衛門がゲコリアスを始末したくなったら、実はボタン一つで爆発四散して果てるので、命令するまでもないのだが。
「俺は出来れば、見送る側に回りたかったよ……」
一方、強制的に監視員に大抜擢されたパンダロンの表情はかなり暗い。
だが、そんなパンダロンに満面の笑顔を貼り付けた支部長が声を掛ける。
支部長の腹立たしい事この上ない笑顔に、パンダロンのコメカミ辺りがヒクヒクと痙攣しているようにも見えなくも無い。
まだ出発すらしていないというのに、パンダロンのストレスはマッハ状態である。
「まぁ、そう不貞腐れるな。
無事に帰ってくる事が出来たなら、成否を問わず最低でもAランクに昇進出来るんだ。
そう悪い話でもあるまい?」
Aランク冒険者といえば、王族ですらも一目置くと言われるほどである。
ドルアーク王国では下手な貴族よりも、余程その地位や名声は高いと言える。
だが、その話を聞いてもパンダロンの表情は冴えない。
それもその筈、成否を問わず最低でもAランクにと言う事は、生きて帰る事が出来たら、Aランクに昇進であり、死んでしまったら名誉の戦死扱いで二階級特進。 Sランクという扱いなのだ。
ぶっちゃけ死んでしまったら、幾らランクが上がっても意味が無い。
そしてSランクの依頼と言うのは伊達じゃない。
とってもリスキーな依頼なので、パンダロンの表情が暗いのも当然なのだ。
「まあ、そんあ辛気臭い顔すんなって。
俺は依頼達成度100%の男なんだぜ?
おっさんは大船に乗ったつもりで、居りゃ良いんだよ」
「うるせぇよ!
確かに達成度は100%かも知れんがな!
毎度大問題を起こしやがって。
お前等、巷で何て呼ばれてるのか知ってるか?
悪夢王だぞ! あぐ!???」
自信満々の次郎衛門。
だが、むしろパンダロンはSランクの依頼に監視員として付いて行く事よりも、次郎衛門と行動を共にする事の方が不安であるらしい。
そんな往生際の悪いパンダロンを、フィリアが後ろから股間を蹴り上げ黙らせる。
「パンダロンって会う度に小物感が増して行くわね。
あんたどうせ脇役なんだから、脇役らしく目立たないように黙ってなさいよ」
声もなく崩れ落ちたパンダロン。
辛辣な言葉を容赦なく投げつけるフィリア。
この女、実は女神ではなく鬼なのではなかろうか。
確かに彼は脇役ではある。
だが、脇役だから黙れと股間を蹴飛ばされるとか理不尽この上ない扱いだ。
結局、出発するまでにパンダロンは復活しなかったので次郎衛門が運ぶ事になったのだが、背負うのが面倒だったっぽい。
結局、パンダロンは足を持って引きずられるという、何とも哀れな運ばれ方をされる事になるのであった。
「ジローさん、無理しないで下さいね。
ジローさん達が帰って来なかったら、孤児院の子供達が悲しみますから……
そ、それに私も悲しみますから…… ね?」
ほんのり頬を染めながら言うサラ。
サラの頭をクシャっと撫でつつ次郎衛門が口を開く。
「心配してくれてありがとん。
まだ、サラちゃんのおっぱいは、先っぽだけしか堪能してないしな。
先っぽ以外も堪能するまでは絶対に死なないから安心してちょ」
ちょっと良い感じの雰囲気が台無しである。
まぁ、辛気臭い雰囲気での旅立ちもこの男には似合わない。
これぐらいで丁度良いのか知れない。
「ハァ……
ホントにジローさんはブレませんね。
こういう時は、カッコいい台詞言うものですよ。……
でも、そういう事なら、この先も絶対に触られない様にしないといけませんね」
「げっ。やっぱ今の無しで!
今すぐおっぱい触れなかったら依頼失敗で死んじゃうかも!」
「ふふっ。ダメです。
旦那様でもない人に触らせるつもりはありません」
クスクスと笑いながら茶化す様に言うサラ。
だが、次郎衛門はへこたれない。
「ほむ。つまり旦那様になってくれたらいくらでも揉ませてあげるよってアピールか。中々面白い提案だね」
「え!? そんなつもりで言ったんじゃ……」
いきなり飛躍して曲解し始める次郎衛門。
サラが焦った様子で訂正しようとするが……
そんなサラに、皆まで言うなといった風情で、掌を向ける次郎衛門。
そしてクヮっと目を見開き力強く口を開く。
「だが、断る!
何れサラちゃんの方から、胸を触って欲しいと懇願してくるぐらいの男になってみせる!」
それは男らしくきっぱりとした拒絶だった。
別にサラに告白された訳でもないのに、勝手に盛り上がってしまってる姿は素晴しく滑稽である。
「ハァ……
もう何でも良いですよ。
ちゃんと無事に帰って来て下さいね」
何故か次郎衛門に振られたっぽい感じになったサラ。
微妙な表情でため息混じりといった雰囲気だが、それでも次郎衛門の無事を願ってくれているっぽい。
ひょっとしたら、本当の女神はフィリアではなく、この娘なのかも知れない。
少なくとも、フィリアより、女神に相応しい性格である事は間違いないだろう。
「何時までも遊んでないで、さっさと出発するわよ」
「あいおー。それじゃ行ってくるね」
何時までも出発しそうにない状況に、ご立腹であるらしい。
苛々した様子で急かすフィリア。
ようやく次郎衛門はパンダロンを引きずり、歩き始めるのであった。




