45話 S級依頼!?
ある日の朝食中。
唐突に次郎衛門が切り出した。
「なぁ、フィリアたん。
ちょっと、支部長から頼まれた依頼があるんだけどさ」
「私の立場はジローのサポートって事になってるんだから、余程非常識な依頼じゃなければ、反対はしないわ。
ま、ジローの場合は、どんな依頼でも非常識になるんだろうけど。
それでどんな依頼なのよ?」
中々に酷い言い草であるが、フィリアの言い分はもっともだったりする。
何せ、普通に何の問題も起こさずに依頼を完了出来るのは、子守くらいのものなのだ。
「支部長に聞いたんだけどさ。
百年以上前に、魔物が発生して閉鎖された鉱山があるらしいんだよ。
その鉱山の解放依頼ってのが、ずっと未解決で残ってるって訳。
んで、その魔物ってのが特殊な金属生命体で、貴重な金属を体内で精製して貯め込む性質があるって話だ」
「つまり支部長は、貴重な金属を出汁にして、ジローに解放依頼を受けさせようって訳ね」
「まぁ、そこは何とも言えないなぁ。
難易度は流石に百年以上未解決なだけあって、Sランク依頼だってさ」
「そんな依頼、普通はCランク冒険者には、受けさせないんじゃないの?」
「それがどうやら、王都の馬鹿貴族共の差し金っぽいんだよな。
Sランクのドラゴンを従えられるなら、Sランクの依頼でも達成出来る筈だ。
とか言う訳の分らん理屈らしいぞ?
とりま、フィリアたんがOKなら受けるかもって言っといた」
本当は断ろうとした次郎衛門であったが、次郎衛門達がラスクの街に住み着いてからというもの、支部長の髪がどんどん減って逝ってるだとかで、何だか断り辛かったっぽい。
確かに次郎衛門みたいな問題児が所属してるとなると、それを管理する側の苦労は計り知れないだろう。
支部長の毛も減って当然である。
そんな支部長の滅び行く頭髪からのプレッシャーに負け、依頼を引き受けてしまっても仕方の無い事なのかも知れない。
「貴族連中もしつこいわね。
いっその事、アポロ達を率いて貴族連中を徹底的に屈服させた方が、早いんじゃないかしら」
「フィリアたんって基本的に物騒だよなぁ。
アポロを使ってのどっきりも面白かったけどさ。
同じネタを何時までも引っ張るのは二流のやる事だぜ?
それにドラゴンの力借りなくても、俺達はやるんだって所見せないとあいつ等は、この先もずっと難癖吐けて来るに決まってる。
だから、俺達の実力を思い知らせてやろうぜ」
相変わらず女神とは思えない発言をするフィリア。
普段の発言だったり、タ○リ神にジョブチェンジしたり、といった所を鑑みると、フィリアが実は邪神とか魔神だとかと言われても、やっぱりそうだったのかと受け入れてしまいそうだ。
そんなフィリアに対して、独自の理論を展開し始める次郎衛門。
確かに普通のネタなら、一度受けたからと言って、そのネタを何度もこれ見よがしに振り回せば、効果は薄れる一方だろう。
だが、キング・オブ・ファンタジーと言っても過言ではないドラゴンを、ネタ扱いする次郎衛門の頭のネジのぶっ飛び具合も、如何なものかと思わなくもない。
「もし、依頼達成が不可能だったりしたら、どうするのよ?」
「元々Sランクの依頼なんて無理ゲーって事で、特にペナルティーはないらしい。
精々馬鹿貴族共が喜ぶ位なんじゃないか?」
「その手の馬鹿は、付け上がらせると際限なく調子に乗るんだから、依頼受ける以上は絶対に成功するわよ」
「フィリアたんってば、気合充分だな。
それじゃ、詳しい話をギルドに聞きにいこうぜ!」
ギルドに着くと、詳しい話を聞く為にサラに声を掛ける次郎衛門。
「サラちゃん、やっほーい。
例の依頼の詳しい説明をして貰っても良いかな?」
「ジローさん、こんにちわ。
例のと言うと閉鎖鉱山の解放依頼ですよね。
危険な依頼ですし、無理に受けなくても良いんですよ?」
どうやらサラは、次郎衛門達がこの依頼を受けるのは、反対の様である。
100年以上も放置せざるを得なかった超絶難易度の依頼を、まだ冒険者になって数ヶ月という冒険者キャリアからみてみれば、まだまだ新人域である次郎衛門達に受けさせるのは、ギルド職員として思うところがあるようだ。
「心配してくれるとは、サラちゃんからの愛をヒシヒシと感じるなぁ。
でも、無理そうなら空間転移で逃げるから多分大丈夫だよ」
返事を返し、徐にサラの頭を撫で始める次郎衛門。
サラは下手に抵抗した方が酷い目に遭うと学習したっぽい。
恥ずかしそうにしながらも、特に抵抗もせずに撫でられる。
そんな二人を周囲を、冒険者達が羨ましそうに、というか、八代先まで呪いそうな勢いで見つめている。
圧倒的に男の比率が多い冒険者達にとって、ギルドの女性職員に潤いを感じているものが多いのである。
それがサラのような、もふ可愛い少女となれば、尚更だ。
「ジローさん達なら、心配するだけ無駄だって気分になってきちゃいましたよ。
それでは詳しい説明をしますね。
鉱山はこの街から3日程、歩いた距離にあります。
放置されてから100年以上も経っており、問題となった金属生命体の他にも、亡くなった冒険者や討伐隊の兵達が、スケルトン化して彷徨っているとの事です。
依頼達成の条件は、金属生命体の排除となっております。
スケルトンや他の魔物達が居たとしても、その排除は依頼条件にはなっていません」
「ほむほむ。つまりは金属生命体さえ鉱山から居なくなればOKって事かな?」
「そう言う事ですね。
スケルトン位なら国でも対処出来ると言う事でしょう。
尚、この依頼に関しては、ギルドの幹部も随行する事になってます。」
どうやら、過去に依頼を受けた冒険者が、依頼を達成したと偽の報告をし、ギルドの調査隊が確認に向かったら、全く無傷の金属生命体に調査隊が全滅させられた事件があったらしい。
件の冒険者達は莫大な報酬に目が眩み、報酬を騙し取る心算だったようだが、当然の様に事が露見し全員処刑されたようだ。
それ以来、この依頼には監視として、ギルドの幹部級の冒険者が付き添う事が決まったっぽい。
まぁ、それ以来、この依頼を受けた者が居ないので、ギルド幹部が付き添うのは今回が初めてのケースであるらしいが。
ちなみに今回の監視員は、パンダロンのおっさんである。
現時点である程度、次郎衛門達に着いていけそうなこの街の幹部は、支部長とパンダロンのみであり、Sランクと言う無理ゲーな依頼な上に、次郎衛門の監視まで行うという更に無理ゲーな仕事。
その仕事を双方が壮絶に押し付けあった結果。
決闘騒ぎにまで発展したらしい。
最終的には既に冒険者を引退している筈の支部長が、現役Bランク冒険者のパンダロンをねじ伏せ、パンダロンが監視員に就任が決まったようだ。
目撃者によると勝った支部長は素晴しい笑顔を。
負けたパンダロンは夢も希望も打ち砕かれたような顔をしていたとの事だ。
まぁ、当然だろう。
どんまい! パンダロンといった感じである。
「ま、邪魔しなければ、監視員は居ても問題ないけど、そいつが死んでも責任は取れないぞ?」
「その件に関しては監視員の自己責任になっています。
出発の予定日に関しては何時ごろにしますか?」
「依頼が依頼だけに色々と準備もしたいし、1週間後でどう?」
「1週間後でしたら、こちらの監視員の準備も充分に整うので大丈夫ですね。
万全を期して依頼を達成してくださいね!」
「それじゃ、1週間後の朝に門に集合って、監視員の人に伝えといてね」
今だかつて無い大冒険の予感に、ワクワクしながら準備に取り掛かる次郎衛門なのであった。




