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41話 次郎衛門、舐められる!?

「今日から副担任として、主に戦闘や生活態度に関する指導を行う事になったジローさんとフィリアさんです」


 ライナ先生から紹介されると、次郎衛門は生徒達に睨みを利かせながら口を開く。


「副担任のジローだ。

 世の中を舐めてるお前等に、人生の厳しさを教える為にやるよ」


 次郎衛門は自己紹介の段階から仲良くする気はないらしい。

 物凄く挑発的だ。


「ほう?

 威勢は良いが、何時まで持つかな?」

「あひゃひゃひゃひゃ!

 ゲコリアス様!

 身の程を知らぬ愚か者が(さえず)ってますがどうしやす?」

「一緒にいる女を犯っちゃいましょうぜ!」

「何あの格好、ださーい」


 生徒は好き放題言っている。

 そんな中で、ゲコリアスと呼ばれていた生徒が口を開く。


「くっくっく。

 今度のは冒険者か。

 こんなのに頼るとは親父も焼きが回ったな」


 どうやらこの生徒が、辺境伯の息子であるらしい。

 その容姿は髪こそサラサラの金髪だが、背は低く、でっぷりと太っており、かなりのブサイクだ。


「お前が馬鹿息子か、……お前本当に人間か?

 一瞬イボガエルかと思ったわ」

「ぷくく。イボガエルとはジローにしては、中々上手い事言うわね」

「何だと!? 下賎な冒険者風情が!!

 ……まぁ良い。

 副担任殿は戦闘の授業も受け持つのだとか?

 幸い午前の授業は戦闘訓練だ。

 お手並み拝見といこうじゃないか!」

「ああ。思う存分拝見するが良いさ。

 15分後にグラウンドに集合しとけよ」


 ゲコリアスが激昂しかけるが、何かを思いついたらしい。

 ジローを挑発し、次郎衛門はあえてそれに乗る。

 今ここに、次郎衛門とゲコリアス一派の熾烈な戦いの幕が開けたのである。




 などと、盛り上げてみたものの、幕は開けなかった。


 グラウンドあるのは次郎衛門と、フィリア、そしてライナ先生の姿。

 だが、生徒達の姿はない。



「ライナ先生。

 生徒が誰も来ないんだけどどういう事?」

「言い辛い事ですけど、恐らくは授業に出てくる気がないんだと思います。

 きっと、こうして待ちぼうけしてる私達を、どこからか見て笑っているのです」


 どうやら挑発だけして、やる気満々になった次郎衛門をすっぽかす作戦だったっぽい。

 流石の次郎衛門もあれ程露骨に挑発してきたゲコリアス達がボイコットを選択する事は読めなかったらしい。

 叩きのめす気満々で場に臨んでみれば、すっぽかされているとか、これは相当に恥ずかしいだろう。 


「あのガキ共!

 やってくれるじゃねーか!」


 どちらかといえば、次郎衛門は何もされていない。

 だが、あれだけ次郎衛門に挑戦的な態度を取りながら放置プレイという手段に出たゲコリアス達に怒りを燃やしたのであった。


 一方のゲコリアス達といえば。


「ゲコリアス様見ました?

 必死に平静を装ってるけど、きっと奴の内心は煮えたぎってますぜ」

「ああいった単純そうな手合いは、挑発すれば簡単に引っかかると思っていたが、その通りになったな」

「流石ゲコリアス様です!!」


 満足そうなゲコリアスと褒め称える取り巻き達。

 次はどんな嫌がらせをしてやろうか等と、ゲコリアス達が盛り上がる中、授業中だというのに校内放送が流れ始める。


「あーテステス。

 こちらジローだ。

 イボガエル君達よ。

 聞こえてるか?

 一人も授業に来ないとは、一本取られたわ。

 初戦はお前達の勝ちで良い。

 そこで俺から2回戦の提案だ。

 ルールは簡単!

 昼までに俺がお前等を全員捕まえたら俺の勝ち。

 一人でも逃げきったら、お前等の勝ち。

 一応戦闘訓練の時間だし、俺を戦闘不能に追い込む事が出来たなら、それもお前等の勝ちで良い。

 範囲はこの学校の敷地内な。

 ちなみに学校の外には逃げられないようにゴーレムを配置したから外には出られない。

 無理に出ようとすれば一生物のトラウマを負う事請合いだ。

 10分後にスタートするから精々頑張って逃げろよ」


 どうやら、生徒達が授業に出席してこないのならば、片っ端から捕獲して強制的に出席させてやろうという魂胆らしい。

 こうして、今度こそ会戦の幕というか、次郎衛門による一方的な蹂躙劇という舞台の幕が開けたのだった。


「頭の悪い冒険者らしいマヌケな提案だな。

 このまま部屋に閉じこもってしまえば、最早こちらの勝ちは確定だ。

 昼までゆっくりをマヌケが足掻くところでも、眺めて笑ってやろうじゃないか」

「流石ゲコリアス様です!」


 勝負あったと言わんばかりのゲコリアスに取り巻き達が媚を売る。

 他の生徒達もそれに追従する。

 最早勝った気でいるのだろう。


 だがしかし。


 スタート時間が訪れたと同時に、ゲコリアス達の目の前で取り巻きの一人が悲鳴を上げた。


「う、うわああ!?」


 突如、何もない空間に穴が開き、取り巻きがそこに引きずり込まれようとしていたのだ。

 引きずり込まれそうな取り巻きは、必死に手をジタバタと振り抵抗しようとしているのだが、引きずり込む力の方が強いらしい。

 抵抗も空しくみるみる引きこまれていく。


「ひ、ひぃ! た、助け―――――」


 結局、取り巻きは抗う事が出来ずに引きずり込まれた。

 ゲコリアス達はあっという間の出来事に何も出来ずにその状況見守るしか出来なかった。

 そして再び校内放送が響き渡る。


「もう理解したと思うが、閉じ篭っても無駄だぞ?

 捕まった場合は捕虜には―――――」

「ひぎゃぁあぁ!!

 もう止めてくれぇぇえぇぇぇ!!!」

「こんな感じの素敵なプレゼントを用意している。

 あと女子が捕虜になった場合……

 じゅるり。

 オラ、何かムラムラしてきぞぉ!

 クハ! クハハハハ!」


 臨時とはいえ、教師とは思えない内容の校内放送であった。

 

「そ、そういえば俺。

 ジローって冒険者の話を、父上に聞いた事があるんだ。

 何でも王宮からの命令を気に食わないからって理由で、反抗するくらい凶暴な奴だって」


 一人の生徒が呟く。

 その生徒の父の職業は騎士。

 当然の様に辺境伯の部下でもある。 


「え? 王宮からの命令に逆らっただって?」

「ああ。しかも有り得ない事に、最終的に王宮側が折れたらしいんだ」


 この話を聞いた生徒達は一気に青ざめた。

 いくらドルアーク王国が冒険者の国と呼ばれ、冒険者の発言力が高い国だとしてもだ。

 一介の冒険者風情が王宮の命令に逆らうなど、反逆罪として捕縛されても可笑しくない。

 いや、捕縛どころか即座に処刑されても可笑しくない程の大罪である。

 だが、次郎衛門は処刑どころか捕まってもいない。

 王宮ですら迂闊に手を出せない程の危険人物。

 そんな存在が自分達の敵だという事に気がついてしまったのだ。

 特に女子は、あの凶悪な顔をした男に女性としての尊厳を蹂躙されてしまうかも知れないという恐怖に襲われた。

 捕まったクラスメートの断末魔が生徒達の頭を過ぎる。


「う、うわぁあぁぁ!!

 に、逃げろおおおお!!!」

「あ、待て! 

 個々で勝手に逃げたら、個別撃破されるのが落ちだぞ!」

「いやぁあぁぁ!!」


 悲鳴だけを聞かされた事によって、過剰に膨らんだ想像が、一層の恐怖心を煽る。

 最早、ゲコリアス一派の声は生徒達には届かない。

 蜘蛛の子を散らすように、生徒達はその場から逃げ出し始めたのであった。


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