40話 次郎衛門、教師になる!?
「ジローさん、ちょっと良いですか?」
依頼を探しにギルドにやってきた次郎衛門に、声を掛けるサラ。
遂に私をモフモフして的な展開がやってきたのかと、淡い期待をした次郎衛門であるが、当然の様に違う。
「指名依頼?」
「はい。ラスク辺境伯様からジローさんに指名依頼が入ってます。
断る事も出来ますが、ギルドとしては受けて欲しいところです」
「面白そうな依頼を探しに来た所だし、丁度良いかもね。
詳しい話は、直接辺境伯に聞けば良いのかな?」
「はい。その通りです」
「受けるかどうかは兎も角として、話だけは聞いてみるか。
それじゃ、早速行ってくるねー」
「はい。いってらっしゃい」
にこやかなサラの笑顔に見送られ、辺境伯の屋敷にへと向かう次郎衛門。
フットワークの軽い男であった。
◆◆◆◆
辺境伯から指名依頼が入ったという事で、辺境伯の屋敷に話を聞きに来た次郎衛門達。
流石に領主の館というだけあって建物自体は立派だ。
だが、内装はそれ程派手ではない。
質実剛健を地で行く辺境伯らしい屋敷である。
「よく来てくれた」
「俺に指名依頼だって話だけど、詳しい事を聞いても?」
「ああ。勿論だ。
単刀直入に言おう。
ジロー殿には、この街にある唯一の学校の教師をして欲しいのだ」
「これはまた訳の分らん依頼だなぁ。
自分で言うのも何だが、俺が教師に向いてるとは思えないんだけど」
「正気なの?
ジローに教師なんて任せたら、この街の未来は滅亡以外有り得なくなるわよ」
確かにフリーダムな次郎衛門が教師などやっても、禄でもない事になるのは目に見えている。
まぁ、反面教師となって上手く行きそうな可能性も無きにも非ずだが。
ちなみにこの街の学校は小、中、高校とあり小学校は学費は掛からない。
中学は有料であるが希望者は入学出来る。
高校は騎士や学者など各分野の専門家を教育する機関である。
入学する生徒の大半は貴族や富裕層の家の子だ。
極稀に例外として、中学までの成績が優秀な生徒が特待生として学費免除で入学出来たりもする。
「ジロー殿が教師に向いているかは分らんが、今回の件に関してはジロー殿が適任なのだ」
「ん? どう言う事だ?」
「高校には教師達が手を焼く問題児グループがあるのだ。
恥ずかしながらその問題児のリーダーが我が息子のゲコリアスでな。
領主の息子である故に教師達も強く出ることが出来ずにいる。
だが、例え相手が王侯貴族であっても、容赦しないジロー殿なら私の息子であっても障害にはなるまい」
苦りきった表情で辺境伯が告げる。
「つまり辺境伯が息子の躾に失敗しちゃったから、代わりに躾けて欲しいと?」
「耳が痛いが、その通りだよ。
息子も幼い頃は私の後を継ぐべく努力をしていたのだ。
だが、息子には武人としての才能がなかった。
頭脳も馬鹿ではないが、優秀という程でもない。
一般人として生きるだけなら、それでも良かったのだろうが、辺境を預かる領主の跡取りとして期待されていただけに、周囲の落胆ぶりが大きくてな。
だが、私は息子に領主としての才能が無いとは思ってない。
幸い我が家には優秀な家臣も多い。
そういった者達の意見を良く聞き取り入れていく事が出来れば、上手くやっていける筈なのだ」
「要は甘ったれの性根を叩き直せば良いだけだろ?
クハ! 何だそりゃ!?
面白そうじゃん!
その依頼、引き受けようじゃないか!」
良い暇つぶしが出来た! と言わんばかりの笑顔の次郎衛門。
何かやらかしそうな気配がプンプンとする。
そんな次郎衛門の表情を見て、今更ながら、早まった依頼をしてしまったのではないかと、内心物凄く不安になる辺境伯なのであった。
◆◆◆◆
「あなた方が辺境伯様から御推薦のジローさんとフィリアさんですね。
どうか宜しくお願い致します」
そう言ったのは、疲れきった表情の20代前半と思わしき女性だ。
縋るように次郎衛門をみている。
「あんたが問題児クラスの担任の先生なのか?」
「他の先生方から、押し付けられてしまいまして……
あ、私は例のクラスの担任をしておりますライナです」
どうやら、一番の下っ端である彼女は、先輩教師から問題児を集めたクラスの担任を押し付けられてしまったらしい。
元々は問題児はゲコリアスとその取り巻き4名だけだったのだが、気の弱そうな新人の女性が担任になった事で、他の生徒達まで調子に乗ってしまったらしい。
とうとう学級崩壊に至ってしまったようだ。
「力づくでも何でも良いので、あの子達をギャフンと言わせてやってください!」
「おいおい。
教師とは思えない発言だなぁ。
そんなに煮え湯を飲まされてるん?」
「煮え湯なんてものじゃないですよ!
全く授業聞いてくれませんし、お尻触ってきたりしますし、このままじゃ、私の貞操も危ないんですよ!!」
「貞操の危機って、それは酷いなぁ。
先生も初めてくらいは好きな人に捧げたいだろうに」
「ええ。いつか現れる素敵な私の王子様に……
って何言わせるんですか!」
「クハハ。ごめんごめん。
でも処女なのか。
何時の日かライナちゃんだけの
お う じ さ ま が、現れると良いな!」
初めてじゃなくても通常、操というものは愛する人に捧げるものなので、初めてじゃなかったらOKみたいな次郎衛門の発言は問題があるような気もする。
一方単純な罠に引っかかってしまったライナは顔が真っ赤だ。
「そ、そんな事より、本当にあの子達を何とか出来るんですか?」
「要は奴等の高くなり過ぎた鼻っ柱を圧し折って調教しちゃえば良いんだろ?
俺に任せとけって」
自信満々に言い放つ次郎衛門。
だが、そんな次郎衛門の言葉を聞いても、ライナは不安そうである。
余程酷い目にあってきたとみえる。
「辺境伯の馬鹿息子が学級を崩壊させる問題児だったとしても。
世界を崩壊させるジローと比べたら、ミジンコとドラゴン位の差があるわ。
下手にミジンコがドラゴンに突っかかろうものなら、コッパミジンコになるだけよ」
「フィリアたん……
やっと喋ったと思ったら……
なんちゅう親父ギャグを……」
「う、五月蝿いわね!
さっさと馬鹿息子叩き潰して依頼達成するわよ!」
次郎衛門に呆れたように指摘された途端に、ボンっと効果音が出そうなほど赤面するフィリア。
確かにこれは恥ずかしいだろう。
泥酔状態のおっさんでも言わないであろうクオリティなのだ。
具体的には、初対面である筈のライナ先生ですら、うわぁって顔をしちゃっている程なのだ。
必死に誤魔化そうとしてはいるが効果はまるでないっぽい。
そんなフィリアを生温かい目で見守る次郎衛門なのであった。




