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39話 食器の可能性!?

 晴れて無事? にCランクとなり、カードの更新手続きをとった次郎衛門達。

 その待ち時間中に面白そうな依頼がないか探していた。


「なぁ、フィリアたん。

 Cランクになったからっても別にCランクの依頼じゃなくても良いんだろ?

 これなんてどうだろう?」

「食い逃げ犯の捕獲依頼?

 そんなのは街を守る警備兵の仕事じゃないの?」

「それが芳しくないらしいんだよな。

 暴飲暴食亭の親父には前に店を吹き飛ばした件で負い目があるからさ。

 受けてみない?」

「あれは不幸な事故だったとは言え、ジローの言う事にも一理あるわね。

 いいわ。その依頼受けましょ」

「んじゃ、決まりだな。カード出来たら向かおうぜ」


 次郎衛門の提案に頷くフィリア。

 フィリアにも店主に対して一応は悪い事をしてしまったという自覚はあったっぽい。と言うわけで、次郎衛門達は食い逃げ犯の確保の依頼を受ける事にしたようだ。


 強制的にリニューアルする羽目になった暴飲暴食亭。

 まだ昼前だと言うのに、中々の賑わいを見せていた。


「店主。カレー爆売れしてんじゃん。

 教えた甲斐があったってもんだな!」

「ジロー達か。そっちの嬢ちゃんに店吹き飛ばされた時は、夜逃げも考えたものだったがな。

 ジローのカレーのお陰で二号店も出せそうな勢いで笑いが止まらんわ。

 今日は何か食いに来たのか?」


 店主は満面の笑みのつもりなのだろう。

 だが、包丁を持ってニィっと笑うドワーフのおっさんという絵面は中々に怖い。


「いや、今日は仕事だな。食い逃げの捕獲ってやつ」

「おお! ジローが捕まえてくれるのか!

 ……思わず喜んでみたものの、物凄く不安なんだが。

 店を傷つけたら今度は弁償させるぞ?」

「前科があるから疑われるのは仕方ない。

 だが、今日から俺もCランクだ!

 同じ失敗は犯さんよ。

 だから詳しい経緯を教えてちょんまげ」

「ちょ、ちょんまげ?」


 心底不安そうな店主から聞きだした話を纏めると、食い逃げ犯は変装の達人であるようだ。

 なので目撃情報も役に立たず、警備兵も後手に回ってしまっているらしい。

 この店だけではなく他の店でも被害があるらしい。

 業を煮やした店がお金を出し合って、冒険者ギルドへと依頼を出したというのが今回の経緯らしい。


「ほむ。状況は分った。後は俺に任せとけば万事OKだ!」

「頼むから、もう店だけは傷つけるでないぞ……」


 自信たっぷりに言い放つ次郎衛門。

 その自信の根拠が何処から来ているのか分からないが。

 そんな次郎衛門に益々不安な気分になる店主であった。

 



 スラム、それは大抵の街に存在している。

 そしてここラスクの街にも、当然のように存在していた。

 そんなラスクの街のスラムの一角に一人の少女の姿があった。

 年の頃は12~13才。

 少々やせ細っているが、ボーイッシュといった感じで可愛いらしい。

 だが、この少女こそが、ラスクの街の飲食店経営者達を悩ませる食い逃げ犯だったりする。

 今日も変装で姿を変え、食い逃げを実行して来た所なのである。


「毎度ちょろいわね」


 その時。


「食い逃げなんてする奴はどんな奴かと思えば、素顔は中々可愛いんだな」

「!!?」


 次郎衛門が少女に声を掛けた。

 少女は一瞬驚愕の表情を浮かべたが、直ぐに背を向け逃走し始める。

 そんな少女に、次郎衛門は慌てる様子も無く落ち着いた声で語り掛ける。


「映像記録の魔道具に顔までばっちり映したから逃げても無駄だぞ。

 それでも逃げるってのなら―――――

 こっちにも考えがあるぞ?

 ここにさっきお前が店で使っていたスプーンがあるんだが―――――

 逃げたら舐める!

 お前の唾液がたっぷり付着したこのスプーンをな!

 間接キスなんて目じゃない位の勢いでしゃぶり尽くす!!」

「ひぃぃっ!!」

 

 心底ゲスい顔で言い放つ次郎衛門。

 少女は心の底から悲鳴を上げる。

 次郎衛門がスプーンを舐め尽す絵を想像してしまったのだろう。

 ブルリと身を震わせている。

 次郎衛門からスプーンを奪い取るべく踵を返し疾走する少女。


「そんな事させるか!

 スプーン返せよぉ!」

「クハハハ。

 返す?

 何言ってるんだ?

 このスプーンは店から俺が買い取った俺の所有物だ!

 つまりこれは俺の物!

 匂いを嗅ごうが、舐めようが、咥えようが、俺の勝手だ!

 っと、隙あり!」


 今にもスプーンを舐めようとする次郎衛門。

 その姿は正にゲスそのものである。

 少女は何とか阻止しようと必死に次郎衛門に飛び掛るが、スプーンを奪う事が出来ない。

 逆に一瞬の隙を突いて少女は取り押さえられてしまう。


「嫌ぁあぁぁぁ! 犯される!!」

「ちょ!?

 人聞きの悪い事言うなよ!

 ちょっと取り押さえて縛り上げただけだろ?」


 次郎衛門は確かに少女を取り押さえて縛り上げているだけだ。

 だが、次郎衛門の人相も相まっていたいけな少女無理やり犯そうとしているようにも見えなくもない。

 しかも、縛り上げ方が完全に緊縛系の縛り上げ方であり、体にロープが食い込み何ともエロい。

 こうなって来ると、むしろ少女の言い分の方が正しく聞こえちゃうから不思議なものである。

 だが、そんなもので手心を加える次郎衛門ではなかった。


「さて、少女よ。お前には2つの選択肢がる。

1.このまま警備兵に突き出される。

2.見逃す代わりに これからは俺の言う事に絶対服従する。

さて、どっちを選ぶ?」


 警備兵に突き出された場合、良くて過酷な強制労働、下手すれば死刑である。

 つまり少女の選択肢は実質的には一個しかない。

 その事実に少女は青ざめた表情で問う。


「……何をさせる気?」

「クハ! クハハハ!

 なーに難しいこっちゃないさ。

 定期的に使用済みの下着や衣類、それにスプーンとか食器を俺に寄こせ。

 こういった物に大金を払うマニアが居るんだよな」


 ニヤニヤと笑いながら言い放つ次郎衛門。

 少女の表情は青ざめたどころか土気色である。

 使用済みの下着はまだしも食器など一体何に使うつもりなのか想像するもの恐ろしい。

 ちょいとばかり、可能性が無限大過ぎやしないだろうか。


「そ、そんなの買う変態なんて……

 いる訳が……」

「いるんだなぁ、これが。

 紳士さん達、いらっしゃ~い!」


 必死に否定しようとする少女をあざ笑うかの様に声高に叫ぶ次郎衛門。 

 するとどうだろう。

 物陰から仮面舞踏会で身に付ける感じの仮面で、素顔を隠した数名の男が現れたのだ。


「美少女の使用済みスプーンが買えると聞いたんだが。

 それは本当かね?」


 リーダー格と思われる男が、次郎衛門に問いかける。

 というか、仮面で顔を隠しているものの、身に付けた鎧等の装備品から守衛のおっさんである事が丸分りだ。

 他にも、ずんぐりとした体型のドワーフは暴飲暴食亭の店主だろうし、雑貨屋の屋号が書かれたエプロンを身に着けてる男もいる。

 仮面の意味なくね? とか。

 門の警備は大丈夫なのか? とか。

 食堂を無人にして良いのか? とか。

 こんな所に居るのが般若と婆サーカーにバレたら今度こそ死ぬんじゃないか? とか。

 色々と気になる事が満載である。

 だが、次郎衛門はそれら全てをあっさりと無視して頷く。


「ああ。これがそうだ。

 証拠の記録映像もある。

 幾ら出す?」

「映像では別人の様だが?

 ふむ。変装かこれは中々……

 これぐらいでどうかね?」

「おいおい。

 安すぎるだろう。

 これぐらいは貰わないと」


 などと、交渉が白熱していく。

 その様子を見せつけられた少女。

 その表情は徐々に絶望に塗りつぶされていく。

 今はまだこの程度で済むかも知れない。

 だが、いずれはエスカレートしてそれ以上を強制される事は目に見えている。


「ごめんなさい!

 もう悪いことはしません!

 何時か弁償もします!

 だから、だから……」


 必死に懇願する少女。

 次郎衛門へと縋り付き必死に訴えるが―――――


「商売の邪魔だ!

 お前は後で可愛がってやるから、引っ込んでろ!」

 

 何の慈悲も見せずに少女を突き飛ばす次郎衛門。

 その時。

 少女に救世主が現れる。

 フィリアである。


「このゲスがぁあぁぁぁ!!」

「うぎゃぁぁあぁぁぁぁ!!」


 怒声と共に放たれた炎にこんがりと焼かれる次郎衛門。

 次郎衛門は、プスプスと煙を上げて倒れ動かなくなった。

 中々見事な焦げっぷりだ。

 良い気味である。


「ホントにこのこの男は、禄な事をしないわね。

 それで? 

 そこのあんた。

 ホントにもう悪い事はしないって約束出来るの?」

「一ヶ月位前に所属させられていた闇ギルドが潰れたの。

 やっと自由になれたと思ったのに。

 元盗賊を雇ってくれるところなんてなかった」


 少女は幼い頃に闇ギルドに拾われ、盗賊や暗殺者としての技術を叩き込まれて育ったのだ。

 だが、その闇ギルドは何者かの襲撃により壊滅してしまった。

 組織から解き放たれた少女は少女なりに、日の当たる場所で生きてみたいと頑張ってはみたのだ。

 だが、身元が不確かな彼女を雇ってくれる所等なかったと、涙を零しながら項垂れる少女。


「真っ当に働けるならもう悪事は働かんという事か?

 ならば、今日からワシの店で住み込みで働け!

 悪事などする暇も無いくらいにこき使ってやるから覚悟するんだな!」

 

 少女が声の主の方に視線を向けてみれば、そこには何時の間にか仮面を外した暴飲暴食亭の店主がいた。

 無愛想な強面ながらも、少女に救いの手を差し伸べる店主。

 つい先刻まで怪しい仮面を身に着け、美少女の使用済みスプーンに執着していた変態とは思えない程の男前っぷりである。


「本当に雇って貰えるの?」

「クドイわ!

 とりあえず今から迷惑を掛けた店に謝りに行くぞ!

 ワシも一緒に行ってやる。

 さぁ、着いて来い!」

「はい!

 あ、ありが…… とう…… ございます……

 ううっうわぁぁん!」


 店主の優しさに感謝する少女なのであった。


 


 ◆◆◆◆


 店主と食い逃げ少女が去った後。


「いつまで死んだ振りしてんのよ。

 あんたがあの程度の攻撃で倒れる訳ないでしょうに」

「あらバレてた?

 流石フィリアたん、お見通しとはね」

「普通に手を差し伸べてあげれば良いのに、あんたはいつもいつも回りくどいのよ」

「ま、闇ギルドを潰した俺が助けてやるだなんて言っても、恩着せがましいだろ?」

「結構可愛い子だったから普通に助ければ好感度上がったでしょうに。

 助けた相手に嫌われる役回りだなんてホントに馬鹿ね」

「クハハ。違いない。

 ま、俺には何時もフィリアたんが居てくれるからな。

 悪戯位ならするが、誰かを口説こうとは思わんよ。

 それにアイリィたんという娘も出来たし、家に帰れば幽霊ちゃんも居る。

 二人とも家で待ってるぞ。

 さっさと報告して帰ろうぜ!」


 何事も無かったかの様に立ち上がると、あっけらかんと笑い歩き出す次郎衛門。

 何だか気恥ずかしい事を聞かされたフィリアは、ブツクサと文句を言っているものの、少しだけ、本当にほんの少しだけ口元を緩め、次郎衛門の後に続き歩き出すのであった。

 


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