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37話 悪夢王誕生!?

 次郎衛門達は見晴らしの良い草原地帯を移動していた。


「そう言えば、支部長から昇格試験の話を聞いた日から準備してたって言ってたけど、一体何を準備してたのよ?」


 思い出した様に次郎衛門へと問いかけるフィリア。

 今回の護衛に必要そうな物は、強制参加と言う事もあって支部長から支給されている。

 フィリアの疑問はもっともだといえた。


「ああ。細工は流々仕上げを……」

「魔物だあああ!!」


 次郎衛門がどや顔で決め台詞っぽい事を言ってる最中。

 弓使いのスレイが悲鳴に近い絶叫を上げた。

 折角の台詞を決め切れなった次郎衛門はほんのり残念そうだが、そんな事は無視して一行は周囲に目を向ける。

 一行の視界に飛び込んで来たのは大量の魔物の姿だ。

 何時の間にか、数え切れない程のゾンビのような魔物の群れに包囲されていたのである。

 この状況では、現段階ではまだEランク冒険者に過ぎないスレイが悲鳴を上げるたのも仕方ないだろう。


「馬鹿な、何時の間に!?」 


 ガロンも叫ぶ。

 警戒はしていた筈なのだ。

 全くもって訳が分からなかった。


「あ、あああああ」


 その答えをキリースが見つけたらしい。

 呻き声を上げ、とある一点を指差すキリース。


 其処には悪夢のような光景が広がっていた。

 ぼこりと地面が盛り上がり、魔物が地中から這いずり出て来ていたのだ。

 一ヶ所だけではない。

 四方八方から、無尽蔵に魔物は這いずり出てきているのである。

 既に退路はない事態になってしまっている。

 魔物の姿は、人型ではあるものの、全身から瘴気を噴出しており禍々しい。

 まるで冥府の底から、生者を引きずり込む為に、亡者が這い出てきたかの様である。

 地獄というものが存在するのならば、きっとこんな光景なのだろう。

 商人のポンセはその姿を一目見ただけで失神し、3人組も既に顔面蒼白だ。

 ベテラン冒険者であるガンドですら、その表情に焦りを貼り付けていた。


「何だこの魔物は見たことすらないぞ!?

 これ程大量に魔物が湧くなんて聞いた事もない……

 チッ!

 お前達! 馬車を護衛しつつ包囲を突破するぞ!

 文字通り死ぬ気で戦えよ!

 じゃないとホントに死ぬぞ!!」

「いや、あれは……」


 決死の覚悟で魔物に飛び掛っていくガンド。

 三人組も悲壮な覚悟で武器を握る。

 何か言いかける次郎衛門だったが、ガンド達には聞こえなかったようだ。

 そして完全に無視される次郎衛門。

 


「ねぇ…… 

 ジロー?

 あれって何か見覚えあるんだけど」


 ジト目で次郎衛門に問い掛けるフィリア。


「ああ。フィリアたんの想像通りだと思うぞ。

 奴等はメイドイン俺のマンドラゴラだ。

 正確にはマンドラゴラを素体にしたウッドゴーレムで、名づけるならマンドラゴーレムと言ったところだな。

 総合力はC位はあるっぽい。

 確実に護衛する為に大量に作ってみたものの……

 ちょっと張りきり過ぎたかも知れん」


 そう言う次郎衛門は若干目が泳いでいる。

 やっちまった自覚はあるらしい。

 次郎衛門からしてみれば、護衛用に作ったゴーレムが味方から魔物認定されるのは予想外だったのかも知れない。

 だが、見ただけで精神を抉って来るような相手を味方だと言う方が無理なのである。


「どうすんのよ。この状況」

「ゴーレム達には人は殺さない様に無力化する命令を与えてる。

 まぁ、このまま見てても大丈夫だろ」


 そう言って成り行きを見守る次郎衛門。

 もしもガンド達がもう少し冷静だったならば、マンドラゴーレム達が何もせずに佇んでいる次郎衛門達に手出しをしないという事に気が付いたかも知れない。

 実際に攻撃しているガンド達にも、直接的な攻撃はしていない。

 抱きついて動きを封じようとするのみである。

 だが、マンドラゴーレムの全身から噴出す瘴気が、ガンド達から冷静さを奪い去っていた。

 必死に奮戦するガンド達は火事場の底力を発揮していると言って良いだろう。 更に己を奮い立たせる為に、気勢を張り上げる。

 何が何でもこの場を切り抜けてやる!

 そんな気概をヒシヒシと感じさせた。


 でも無理だった。


 彼らは割と呆気なく押し倒され、その上にマンドラゴーレムが山の様に積み重なって行く。

 それでもジタバタと抵抗していたので、適度に加減された精神ダメージの効果があるマンドラゴラヴォイスが炸裂して終了した。

 時間にして僅か4分の間の出来事だった。 


「ま、こうなるわな。

 マンドラゴーレム達は、皆を落とさないようにしっかり持っとくんだぞ!   よーし! それじゃ、フリスの街に向けて出発だ!」


 やがてマンドラゴーレム達が無力化したガンド達を運びはじめる。

 彼らは白目剥いて気絶してたり、自分の殻に閉じ篭ったり、ブツブツ言っていたりするのだが、特に気にする事もなくフリスの街に出発する次郎衛門なのであった。

 


◆◆◆◆



 時と場所は変る。

 此処はラスク辺境伯領の街の1つであるフリスの街。

 人口五千人程のこの世界では至って標準的な大きさの街である。

 今この街は存亡の危機に見舞われていた。

 街道の巡回に出ていた騎士が、この街に向かって見た事もない魔物の群れが(本当は次郎衛門達とマンドラゴーレム)進んで来ていると報告をして来たのだ。

 その数およそ五千。

 この街の人口とほぼ同数である。

 常駐している騎士と兵士が百二十名。

 冒険者を全部かき集めたとしても戦力は二百名に届かない。

 その上、救援を要請するべき領主の居るラスクの街の方面から押し寄せて来ているのだ。

 救援を呼ぶ事すらも絶望的である。

 住民全てを確実に逃がす時間は既にない。

 この街に治安維持の為に派遣されている騎士隊隊長は悲壮感を押し殺し、魔物を迎え撃ち少しでも避難の為の時間を稼ぐべく準備を進める。




「済まんな。

 どうやらここが我等の死に場所になるらしい」

「何言ってるんですか!

 守るべき民の為に死すは我等の誇り、何を謝る必要があるのです」


 見晴らしの良い丘の上で、これから始まる絶望的な戦いを前にそんなやり取りをする騎士隊長と副官。

 その姿には悲壮感など欠片も無い。

 ただ己が成すべき事を成そうとする男の姿があった。

 やがて魔物達の姿が見え始める。

 どす黒い瘴気が、群れ全体から立ち昇っており、見るからに禍々しい。

 その中心部には、一台の馬車があった。

 屋根の上には「クハ! クハハハハ!!」等と高笑いを上げ、岸和田だんじり祭りの大工方(屋根の上の人)の如く大はしゃぎする男と幼女の姿があった。

 更にだ。

 それを取り囲むように運動会の騎馬戦の騎馬隊の様な者も見受けられた。

 ちなみに騎馬隊の上の部分の者は人間の様に見える。

 白目を剥いていたり淀んだ目をしていたりと、生気が全く感じられない。


「あの中心の馬車にいる奴らが、この群れを操っている奴か。

 聞け! 皆の者!

 狙うは中央の馬車に乗る男と幼女だ!

 恐らく勝機は其処にしかない!!

 我に続けぇえぇぇぇ!!!」


 そう叫ぶと自ら先頭に立ち突撃を開始する騎士隊長。

 隊長に続けとばかりに、騎士と兵士、そして冒険者達も突撃し始める。

 彼らはフリスの住民の為に。

 彼等は気を失ってしまいそうな程の恐怖を乗り越えて、魔物に立ち向かった。

 しかし、大量に押し寄せる圧倒的な数の魔物の前に、一人また一人と、押し潰されて行く。

 そんな中でも騎士隊長は諦めず一心不乱に馬車を目指した。

 奮戦する姿は正に騎士の鏡。

 正に勇者そのものと言っても良い姿であった。


 でも無理だった。


 マンドラゴーレム五千体VSフリス防衛隊二百名弱との戦い。

 騎士や強制依頼で招集された冒険者はBやCランクと高い質を誇る。

 だが、全体の八割以上を占める兵士や、自ら志願して参加した冒険者達はDランクなのである。

 対するマンドラゴーレムは次郎衛門の言葉を信じるならば、Cランク相当の実力があるのである。

 双方の戦力は数の面はおろか質の面でもマンドラゴーレムが上回るのだ。

 その事から導き出される結果は、マンドラゴーレムによる一方的な蹂躙である。

 どれ程の蹂躙であったかと言えば。

 フリスの街の住民が避難する為の時間稼ぎすらも果たす事は出来なかった程である。

 新たに生気のない運動会の騎馬隊を二百名ほど追加し、マンドラゴーレム達はフリスの街に押し寄せる。


 そして当然の如く街を恐怖のどん底に落とし入れた。


「魔物が押し寄せてきたぞぉぉぉ!」

「そんな!? まだ住民は大半が残って居るのに!」

「な!? あれは迎撃に出た騎士隊長!?

 隊長と一緒に出陣した連中まで何故魔物と一緒に居るんだ?

 それにあの生気のない表情は……」

「まさか魔物に操られてしまったのか!?」

「もう無理だ……

 逃げ切れる訳がない。

 フリスの街は今日終わるんだ……」


 こんな様子でフリスの街はマンドラゴーレムに飲み込まれたっぽい。

 そして阿鼻叫喚の地獄絵図が訪れたのであった。

 尚、この事態を引き起こした張本人と言えば。


「良し!

 無事に到着だ。

 クハ! クハハハ!

 これで俺達もDランク冒険者様だぜ!」 


 と、一仕事やり終えた男の表情で満足そうだったらしい。

 余談ではあるが、前回のどっきりや、今回のフリス蹂躙事件でドルアーク王国内での悪名が高まりまくり、次郎衛門は悪夢王ロード・オブ・ナイトメアという異名で呼ばれる事になるのであった。

 こうして、多数の人にトラウマを植え付けつつ次郎衛門の昇格試験は終了したのであった。


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