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36話 昇格試験!?

 ギルドホール最上階にある支部長室。

 ドラゴン達をも巻き込んだ盛大などっきり大作戦の後日。

 再び次郎衛門達は呼び出しを受けていた。


「おいおい。支部長、俺にも世間体ってものがあるんだぞ?

 あまり頻繁に呼び出すのは勘弁して貰えないか」

「世間体など気にする様な輩は、世界を滅ぼせるようなドラゴンの群れを惜しみなくどっきりの為だけに使ったりなどしないわ!」


 次郎衛門の苦情を吐き捨てる様に却下する支部長。

 全くもってその通りである。


「んで、今日の用件は何なんだ?

 あ、ひょっとしてどっきりの映像が見たいのか?

 せっかちだなぁ。でもまだ編集は終わってないぞ?

 やれやれこれだから素人は……」


 等と、ブツブツ言出だす次郎衛門。

 ならばお前は玄人なのかと小一時間程問い詰めたい所だが、残念ながらそんな事を問う人間はここにはいない。


「そんな用で態々呼び出したりせんわ!

 むしろ消去したい悪夢だ!

 ふぅ……

 お前等にはさっさとランクを上げて貰わねば困るのだ。

 辺境伯がお前等の後ろ盾になってくださったとはいえ、肝心のお前達が何時までもEランクのままでは、王都の連中を抑え続ける事はかなり厳しいだろうからな。

 最低でもBまでは上がって貰うぞ。

 とりあえずは3日後に行われるDランク昇格試験を兼ねた護衛依頼を受けろ」


 かなり苦々しい顔で言い放つ支部長。

 次郎衛門には極力関わりたくないが、関わらなければ関わらないで余計に酷い事態に巻き込まれかねないとその表情が如実に物語っていた。

 次郎衛門は支部長の中で完全に疫病神的ポジションになっているっぽい。


「俺は急いで上げる気はなかったんだけどな。

 辺境伯のおっさんが困るってのなら受けるしかないか」

「来月にはCランク試験もあるのだ。

 頼むから依頼失敗とかするんじゃないぞ!」


 そう言う支部長の表情からはくたびれた管理職の哀愁が漂っている。

 ドッキリの後始末で余程疲れたのだろう。

 そこはかとなく白髪も増えたような気もしなくもない。

 



 昇格試験当日。


「俺は今回の試験官兼引率を行うCランク冒険者のガンドだ。

 お前等にはこれからDランク昇格試験として、ここからフリスの街まで商人の護衛任務を受けて貰う。

 日程は順調に行けば、明々後日の夕方には到着といったところだ。

 無事に依頼が達成されたとしても半人前は昇格させんから気合入れていけ!  出発は1時間後だ!

 それまでに護衛対象である商人との打ち合わせと各自の役割を決めておけよ」


 ガンドはそう言うと木陰で座り込む。

 参加した冒険者達の様子を見守るようだ。

 既に試験は始まっているという事なのだろう。

 今回の受験者は次郎衛門、フィリア、アイリィの他に3人の冒険者が参加していた。

 護衛対象の商人は2頭立ての馬車を持ってはいるが、全員が乗り込める訳でもない。

 どうやら移動は歩きになりそうだ。



 次郎衛門は護衛依頼について詳しくなかったのだが、一緒に受ける冒険者の話では、先ずは全員が集まって自己紹介をする流れらしい。 


「とりあえずお互いの自己紹介でもしましょうか。

 先ずは依頼人の私からいきますね。

 行商人をしておりますポンセと言います。

 フリスの街までの護衛を宜しくお願いしますね」


 そう言ってペコりと頭を下げるポンセ。

 中肉中背の冴えない雰囲気のおっさんである。

 続いて冒険者が口を開く。


「俺はキリース、武器は剣だ。

 普段はそっちの腐れ縁2人とパーティーを組んでいる。

 宜しく頼む」

「腐れ縁はお互い様だろう。

 俺はスレイ、弓使いだ。

 後ろからの援護なら任せてくれ」

「俺はガロン。獲物は見ての通りハンマーだ」


 どうやらこの3人組は同じ村出身の幼馴染同士であるらしい。

 後に残っているのは、次郎衛門達のみである。


「んじゃ、今度は俺達の番だな。

 俺の名は次郎衛門。ジローと呼んでくれ。

 獲物はこのピコハンだ!

 見た目はオモチャっぽいが、一応魔法武器だから攻撃力はかなりのものだと自負している」

「私はフィリアよ。

 近接戦闘も出来るけど魔法の方が得意ね」

「アイリィだよ!」

「ちょっと待て!

 なんだこの子供は!?

 まさかこの子供も連れて行くつもりか? 」


 次郎衛門、フィリア、アイリィと順番に自己紹介をしていったのだが、アイリィの番でガロンが待ったを掛ける。

 昇格試験の受験者が、見た目五歳児程度の幼女を命の危険もある護衛依頼に連れて行くなど、普通ならあり得ない。

 有り得ないというか前代未聞である。


「その子はドラゴンの化身でな。

 足手まといにはならんと思うぞ」

「!?

 それじゃ、あんた等が最近やたら噂になっている冒険者なのか!」


 どうやら次郎衛門が巻き起こす非常識が積み重なって、幾つかの噂が流れているらしい。

 まぁ、きっと流れてる噂は禄でもない噂なのだろうが。


「そんなに噂になるような程の事は何もしてないと思うんだけどな。

 ちなみにどんな噂が流れているんだ? 」

「俺が聞いたのは、特大のマンドラゴラでギルドをパニック状態にしたとか、暴飲暴食亭を吹き飛ばしたとか、極めつけはドラゴンを操って辺境伯と支部長の心を圧し折ったってのだな」

「パンダロンの旦那を秒殺したってのも聞いたぜ。」

「雑貨屋の婆さんを魔改造したって噂もあったよな。」


 3人組は口々に噂を上げていく。

 噂というか事実である。

 次郎衛門は若干目を泳がせながら口を開く。


「全部心当たりあったわ。

 でも、暴飲暴食亭吹き飛ばしたのは俺じゃなくてフィリアたんだからな」

「あれだって元はと言えば、ジローの所為でしょうが」


 ささいな罪の擦り付け合いを始めたジローとフィリア。

 そんな二人の様子を見て三人組は呆れている。

 少なくとも、これから昇格試験を受けるとは思えない程の緊張感の無さである。


「事実なのかよ。

 何だか凄い不安になってきたんだが……

 俺達も昇格が掛かってるんだから、しっかり仕事こなしてくれよ。」

「本当にしっかり護衛して下さいよ!

 私は今回の行商に失敗したら破産してしまいますから!」

 

 そんな冒険者達を見てポンセが心底不安になったらしい。

 必死に訴えかけてくる。

 受験者達は仮にここで不合格だったとしても、まだ次の機会があるのかも知れないが、行商人のポンセからしてみれば、文字通り生活が懸かっているのである。

 そりゃ、不安にもなるというものだろう。


「護衛に手を抜く心算はないぞ。

 支部長から命令された日から準備してたからな。

 でもそんなに崖っぷちなら、ちゃんと一人前の冒険者を雇えば良かったんじゃないか?」

「いえ…… 

 その、実は先日護衛をケチったら見事に盗賊に襲われてしまいまして。

 見事に一文無しになってしまったんですよ……

 何とか商人ギルドから資金を借り入れたものの、護衛にまでお金が出せずに悩んでいた所を、冒険者ギルドのガイアス支部長に昇格試験の受験者なら依頼料は格安で派遣してやると助けて頂いた次第でして……」


 今度はポンセが若干目を泳がせながら商人としてはかなりダメな事を言い始めた。

 前回護衛をケチって失敗したと言うのに、今回もまた護衛に使う資金がないとか、最早ポンセからポンコツに改名した方が良いのではないだろうか。

 少なくとも商才はなさそうだ。

 そんな商人を冒険者全員が何とも言えない表情で見つめている。


「ハイリスク・ノーリターンとか、本当にバカね」

「いや、もうここまで来るとハイリスク・ノータリーン(脳足りん)と言うべきじゃね?」

 やはりと言うべきか、案の定と言うべきか、フィリアがポンセの心を抉る言葉を吐き出し、次郎衛門が更に深く抉る。

 涙目で落ち込むポンセなのであった。

 

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