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35話 ドラゴン襲来!?

「支部長! 無数のドラゴンが街の上空に!!」


 パンダロンが絶叫にも似た大声で報告をする。

 その表情からは、余裕は一切感じられない。

 嘘を報告している訳ではないという事はよく分かる。

 そして報告の通り、街の上空には数十匹のドラゴンが咆哮しながら旋回していた。

 住民はパニックを起こしている。

 それは、当たり前だろう。

 ドラゴンなどファンタジーなこの世界においても、稀有な存在だ。

 一流の冒険者ならば、ともかくとして、一般人は一生見ることがない伝説上のモンスター。

 それが、ドラゴンなのだ。

 その光景は正に悪夢としか言い様がない。

 支部長と辺境伯の心に絶望が塗り込められていく。


「ジロー! 貴様の差し金か!!」

 

 怨嗟の篭った目で次郎衛門を怒鳴りつける支部長に、次郎衛門は心底楽しそうに笑いながら言い放つ。


「クハ! クハハハハ!!

 お前等の下らん欲の為に街が!

 そして国が滅びる!

 今、どんな気持ち?

 どんな気持ちなんだ?」


 悪魔というものが実在するのなら、今の次郎衛門こそがそれに相応しい存在と言えるかも知れない。

 その言葉に半狂乱になりながらも、辺境伯に加え支部長も必死に次郎衛門を攻撃するが―――――


 届かない。

 空間転移があらゆる攻撃を無効化しているのだ。

 目前に見据えながらも、次郎衛門との距離は果てしなく遠い。

 まるで夜空の月に向かって剣を振るっているかの如しだ。

 やがて二人の心は完全に絶望に塗りつぶされ、攻撃の手が止まる。


「クハハハ! そろそろ頃合か」


 そう言い放つ次郎衛門。

 一際大きなレッドドラゴン、つまりはアポロがギルドの訓練場へと舞い降りる。

 辺境伯は窓を開け放ちアポロに必死に語りかける。


「我々ドルアーク王国は、決して貴公等の姫君に手を出してなどないし、出す気もない!!

 怒りが納まらぬというのであれば、私の命を差し上げる!

 民の命は奪わないで頂けないか!」 

 

 辺境伯は自分の命と引き換えに民の助命を願い出た。

 そんな辺境伯をアポロは一睨みで黙らせる。

 そこにはS級モンスターとしての、たった一体でも充分に国を滅ぼせるだろうと思わせずにはいられない、圧倒的な存在感があった。

 そのアポロが大気を震わせながら喋りだす。


「我の忠告を無視し、我が娘に手を出した愚かな人間共よ!

 心して聞けぃ!!」


 その言葉に、辺境伯や支部長だけではなく、街中が固唾を飲んで次の言葉を待つ。

 今、正にこの街の命運が決まろうとしている。

 次の言葉までどれほどの時間が経ったのだろうか。

 ほんの数秒だったかも知れないし。

 数分だったのかも知れない。

 アポロの言葉を待つ人々には、永劫の時間にも感じられたのは間違いなかった。

 そして遂にアポロが口を開きゆっくりと。

 だが。

 ハッキリと。

 街中に響き渡る程の大きな声で……












「ど  っ  き  り   大   成   功!!!!!」


と、言い放ったのである。


「「え!?」」


 辺境伯と支部長が間抜けな声を上げ呆然と次郎衛門達の方を見る。

 其処には満面の笑顔を浮かべた次郎衛門達の姿があった。


「「「てってれー♪」」」


 どっきり成功した時に流れるあの効果音を次郎衛門、フィリア、アイリィの三人が見事なハーモニーで奏でる。


「「え!?」」


 まだ理解が追いついていない辺境伯と支部長。

 次郎衛門に、もう一度問うような視線を向けている。


「だからどっきりだっての。

 街を滅ぼすのも国を滅ぼすのもぜーんぶ!

 うそぴょん。

 いやぁ、大成功だったな!

 フィリアたん、撮影は上手く行った?」

「ええ。ばっちりよ!

 辺境伯と支部長のマヌケ面といったらないわ!

 最高に面白い映像が撮れたわ!

 後できっちりと編集して仕上げるわよ! 」


 フィリアが途中一言も喋らなかったのは、記録用の魔道具を使ってこっそりとカメラマンに専念していたかららしい。


「アポロにアイリィもお疲れ!

 ナイス演技だったぜ!」


「どっきりなるものの構想をジロー殿から聞かされた時には、一体何が楽しいのかと疑問でしたが。

 なるほど!

 これは癖になりそうな程に痛快ですね!

 次回があったら、また声を掛けてください!」

「パパ アイリィがんばった!

 あたまなでて! なでて!」

「そうだな。

 また機会があったら頼むわ。

 やっぱドラゴンが与えるインパクトってのは、破壊力あるよな!」


 次郎衛門はアポロに返事をしながらも、アイリィの頭を撫で、そして窓から外に向かって大声量で喋り出す。


「エキストラやってくれたドラゴンさん達と街の皆さんもお疲れ!

 皆さんのお陰で言い絵が撮れました!

 特に街の方々の悲鳴やパニックの演技は素晴しい緊迫感でした!

 後日上映会を開きますので、その時は奮ってご参加下さい!」


 次郎衛門が喋り終え手を振ると旋回していたドラゴン達は咆哮で応え、いつの間にか集まっていた住民達も拍手喝采で熱気に満ちていた。


「街の住民もグルだったのか!?

 住民が領主であるこの私を騙したのか!

 おのれ!!

 片っ端からひっ捕らえてくれる!!」


 漸く現状を飲み込むと激昂し始める辺境伯。

 まぁ、確かにドラゴン相手に自らの命と引き換えに守ろうとした住民達が実は仕掛け人だったとか怒って当然ではある。

 ちなみにエキストラやってくれた住民は、以前にサラの大告白大会の時に現れたあの謎の集団が中心メンバーである。


「おいおい。

落ち着けって、街の連中は俺が焚きつけただけなんだからあんまり叱らないでやってくれよ。

 大体、先に仕掛けてきたのはそっちだろう?」

「何の話だ?」

「アイリィを連れて帰ってから、ずっと俺を探っていただろう?

 ギルドの方に関しては登録直後からだったが、そんなのお見通しだっての。

 俺の耳は特別に良くてな。

 折角の凄腕スパイも。

 高性能な通信用魔道具も。

 会話が丸聞こえじゃ意味がないぜ」


 辺境伯にビシっと指先を突きつける次郎衛門。

 そんな次郎衛門に暫く驚愕の眼差しを向けていた辺境伯であったが。やがて力なく項垂れて呟く。


「ハハ…… 

 私は諜報の段階で君に敗れていたのだな。

 私が君を調べていると知った上で、私に感づかれる事なく、これほどの仕掛けを成功させたのか……

 こんな不甲斐ない領主では民に見限られても仕方ないか……」

「いや、それは違うぞ。

 本当は貴族共の対応次第では、辺境伯を含めて邪魔な貴族を実力行使で排除しようと思ってたんだけどな。

 辺境伯の事を調べ上げて行くうちに、街の連中が辺境伯を凄く慕ってる事が分ってな。

 急遽どっきりに作戦を変更したんだよ」


 辺境伯へと言い聞かせるように、フォローを入れる次郎衛門。


「今まで私は……

 民を守っている心算で実は民に守られていたのか……

 何と愚かで滑稽な領主であったのか」


 窓の外に集まっている住民を眺めながら搾り出すように呟く辺境伯。

 その目に涙らしきものも浮かんでいた様にも見えたが、グイっと拭い去り次郎衛門に向き直る。


「ジロー。いや、ジロー殿。

 このグロリアス・ラスクの完敗だ。

 今回の事は大変に勉強になった。

 ラスク辺境伯の名に賭けて王都の馬鹿共は私が抑える故に。

 これにてこの件は幕として頂けないか 」

「クハハ。ああ。そっちは任せる。

 大体予定通りに落ち着いたな!

 これにて一件落着ってな!」


 満足そうに笑う次郎衛門なのであった。


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