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33話 婆さん元気になる!?

 次郎衛門とフィリア雑貨屋に来ている。

 訪れた理由はお婆さんに薬を試す為にだ。

 

 ちなみにアイリィはどうしているのかと言えば、孤児院の年少組の子供達のところへと遊びに行っており、幽霊ちゃんに至っては屋敷の敷地から出られないので留守番である。


「こんちゃー」

「あら、ジローさんいらっしゃい」


 次郎衛門が雑貨屋の20代半ば位の女性に話し掛けると、女性はにこやかに微笑む。ちなみにこの女性は雑貨屋の若奥さんである。


「流石に人妻は、隠し切れない色気が何とも堪りませんなぁ」

「もう、ジローさんったら、そんな事ばかり言っていたらフィリアさんが拗ねちゃいますよ?」

「何言ってるの?

 拗ねる理由がないわ。

 余計な事を言わないで貰えるかしら?」

「あらあら、それはごめんなさいね」


 セクハラ発言をする次郎衛門をさらりとフィリアに押し付けようとする辺りは、流石は客商売といった所である。


「それで今日は何をお求めですか?」

「悪い。

 今日は買い物に来た訳じゃないんだ。

 婆さんは居るかい?」

「お義母さんなら奥の部屋に居ますよ。

 いつも有難うございます。

 足悪くしてからは塞ぎこんでる事が多かったんですけど、ジローさんが遊びに来てくれるようになってからは、少し明るくなったんですよ」

「そっか、それは良かったなぁ。

 んじゃ、奥に入らせて貰うよ」


 次郎衛門が若奥さんに断りを入れて奥の部屋に入く。

 そこには穏やかそうな笑みを浮かべた老婆が窓際で安楽椅子に揺られていた。


「よう、婆さん遊びにきたぜ!」

「あら、ジローちゃんまた来てくれたの?

 本当にいつも有難うねぇ。

 そちらのお嬢さんは彼女さんかしら?」


 気さくに声を掛ける次郎衛門。

 ニコニコと微笑みながらフィリアに視線を向ける老婆。


「フィリアたんは、彼女ってか嫁?」

「勝手に嫁にするんじゃないわよ」

「クハハ。まぁこんな感じの関係だな」

「ジローちゃんは相変わらず賑やかだねぇ」 


 老婆の問いかけに次郎衛門達はいつも通りの掛け合いを行い、そんな二人の様子を楽しそうに眺める老婆。

 一頻り雑談をし、頃合を見計らう次郎衛門。

 そして本題に入るべく口を開く。


「婆さん、最近は足の調子はどうだい?

 ちょっとは楽にはなったかい?」

「相変わらずダメねぇ……

 息子が方々から体に良いっていう物を買ってきてくれるんだけど、効果がなくてねぇ……

 もう外に出歩く事は出来そうにないねぇ……」


 どうやら足の治療は芳しくないっぽい。

 老婆は治療は諦めてしまっている様だ。

 

「そっか。芳しくないのか。

 俺は最近錬金術の勉強をしててさ。

 普通のポーションとはちょっと変った薬を作る事に成功したんだよな。

 その薬持ってきてみたんだけど、試してみないか?」

「気持ちだけ受け取っておくわ。

 普通のポーションより効果が高い薬ってとても高価なんでしょう?

 うちの雑貨の売り上げじゃとても払えないわ」


 一瞬嬉しそうな顔をした老婆だったが、そんな高価な物は使えないと首を横に振る。

 

 


「ま、これは試作品だからお金の事は気にしないでくれよ。

 一応肉体を強化する効果があるのは自分で実験済みだ。

 あと、服用すると少し酒を飲んだみたいに陽気になる。

 まぁ、どう考えても胡散臭い薬であるのは認めざるを得ないから、無理にとは言わんけど」

「普通は怪しすぎて飲まないわよね」


 確かに身元不明の男が作った薬など、胡散臭い事この上ない。

 そんな物を差し出されて、服用出来る人間が居たとしたら、御人好しを通り越してバカと断言しても良いだろう。


「でも、ジローちゃんが折角作ってくれたんだし頂こうかしら」


 どうやら、老婆はバカと呼ばれる類の人間だったらしい。

 いや、豊富な人生経験によって次郎衛門に悪意がないという事を見抜いたのかも知れない。

 老婆は次郎衛門に渡された瓶に恐る恐る口を付ける。



「あら、美味しくて飲みやすいのね」


 老婆が薬を一気に飲み干す。

 すると老婆の体を淡い光が覆い始める。


「何だか体の奥から力が湧いてくような……

 おお……

 おおお……」


 老婆は小刻みに震えながらも椅子から立ち上がる。

 その表情に苦痛は見られない。


「どうやら薬の効き目あったみたいだな!

 どうだ?

 歩けそうかい?」


 次郎衛門は薬がちゃんと効いた事に安堵の息を漏らす。

 そして老婆に歩く事が出来そうか問いかける。

 もしも歩けないのならば、この薬を更に改良しなければならない。

 だが、老婆は自らの体の変化に気を取られていて、次郎衛門の声など聞いていないようだ。


「これなら……

 今なら……

 歩…… く…… どころか憎きあの鬼嫁を討ち取る事も可能!!

 キシャシャシャ-!!!

 待っておれ!

 今、その命!

 刈り取ってくれるわ!

 キシャー!!」


 いきなり物騒な事を喚きだす老婆。

 叫ぶ姿は最早老婆というよりバーサーカーと言う方がしっくり来る。

 いや、この場合は婆サーカーと言ったところか。

 はっきり言って物騒な事この上ない。


「ほえ!?

 ちょっと婆さん落ち着けって!

 一体どうしたんだ!?」

「あんたは一体何飲ませたのよ!!」


 フィリアは薬が怪しいと睨んで、とっさに鑑定を掛ける。

 まぁ、この状況では薬以外の原因だと考える方が難しいが。

 いや、これは予め鑑定しなかったフィリアのミスだと言えるのかも知れない。

 そしてその鑑定結果がこれである。


ドーピングポーション


次郎衛門が独自の製法で作り出した肉体を強化する効果のあるポーション。

一時的に肉体を超強化するが、副作用として狂化状態にもなる。

使い処が難しいので、使用時は注意が必要なんじゃよ。



「あんたは何てものを、お婆さんに飲ませてんのよ!?

 自分で飲んで試したんじゃなかったの!?」

「あぁ…… 試したのは間違いない。

 でも、俺の作務衣って状態異常に耐性付いてただろ?

 だから狂化までいかずに、ちょっとテンション上がっただけで済んだっぽいな。

 どっちにしても、このままじゃ拙い!

 婆さんを取り押さえるぞ!」


 明らかに人格が激変した婆サーカー。

 咄嗟に取り押さえようと二人は手を伸ばすが―――――


「邪魔するな! 小童共がぁ!!」

「な!? グハァァァ!!」

「キャァアァァァ!!」


 取り押さえようと掴み掛かった二人。

 その二人を婆サーカーはいとも容易く投げ飛ばす。

 奇声を発しながら、ターゲットである若奥さんの元へ走り去る婆サーカー。

 急いで起き上がり、婆サーカーの後を追う二人。

 二人は必死である。

 不意を衝かれたとはいえ、Bランク冒険者であるパンダロンを圧倒した次郎衛門と、C級相当の実力があるとされているフィリア。

 その二人が容易く投げ飛ばされたのだ。

 もしも婆サーカーが若奥さんに到達してしまったら、血の惨劇が巻き起こる事は間違いない。

 そりゃ、必死にもなるというものである。

 

「キシャー!

 キシャキシャキシャシャー!!」

「あら、お義母さん!?

 キャァァァ!!」


 婆サーカーが奇声と共に飛び掛ろうとする!

 だが、間一髪のタイミングで次郎衛門が婆サーカーにしがみ付く。

 如何に次郎衛門といえど、自分の所為でこうなってしまった老婆に対して手荒な事も出来ないらしい。

 だが、このままではジリ貧である。


「ぬう。このままじゃ埒が明かんな……

 くそ、仕方ない。

 奥さん!

 これを飲むんだ!!」

「ちょっとジロー!?

 あんた何してんのよ!!」

 

 瓶を奥さんへと放り投げる次郎衛門。


「え?

 え??

 これを飲めば良いの?」

「ああ!

 ぐいっといってくれ!!」

「何が何だか分らないけど、分ったわ。

 これを飲めば良いのね?」


 そう言うなり、中々に見事な飲みっぷりで飲み干す若奥さん。

 直ぐに若奥さんにも淡い光が覆い始める。

 それと同時に若奥さんの表情も般若の如く変化しだす。


「フシュルルル。

 この死に損ないの老いぼれめが!!

 キッチリ冥土に送り届けてくれる!!」


 案の定、狂化状態で般若と化した若奥さん。

 当然の様に、婆サーカーと睨みあい始める若奥さん改め般若さん。


「良し!

 これで条件は五分五分だ。

 それじゃ、お互い悔いのない戦いを!

 レディ、ファイト!!」


 いつの間にか審判ポジションに納まった次郎衛門。

 凶器を隠し持ってないかをチェックし、決戦開始の合図を行う。

 今ここに婆サーカーVS般若さんの世紀の決戦の火蓋が切って落とされたのであった。


「キシャー!!」

「フシュルル、フシュルルル!!」


 ドーピングポーションの肉体強化の効果は凶悪だった。

 爪を振るえば、柱を両断し、拳を突き出せば、粘土の様に壁を抉り取る。

 店舗兼住宅である建物は凄まじい勢いで破壊されていく。

 結局、この戦いは一進一退の激しい攻防戦の末に、両者相打ちで決着するのだが、途中で帰宅した夫が激戦に巻き込まれ、肉体的にも精神的にも最も大きいダメージを負ったりしたらしい。

 尚、文字通り正面からお互いに全力でぶつかりあった事で、雑貨屋の嫁姑問題はかなり改善したといった小さな奇跡も起こったりもしたっぽい。

 結果的に婆さんの足の状況は全く改善しなかったものの、微妙に感謝される事となった次郎衛門なのであった。 



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