32話 次郎衛門薬を作る!?
無事に幽霊問題も解決? し、念願の工房を作った次郎衛門。
ある程度の依頼を受けながらも、趣味である錬金術の勉強をしたり、幽霊ちゃんにセクハラをしたり、アイリィを愛でたりと、まったりと生活していたある日の事。
「クハハ! やっと次郎衛門印の肉体強化薬が完成したぞ。
これで雑貨屋の婆さんの足も動くようになるかも知れん!」
相変わらずの変な笑い声と共に、自らの勉強の成果とも言える元気になる薬を大事そうにアイテムボックスへと仕舞い込む次郎衛門。
「ああ。前に言ってたお婆さんの話ね。
あんたって極稀に優しいわよね。
普段は本当にゲスで屑だけど」
「おいおい。フィリアたん、俺はいつも優しいだろ。
普通のポーションじゃ治らないって聞いて新薬の研究しちゃうほどの人間なんてそうはいないだろ?」
老化による不調などは通常のポーションでは治せない場合が多い。
そういった不調ですら治せるポーションもあるにはあるのだが、最低でも一般人の平均年収の10倍の値段が付く為、そう簡単に手が出る代物ではない。
ならば自作してしまえと顔見知りのお婆さんの為に、試行錯誤していた次郎衛門は確かに優しいのかも知れない。
「パパはいつもやさしいよ?
おふろでもおっぱいとかきれいにあらってくれるもん」
絶妙なタイミングで特大の爆弾放り込むアイリィ。
アイリィとしては、次郎衛門の優しさをアピールしたつもりだろう。
だが、この言い方では次郎衛門がアイリィのペタンコおっぱいに執着する弩級の変態にしか聞こえない。
「ちょ!?
何言い出すのアイリィたん!?
俺が洗ってるのおっぱいだけじゃないよね!?
普通に体も洗ってるよね!?」
これには流石の次郎衛門も焦る。
必死に身の潔白を証明しようとする次郎衛門。
「へぇ…… アイリィは、ジローにおっぱい洗って貰ってるんだぁ……」
「うん! いつもいっしょうけんめいあらってくれるんだよ!」
「幽霊である私のおっぱいだけでなく、自分の事をパパと慕ってくれる小さな子のおっぱいにまで……
ドン引きを遥かに通りこして、恐怖しか感じませんね……」
「アイリィたん、その発言は逆効果だからね!?」
最早、己ではどうにもならない事態に力なく崩れ落ちる次郎衛門である。
幼女パワー恐るべし。
「フィリアたん達が、俺の事を変態認定するならそれでも良い……
ならばせめて一太刀食らわせてやる!
うおぉぉおぉぉぉ!!
おっぱい揉ませろやああぁあぁぁぁ!!」
「きゃぁぁ!?」
開き直った次郎衛門はフィリアへと飛び掛る。
その姿は手負いの獣を連想させる程に荒々しく力強い。
床に押し倒し、その勢いのままに豊かな柔らかい双丘に手を掛けようとした正にその時。
「お願いジロー……
乱暴は嫌……
優しくして? 」
フィリアが普段とは全く違う如何にもか弱い女の子といった雰囲気で、涙ぐみながら次郎衛門へと言葉を紡いだのだ。
「!!!」
そんなフィリアの様子にすっかり動揺した次郎衛門。
一瞬で完全にその機能を停止した。
その隙を見逃すフィリアではない。
何の容赦もなく思いっきり次郎衛門の股間を蹴り飛ばす!
「○!△×?■×○▽!! 」
声にならない悲鳴を上げ悶絶しピクリとも動かなくなる次郎衛門。
そんな次郎衛門を見下し、フィリアが吐き捨てる。
「なーんて言う訳ないでしょうが!
この変態がぁ!!」
最早、完全に白目を剥いている次郎衛門に、更に容赦なく追撃を重ね始めるフィリア。
その容赦のなさは凄まじく、悪魔でももうちょっと優しいのはないかと思わずには居られない程の苛烈であった。
恐怖に慄いた幽霊ちゃん。
彼女はこの時、こう思ったという。
本当に敵に回しちゃいけないのは、フィリアの方だと。
数十分後なんとか復活し、微妙にガニマタな次郎衛門がぼやく。
「ぬう。まだバランスが悪い感じがする。
フィリアたんってば、容赦がないにも程があるぞ」
「ふん。いっそ潰れちゃえば良かったのに」
「大体雑貨屋の婆さんに薬を作ってみたって話をしていた筈なのに、何でこんな事になったんだ」
盛大にため息を吐く次郎衛門。
そんな様子を見かねた幽霊ちゃんが助け舟を出すべく話を繋ぐ。
「でもでも、ジローさんって雑貨屋さんのお婆さんの為に、今まで錬金術の勉強頑張ってたんですか?
何だかすっごく意外です」
幽霊ちゃんは次郎衛門を見直したといった雰囲気だ。
まぁ、幽霊ちゃんにとって次郎衛門の第一印象はセクハラ三昧という最低なものだった。
この状況で更に好感度を下げる方が、難しいのではないかと思わなくもない。
「いあ、婆さんの為だけって訳じゃないぞ?
俺は回復魔法得意じゃないからさ。
フィリアたんが自力で回復出来ない場合に困るからってのが一番の理由だな。
まぁ、面白いから趣味と化してる部分もあるけど」
「おおー。結局はフィリアさんの為ですかぁ。
何だかかんだ言っても、妬けちゃいますねぇ」
次郎衛門の返答に、横目でニヤニヤとフィリアを見ながら冷やかす幽霊ちゃん。
「う、五月蝿いわね!
こんな変態が欲しいんだったら、すぐにでも引き取って欲しいわ!」
「いえいえ、フィリアさんからジローさんを奪うだなんて私にはとても出来ません。
というか、隙あらばおっぱい揉みに来る様な人なんて要りません。
責任を持って、フィリアさんが管理してください」
「俺を巡って2人の女の子が争っているとか、地球にいた頃じゃ考えられない光景だなぁ」
フィリアと幽霊ちゃんの次郎衛門を巡る争い。
それを感慨深げに眺める次郎衛門。
実際の所は押し付け合いをしてるだけなので、感慨深くなる場面ではない。
いや、よく見ると次郎衛門の目に薄っすらとキラリと光る物が見える辺り、現状を正しく認識した上での現実逃避の線が濃厚だ。
「んじゃ、折角薬作ったんだし、早速婆さんの所へ持っていこうぜ」
何とか立ち直った次郎衛門。
気を取り直して雑貨屋に向かうのであった。




