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30話 新居を探すぞ!?

 アイリィも一緒に暮らし始めて数日経ったある日の事。


「なぁ、フィリアたん。

 資金もある事だし、そろそろ家でも借りるなり買うなりしてみない?」

「良いんじゃない。

 ギルドに良さそうな不動産屋を紹介して貰えないか聞いてみましょ」


 以前から話し合っていただけに、フィリアとしても特に反対もないようである。

 早速ギルドに赴き、不動産屋の情報を聞き、向かってみる次郎衛門達。


「こんちわー。家買いたいんだけど」

「いらっしゃいませ。家…… ですか?」


 対応した店員は、次郎衛門達の姿を訝しげに見る。

 次郎衛門の姿は相変わらずの作務衣であり、人相も相まってどう見ても全うな職に就いてる様には見えない。

 まぁ、これに関しては何時もの事で、仕方ない対応なのかも知れない。


「御予算は如何ほどなのでしょうか?」

「安いに越した事はないよなぁ。

 とりま、これ位かな。

 これでどの位の規模の家が買えるかな?」


 次郎衛門は金の詰まった袋を取り出す。

 そしてそのキャッシュを目にした瞬間。

 店員の態度が変化する。

 その目は獲物を狙うハンターのそれだ。


「これはかなりの大金でございますね。

 これほどの金額なら相当の豪邸まで買えるかと……

 どういった物件をご要望なのでしょうか?」

「作業場がある住居が欲しいんだよね。

 それなりに騒がしくても御近所さんに迷惑掛けないってのが理想かな」

「作業場ですか……

 御紹介出来る物件には作業場付きの物はございませんね。

 それならばいっその事、程度の良い物件を買ってから、改装してみては如何でしょう?

 こちらなどお薦めの物件ですよ?」


 そう提案して幾つかの物件の間取りを取り出す店員。 

 さり気なく予算ギリギリもしくは若干オーバーしている物件ばかりを持ってくる辺り、結構抜け目なさそうである。

 それらの物件情報を順にチェックしていく次郎衛門であるが、とある物件でその目が留まる。


「何かこの家だけ妙に安いような気がするんだけど。

 どういう事?」

「その家は曰くつきの物件でして……

 幽霊が出て住民を追い出してしまうんですよ。

 正直な話、その値段では赤字なのですが、除霊も上手く行かず、全く売れずで維持費用が嵩む一方でございまして、こちらとしては捨て値でも良いので処分したいのですよ……」


 その話を聞き、次郎衛門の目が輝きだす。

 理由はなんとなく分かって貰えると思う。


「曰くつき物件だなんて、ファンタジー物の定番じゃねーか!

 なぁ? フィリアたん!!」

「幽霊とか面倒だわ。普通の物件で良いじゃないの」


 興味津々の次郎衛門とは対照的に、フィリアは心底面倒臭そうである。

 しかし怯える様子が全くない辺り、流石は女神といったところだろう。


「ノリが悪いなぁ。

 ひょっとして、フィリアたんってば、女神なのに幽霊が怖いの?」

「!?ここここ!」


 尋常じゃ無いほど激昂するフィリア。

 激昂しすぎて何だか鶏みたいなっている。

 どうやら自尊心を激しく傷つけられて鶏冠(とさか)に来てしまったっぽい。


「おお? いきなり鶏プレイかい?

 ちょっとばかり難易度高すぎやしないか? 」

「怖い訳ないでしょうが!

 大体鶏プレイって何なのよ!

 幽霊って色々面倒なのよ。

 あいつ等は、こっちが神だと分ると、無条件に成仏させて貰えると思って我侭言い放題なんだから!」


 どうやら幽霊という存在はフィリアにとって相当鬱陶しい相手であるらしい。

 まぁ、フィリアや神の爺さんとの面識がある次郎衛門なら兎も角、普通の一般の幽霊は、神は人間を無条件に助けてくれる存在だと思い込んでいたりするのかも知れない。

 幽霊に普通の幽霊とか、普通じゃない幽霊とか、分類があるのかどうかは分からないが。


「え…… そういうのって神の仕事じゃないの?

 まさか除霊できないの? 」

「出来るわよ! 本当に失礼な奴ね!

 出来るけど、基本的にそういうのは天使達の担当なのよ。

 なのにあいつ等幽霊ときたら……」


 などと、ブツブツ文句を言い始めるフィリア。

 ひょっとしたら以前に嫌な事でもあったのかも知れない。

 というか、あったのだろう。


「なぁ、店員さん。

 その曰くつき物件の幽霊の問題を俺達が解決しても、値上げとか言い出さないよな?」

「はぁ…… お客様がお買い上げして下さるのなら、その値段で構いません。

 塩漬けの物件が捌けるのなら、有難いくらいですよ」

「良し、決まりだな!

 早速リアルお化け屋敷を探検だ!

 レッツら、ゴー!」


 そう言うや否やアイリィを肩車し、幽霊の出るという家へ疾走し始める次郎衛門なのであった。



 

 その屋敷は確かに嫌な雰囲気を醸し出していた。

 空気がどんよりとしており、何だか気温も少し低い様な気がする。

 まるで屋敷自体が人を拒んでいるようだった。



「ここがリアルお化け屋敷かぁ!

 雰囲気あるねぇ。んじゃ、早速突撃だ!」

「あ、こら。ちょっと待ちなさいよ!」


 フィリアや店員を置き去りに、アイリィを連れてドンドン中に入っていく次郎衛門。

 最早、完全に心霊スポットに肝試しに来た人である。

 そしてフィリア達が建物の中に入ろうとした時。


『ガシャーン! バキ! ドス!』


 異常な物音が聞こえてきたのだ。

 聞こえて来たのは、次郎衛門達が勝手に入って建物の奥の方からである。

 諦めたように溜息を吐く店員。

 やはり、今回も売れないのか……

 そんな店員の思いが手に取るように伝わってくる。

 だが、そんな店員の思いは次のフィリアの台詞によって一蹴される事となる。

 

「安心しなさい。

 本物の幽霊が出るのなら、あの馬鹿は確実にここを買い取るわよ」


 まぁ、そういう事である。

 幽霊も、充分にファンタジー的な存在と言える。

 そんな面白スポットを次郎衛門が見逃す訳がない。

 その証拠に。 

 

「クハハ!

 これがポルターガイストって奴か! 

 面白い!

 どういう原理なんだこれ?」


 等と、大喜びな雰囲気の次郎衛門の声が聞こえてくる始末である。


 その後も暫くは激しい物音と次郎衛門の馬鹿笑いが鳴り響いていたのだが、やがてパタリと止まる。

 そして訪れる沈黙。


「急に静かになったわね……

 あいつに限って何かあるとは思えないけど、除霊の準備くらいはしとくべきかしら……」


 フィリアが、どうするべきか悩み始めたその時である。


「ギャアアアアアアアアアアアアア!!!」

「!!!?」


 突如として絶叫が響き渡った。

 フィリアと店員は何事があったのかと、血相を変えて次郎衛門達が居るであろう奥の部屋へと駆け込む。

 そして愕然とする。


 そこには、半透明の少女がいた。

 しかも次郎衛門が関節技を極めていた。

 アイリィがその傍らで「ギブアップ? ギブアップ?」等と、幽霊に問いかけているという、非常にカオスな光景が広がっていたのだった。


「痛い痛い痛い!!

 もう何なのよ!

 この人!

 脅しが全然効かないし、何で幽霊の私に普通に触れるの!?

 痛い!

 放してってば!」


 完全に涙目になっている少女は、何とか逃れようとジタバタともがくのだが、どうにもならない。

 これ以上ないという位に見事なくらい完璧に決まっている。

 ここまでがっつり決まっていると、自力での脱出はほぼ不可能である。

 寧ろスカートが捲れ上がったりして、パンツが丸見えになっており、可哀そうな状態になっている。 


 そんな幽霊少女の関節をがっちり極めてノリノリな次郎衛門。


「幽霊も、ちゃんとパンツ履くんだなぁ。

 クハハハ!

 この角度から見えるパンツ!

 絶景かな! 絶景かな!!」

「もう嫌ああああああああああああああ!!」


 こうして幽霊が出るという曰くつきの建物に、次郎衛門の毒牙に掛かってしまい哀れな犠牲者と成り果てた、幽霊少女の悲鳴が響き渡ったのであった。



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