1話 玄関開けたら2秒で神殿!?
彼の名前は鈴木次郎衛門。
変な名前ではあるが現代日本に生まれた日本人である。
身長170cmちょいでそこそこ引き締まった体型をしている。
ボサボサ頭に三白眼。
多少の無精ひげを生やしており、非常に人相が悪い。
常に作務衣を着ており、気合を入れるときには頭にタオルを巻く等、世間的には無茶苦茶ダサい。
そんな彼は生まれもって不思議な力、魔力を身に宿していたのだ。
だが次郎衛門の居た世界は魔法の存在しない世界。
そんな世界で無自覚に魔力を行使する次郎衛門は、世界のバランスを崩壊させかねない超問題児だったのである。
この事態を重く見た神は彼の者を魔法の存在するファンタジー溢れる世界へ移住させる事にしたのであった。
鈴木次郎衛門は困惑していた。
玄関開けたらいきなり天空の神殿っぽいところだとか一体何がどうなってるんだと思わざるを得なかった。
今までそれなりに場数踏んできたつもりだったが、こんな事もあるんだなと。
とりあえず、何が起きたのか少しでも把握する為に、周囲の様子を伺っていると、少し先の壇上に白い髭の老人がいた。
「鈴木次郎衛門よ。よく来たのう。ワシはお主等の言葉で言うところの神にあたる存在じゃ。突然の事でおどろいておるであろうが落ち着いて聞い――――」
「チェンジでお願いします」
「は?」
「だからチェンジでお願いします。確かにこういう時は貫禄ある老人ってパターンも多い事は承知しています。でも俺は断固として美人だったり美少女だったりする女神様を要求します。では失礼します」
行き成りの展開に驚き戸惑う自称神の老人。
あたり前のように入ってきた玄関の扉から、そのまま帰ろうとする次郎衛門に、自称神の老人は慌てて声を掛ける。
「神からの召喚を、キャバクラや、デリヘルのシステムみたいに言わないで欲しいのじゃよ? 仕方ない…… 少し待っておれ」
神はそう言うと、何事かをぶつぶつと唱える。
するとどうだろう。
俄かに目を開けて居られない程の閃光が迸る。
そして次の瞬間には絶世の美女だと断言できる女性が現れていたのだ。
「おおおー。爺さん、やれば出来るじゃないですか! 俺はこういう若くて美人な女神様を待っていたんですよ!!」
途端に掌を返す次郎衛門。
何とも現金な男である。
「あらまあ、若くて美人だなんて照れるわね」
「そ、そうかの? 何だか急にフレンドリーな態度になったのう。ちなみにワシの自慢の嫁なんじゃよ~」
そんな次郎衛門の言葉に、女神は嬉しそうに身を捩り、神も少し照れくさそうに言う。
だが、その言葉を聞いた途端に次郎衛門の様子が変わる。
信じられない物を見たかように、女神を指差し口を開く。
「よ…… 嫁?」
「そうじゃよ?」
「ふざけるな! ぬか喜びさせやがって、誰が爺さんの嫁を紹介してくれだなんて言った!? 詐欺じゃねえか、金返せ!!!」
いきなり態度を豹変させ、怒り狂う次郎衛門。
怒りのあまりに、暴言を吐きつつも神の首を絞め始める始末なのだが、当然の事ながら、次郎衛門は金を払っていないし、別に騙されてもいない。
いっそ清清しいまでの逆切れっぷりだ。
「えええええ?
詐欺とか金返せとか酷い言われようなんじゃよ?
言葉使いも地が出てるし、不滅の存在であるワシの首を絞めても意味がな……
あ、あれ?
く、苦しい、何か体も透き通ってきたし、このままじゃワシ消滅しちゃう? 嫌じゃ~ 助けて~ 消えたくないのじゃよ~」
「あらまあ、私はお呼びじゃなかったみたいだから帰るわね~。
あ、あと夫を苛めるのは程ほどにお願いね」
そう言って、何処かへと歩きさる女神。
来た時はワープして来たのに、帰りは徒歩とか意味が分からない。
しかも、自分の旦那が消滅の危機だというのに、普通に帰っていくとか、なんとも暢気な女神も居たものだ。
必死の命乞いが功を奏したのか、それとも女神の言い分を聞き入れたのかは謎だが、首を絞める手を離し、足元に崩れ落ちる次郎衛門。
「こんな爺さんですら嫁が居るのに、俺は31歳で未だに独身とか……
俺は、出会いが欲しかっただけなのに……
この世には神も仏もいないというのか……」
まさに血涙を流しながら呟く次郎衛門のその姿は、周りから見ればこの上なく気持ち悪い。
そんな次郎衛門に、神はなんとも言えない表情をしながら話し出す。
「いや…… ワシが一応神なんじゃけど?
先ず、そのダサい格好で女子にモテたいとか論外じゃと思うんじゃよ?
まあ、それはとりあえず置いておいて次郎衛門よ。
自分でも薄々分かっているであろうがの。
お主には、この世界には存在しない魔力というものが、生まれつき備わっておるのじゃ。
そしてその魔力は、この世界のバランスを崩壊させかねない危険な代物なのじゃよ」
「うるせー爺い!
論外とか言うな!
もう一度絞めるぞ、この野郎!
ってか、魔力?
そんな力があるなんて、全く気が付かんかったけどまじで?」
今までガチで号泣してたとは思えない程の切り替えの早さで立ち直った次郎衛門は神に聞き返す。
「まじもまじ、大まじじゃ。
今までに、あれ程の事を平然と仕出かしておきながら、自覚ないとかちょっと有り得ないと思うんじゃが。
わずか5歳でツチノコ捕獲に始まり、7歳で関東最大勢力の暴走族を壊滅。
10歳で同級生を人質に取って小学校に立て篭った挙句、自衛隊と2週間に渡る激しい攻防戦を繰り広げ、15歳でとある独裁国家を制圧……
他にも数え上げたらきりがないわい。
神であるワシですら、フォローしきれない程の異常な人生なんじゃよ?」
神はじと目で次郎を見ながら更に続ける。
「正直この世界では、お主の存在は少々規格外すぎるでの。
このままでは、いつの日か本当に世界を崩壊させかねん。
お主が多少の無茶をしても、受け入れて貰えそうな……
魔法の存在する世界へと、移住してはくれんかの?」