27話 次郎衛門パパになる!?
「フィリアたん。少しは気が晴れたかい?」
「うっさいわね!
あれだけ魔法叩き込んだのに、何でそんなに元気なのよ!」
「多少のダメージは覚悟してたんだけどね。
全力で闘気を展開したから、平気だったのかな。
その所為か、魔力を結構消費しちゃったけども」
確かに次郎衛門は卵を庇っていた為に、フィリアの魔法は直撃し放題だった。 それなのに怪我らしい怪我を負ってはいないっぽい。
ゴブリン達は、一瞬で消し炭になっていたというのに、頑丈な男である。
「まぁ、分らん事考えても仕方ないか。
それはそうと、卵を死守してみたものの。
これって、どうしたら良いんだろう?」
卵をぺしぺしと叩きながら言う次郎衛門。
もしも割れてしまったら一大事だと言うのに、無用心な男である。
まぁ、一応加減はしているのだろうが。
「ちょっとやめなさいって。
割れたら――――― あら?
この卵、もう直ぐ孵化するんじゃないかしら?」
次郎衛門を注意しようとしたフィリアだったが、卵の異変に気付く。
フィリアの言葉に反応し、表情を曇らせる次郎衛門。
幾ら次郎衛門が非常識だからと言っても、流石にこのタイミングでの孵化が好ましい事ではないという事は理解しているらしい。
「え…… まじで? それってまずいんじゃね?」
「まずいわね……
卵がここにある理由が分らない以上、街に持って帰る訳にもいかないし、困ったわね」
もしこの卵が盗み出されたものであるならば、迂闊に街に持ち帰ってしまった所為で、ドラゴンが襲来などとなってしまっては目も当てられない。
「むう。ゴブリンじゃないけど、卵を食っちまうか?
証拠隠滅の為に」
次郎衛門は相変わらずペシペシと卵を叩きつつ、物騒な事を言い出すが、何かに気付いたようだ。
卵に手を置き動きを止める次郎衛門。
「む? 俺の魔力が吸われてる?
この吸われてる感覚…… 気持ち良いな。
うひひ。
癖になりそう……
もっと……
もっと吸ってくれぇぇ!!!」
「ちょっとジロー!
余計な事するんじゃないわよ!
って、きも!?
あんた、そのキモい顔を止めなさいよ!」
卵に抱きつき、恍惚の表情で魔力を吸われ続ける次郎衛門。
フィリアが止めようとするのだが、全く聞き入れない。
そのうち卵に細かいひびが入り始める。
どうやら、次郎衛門の魔力を吸収した事で、孵化の準備が完了したっぽい。
細かく入ったひびの隙間から閃光があふれ出す。
構わずに逝っちゃった表情で、卵に抱きつき続ける次郎衛門。
身の危険を感じて咄嗟に身を伏せるフィリア。
次の瞬間には、卵は桁違いの眩い閃光を放つ!
そして―――――
爆散したのである。
「うっぎゃああああああああああ!」
絶叫と共に、ボロ雑巾のように吹き飛ばされる次郎衛門。
ちなみに警戒していたフィリアは間一髪、回避したようだ。
「痛たたた。異世界の卵は電子レンジを使わなくても爆発するんだな」
「何馬鹿な事言ってるのよ。
あんたが卵のキャパシティ以上の魔力注ぎ込んだからでしょうが!」
「ハッ!?
卵の中身はどうなった…… ん? 」
ようやく次郎衛門はドラゴンの子供の事を思い出し焦り始めるが、ズボンを何者かが後ろから引っ張っている事に気がつく。
次郎衛門がそちらに視線を向けてみれば。
そこには5~6歳くらいの全裸幼女がいたのである。
「グハッ!?
ちっちゃいフィリアたんだと?!
可愛いすぐる!!」
次郎衛門の言うとおり、髪と目の色こそ黒であるが、その幼女の顔立ちはフィリアの面影を感じる。
フィリアが幼い頃は、恐らくこんな感じだったのだ思わずにはいられない。。
それ程までに、幼女はフィリアにそっくりだったのだ。
そんな幼女を前にし、次郎衛門は恐る恐る手を伸ばそうとする。
その時だ。
幼女フィリアが、次郎衛門を上目使いで見ながら、小首を傾げこう呟いたのだ。
「パパ?」
その破壊力たるや、抜群であった。
ボタボタと鼻血を垂らしながら幼女フィリアを抱きしめる次郎衛門。
「そうでちゅよ~
パパでちゅ…… 痛ぁ!」
「誰がパパよ!
鼻血出しながら、全裸幼女を抱きしめるとか、絵面的に完全にアウトでしょうが!」
「この愛らしさだぞ!
力の限り抱きしめて何が悪い!
何が悪いかあああ!!
あ…… 止めてぇ!
俺から幼女フィリアたんを奪わないでぇ!!」
次郎衛門は精一杯自らの正当性を主張する。
だが、その姿は誰が見てもアウトである。
フィリアは必死に抵抗する次郎衛門から幼女フィリアを奪い取る。
そしてその手に抱く。
その姿は母娘もしくは年の離れた姉妹といった感じであった。
「いい加減落ち着きなさいよ!
それよりこの娘って、状況から考えたらドラゴンの子よね……
ジローが関わると、ホントに予想外の事しか起きないわね。
ちょっとは自重しなさいよ。」
「いや、そんな事を言われても困るぞ。
おーい、お嬢ちゃん。
俺の言ってる事分るかい?」
次郎衛門の質問にコクンと頷く幼女フィリア。
産まれたてだというのに相当に頭は良いようだ。
流石はドラゴンといったところだろうか。
「おお、分るのか。
賢いなぁ。
一応聞くけどさ。
名前ってある?」
今度はフルフルと首を横に振る。
産まれたてなので当然ではあるが、やはり名前はないようだ。
「名前なしってのも色々不都合だよな。
親竜が迎えに来るまで、仮の名前付けてて良いかな?」
「好きにしたら良いんじゃない。
でも、あまり愛着が湧きすぎると別れが辛くなるわよ」
確かに、親竜が来るまでという限定で保護するならば、フィリアの言う通り、別れは辛くなるだろう。
「ドラ……
次郎衛門……
どら次郎……
良し決めた!
どらえも――――」
「アウトおおおおお!」
「なんだい、の○太君?
折角考えたってのに」
「誰がボンクラ眼鏡よ!
アウトって言ってるでしょうが!
「ブツブツ言ってた時から、嫌な予感はしてたけど!
アウトよアウト!
何でいつもいつも踏み出しちゃいけない一歩を平然と踏み出すのよ!
あんた国民的青タヌキな番組に喧嘩売ってるの!?
奴等が本気になったら、あんたどころかこの世界ごと2秒で消されるんだからね!」
「男なら例え崖の上でも前のめり。
そんな生き様を俺は目指したいんだ。」
「ばっかじゃないの!?
それを言うなら、『男なら例え溝の中でも前のめりで死にたい』でしょうが! 大体崖の上で前のめりになったら、タダの飛び降り自殺じゃないの!」
次郎衛門のボケ? にフィリアのボルテージは一気に鰻上りだ。
鰻上り過ぎて次郎衛門よりも、フィリアの方が喧嘩を売ってると思わなくもない程である。
そしてあまりの剣幕に、幼女フィリアはフィリアの元から逃げ出し次郎衛門の影に隠れてしまっていた。
「大体、この子はどうみても! 女の子でしょうが!」
「んじゃ」
「ど○みって言ったら燃やすわよ?」」
「……… あんまりイラつくと生理が遅れるぞ?」
「あんたが言うな!
イラつかせてんのはあんたでしょうが!」
フィリアのボルテージの上がりまくったツッコミ速度は、次郎衛門を完全に上回っている。
今のフィリアのツッコミ速度ならば、ひょっとしたら大気圏も突破できるかも知れない。
結局、次郎衛門は真面目に名前を考えるしかなくなったのであった。




