21話 異世界で強くなる方法!?
地面から発掘されて魔法で治療されていたパンダロン。
その口から零れ出るのはやるせない思いだ。
「クソ! 空間魔法を使いこなす化けもんが相手だとは聞いてないぞ!」
あれほど見事に地面に埋め込まれていた割りに、ちょこっと回復魔法掛けただけで元気に復活するとは、中々にタフなおっさんである。
伊達にギルド幹部やっている訳ではないっぽい。
「まだ、全然使いこなしてないけどな。
部分転移はそこそこ形になってるけど、全身転移に至ってはまだ1mくらいしか移動できないから。
大体殺す気で来いって言ったのはおっさんの方だろう?
それに結構強めに殴った筈なのに、もう元気一杯なおっさんも大概な化けもんなんじゃね?」
パンダロンの愚痴は、さも心外だと言わんばかりの次郎衛門。
「殺す気で来いと言ったのは確かに俺だがよ……
まさかまだ一匹も魔物を狩った事がない奴が、こんな規格外だとは普通思わんだろうが?」
「なんだそりゃ?
別に実戦経験が無くても、訓練してれば強くなる奴も居るだろうに。
何言ってるんだ?」
「そっか、ジローさんはこの世界での、強くなる方法をまだ知らないんですね」
サラがそう言いながらも、決して次郎衛門と目を合わせずに、強くなる方法とやらを説明し始める。
どうやら、抱きしめられた事による影響はまだ残っているらしい。
そんなサラの話を簡潔に纏めると、魔物を倒しその魔力を取り込む事によってステータス的に成長出来るという事らしい。
逆に言えば、この世界で産まれ、魔物を倒した事のない者は高くても精々総合力D+といったところらしい。
ちなみに無限に成長出来ると言うものでもなく、成長限界には個人差もあるっぽい。
「その話が本当なら、俺まだまだ強くなれるって事?」
「成長限界が来るまでは強くなれますよ。
もう既に限界に来てる可能性もありますけどね」
次郎衛門の質問に答えるサラ。
「そう言う訳で、本当のド新人が総合力Bの俺より強いってのは、通常なら在り得ないんだよ。
そっちの嬢ちゃんも最初からC+の力があるんだろ?
お前達の居た世界では、お前達みたいなのがゴロゴロしてるものなのか?」
何だか疲れた表情で、パンダロンの問いに答えるべく口を開くフィリア。
「私とジローを一緒の括りにしないで欲しいわね。
ジローみたいなのがゴロゴロいる世界なんて在る訳ないでしょ。
コイツだけが特別異常なのよ!」
「折角勝ったってのに、何で俺が貶されてるんだ?
もっと褒めてくれても良いんじゃね?
フィリアたんやサラちゃんが、御褒美にチューくらいしてくれても良いんじゃね?」
確かに幹部相手に新人が勝ったという事は大金星だ。
期待の大物ルーキーとして扱われるべきなのである。
だが、如何せん次郎衛門の理不尽さと、ドサクサに紛れてキスを要求する図々しさ。
それらが周囲の人から素直に賞賛してやろうという気分を、削ぎ落としているという事に気がついて居ない。
馬鹿な男である。
「ハァ…… ま、良いか。いつもの事だしな」
いつもの事と言う次郎衛門。
一瞬寂しそうな表情を覗かせる。
丁度正面に居たサラは、その表情を見て何か口を開こうとしたようだが、結局は何も言い出せない。
そして次郎衛門が更に口を開く。
「んで、結局、試験結果はどうなるんだ?」
「ふん。ランクは2人ともDで良いだろう。
ジローの総合力に関しては、Bでも問題ないだろうが……
だが、総合力Bの実力者として周囲に受け入れられるかは別問題だろう。
どうせしばらくはDランクまでの依頼しか受けられないんだから、当面はDにしといた方が良いんじゃないか?」
次郎衛門に蹂躙されたとは言え、流石にパンダロンは幹部という事もあり、言う事には中々の説得力がある。
それを聞いた次郎衛門が、難しい顔で聞き返す。
「Dランクって世間的には冒険者として一人前って扱いなんだろ?」
「確かにそう見られるの部分はあるな。
だからこそ、Eランクの冒険者は半人前扱いで見られる傾向がある。
実際にはEランクの依頼もギルドにとっては馬鹿に出来ない貴重な収入源であるんだが。
そういったリスクの少ない依頼を見下している冒険者が多いのは、ギルドとしては、頭の痛いところだな」
次郎衛門の質問に答えるついでに、幹部らしい悩みもぶっちゃけるパンダロン。
「んじゃ、俺はEランクからスタートで良いわ。
総合力に関してはDって事で。
まだまだ冒険者としての知識なんて全然ないからな。
じっくり学びながらやって行く事にするよ」
普段から理不尽を振り撒いてる癖に、こういう所は妙に堅実な男である。
「それじゃ、私もEランクからで良いわよ。
どうせジローとパーティー組んで行動するんだし、私だけDでも仕方ないしね」
そう言って、フィリアもEランクからスタートを選ぶ。
「そだな。しかしフィリアたんは何だかんだ言っても俺に合わせてくれるよな。ありがとん」
自分の我がままに対して、付き合ってくれるフィリアに素直に礼を言う次郎衛門。
「ふん。腐れ縁が切れるまでは、一緒に居るしかないから仕方なく…… よ。
感謝しなさいよ!」
「クハハハ。フィリアたんはやっぱツンデレさんだな」
「誰がツンデレなのよ。
あまり調子に乗るとまた燃やすわよ」
腐れ縁が切れるまでとは、次郎衛門の寿命が尽きるまでを指す。
その事を知っている次郎衛門は、本当に嬉しそうだ。
そんな次郎衛門からの視線が居心地悪いのか、わざとらしく視線を逸らすフィリアなのであった。




