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20話 ギルド幹部、獣人パンダロン!?

 何とか再起動したサラと共に、訓練場へと辿り着いた次郎衛門とフィリア。

 そこには既に1人の男がいた。

 年の頃は40半ば。

 身長は190cm前後。

 筋肉質という程ではないが。引き締まったスリムな体型をしており、獣人であるらしく黒く丸い耳をしている。

 その立ち姿から、歴戦の勇士である事は間違いないだろう。


「遅かったなサラよ。そいつらが例の転移者か?」


 獣人の男がサラに話し掛ける。


「パンダロンさん、遅くなって申し訳ありません。

 こちらが今回試験官を務めて頂くパンダロンさんで、こちらがジローさんとフィリアさんです。

 今回はジローさんのステータスが意味不明なので、パンダロンさんに総合力を判断して貰いたいのです」


 サラがジロー達にパンダロンを紹介し、ジロー達の事をパンダロンに簡単に紹介する。

 勿論、次郎衛門達も、パンダロンも、その辺の事情は充分に承知している。

 この辺りは形式上のやり取りと言えるだろう。


「ステータスが意味不明か……

 どれ、ちょっとカード見せてみろ」


 パンダロンに言われ素直にカード差し出す次郎衛門。

 そのカードを見たパンダロン。

 思わず笑いそうになるが、何とか踏みとどまったようだ。

 ちょっとした切っ掛けで噴きそうではあるが。 



「なるほど、確かにこれは謎過ぎるな。

 良いだろう。

 模擬戦で、俺が直々に測ってやろう。

 ルールは何でもありだ。

 お前は俺を殺す気で掛かって来ても構わん。

 俺は死なない程度には手加減してやろう」


 殺す気でもOKとは、何とも大胆不敵なルールである。

 余程、自分の実力に自信があるのだろう。


「え? 何でも良いの?それじゃ遠慮なく」


 そう言うや否や。

 愛用のピコハンピコピコハンマーで問答無用にパンダロンを殴り飛ばす次郎衛門。


「な!?

 ちょ…… グア!!

 …… 

 テメェ……

 まだ開始してねえだろうが!!」

「自分で何でもありって言ったんだろう?

 何キレてんだ?

 しかし、クリーンヒットしたってのに、おっさんタフだなぁ」


 激高するパンダロンに何で自分が責められるのか訳が分らないといった仕草の次郎衛門。

 相変わらずのふてぶてしさである。


「テメェみたいな舐めた小僧は、ぶっ潰してやる!!」


 言い放つと同時に変化が現れ始める。

 上半身に毛が生え、顔の骨格も変り、とある獣の姿に変わっていく!

 その変貌に……

 声も出せずに驚愕の表情で見つめる次郎衛門とフィリアとサラ。


「グハハハ!

 これこそが、獣人族の戦闘形態である獣化だ!

 熊系獣人の中でも希少種である大熊猫の力、その身で存分に味わうが良い!!」


 声も出せずに変貌を見つめていた次郎衛門。

 そんな次郎衛門に勝ち誇った様子で言い放つパンダロン。

 数秒の沈黙の後。

 次郎衛門が小刻みに振るえだす。

 そして我慢できないとばかりに口を開く。


「クハ! クハハハ!!

 フィリアたん! サラちゃん! 

 あの姿を見てくれよ!

 あれでパンダなんだってよ!

 体格がスリム過ぎてバランス悪!!

 超気持ち悪いんだけど!!

 これがおっさんの作戦って訳か、見事に嵌っちまったぜ! クハハハハ!」


 確かに全身から毛が生え、筋肉が発達し、多少ボリュウムが増しているとはいえ、190cm位ある割には、スリムな体型であるパンダロンの姿はパンダというには少々バランスが悪い。

 パンダを無理やりに縦に引き伸ばした様な姿なのである。

 耳の形状から熊の獣人である事は予想していた次郎衛門だったが、パンダとは予想外だった上に妙にスリムボディな姿は、地球人である次郎衛門には滑稽にしか見えないようで大爆笑だ。


「コラコラ、ジロー。

 本人はカッコいいつもりなんだから、あんまり笑ったら、ププ、失礼よ。」

「そうですよ。

 ジローさん……

 笑ったら……

 しつ…… れいですよ……」


 フィリアもサラも必死に笑いを堪えている様だが抑えきれていない。

 二人とも、パンダロンからは目を逸らし、その全身が小刻みに震えていた。

 どうや、ら現地人のサラから見ても、やっぱり変な生き物に見えていたらしい。


「もう絶対に許さん! ぐおおおおおお!!!」


 てっきり次郎衛門が獣化に恐れ戦いているとばかり思っていたら、実は小馬鹿にされていたと知ったパンダロン。

 完全に逆上し全身に不思議なプレッシャーを纏い始める。


「お? なんだあれ?」

「あれは闘気ね。

 魔力で身体能力を強化する高ランク近接職が得意とする戦闘方法よ。

 つまり、あんたが普段無意識で使っている、理不尽な程の攻撃力や防御力の招待も闘気って訳よ。

 あれが使えるとなると、あのおっさんは、ホントに強いわよ。

 少なくとも、『今の』私よりは強いかも知れないわ」


 次郎衛門の疑問に、フィリアが解説を入れる。

 どうやらただの色物って訳ではなく、本当の実力者だったようだ。

 ちなみに『今の』というところを強調する辺りに、フィリアのプライドの高さが垣間見える。


「ほむほむ。つまり、本気出しても死なない程度には、強そうって事か」


 そういう次郎衛門は、かなり余裕綽々の態度である。


「ジローさん大丈夫なんですか?

 ゴブリンの討伐にすら、行けなかった位なのに」


 サラが心配そうにフィリアに問いかける。

 確かに、これまでの次郎衛門の行動を鑑みれば、サラの心配はもっともである。


「大丈夫よ、サラ。

 多分、これからすっごく理不尽なもの見せられると思うけど、気にしちゃダメよ。

 アイツは、ああいう存在なんだと知る良い機会だと思うわ」


 そう言い、肩を竦めるフィリア。

 何だかんだと言っても、結局は次郎衛門の実力は信じているようだ。

 そんな話をしている間に、パンダロンは闘気を纏い終わったらしい。


「今更謝っても、絶対に許さんからな!

 八つ裂きにしてくれるわ!!」


 その言葉と共に、パンダロンは獣化と闘気によって引き上げられた身体能力をもって、一気に次郎衛門に飛び掛る。

 次郎衛門は、パンダロンを迎撃するつもりらしく武器を振り上げていた。

 迎撃なぞ関係ないと言わんばかりに、そのまま一気に次郎衛門をなぎ倒そうとするパンダロン。

 だが、その時。

 パンダロンの頭上で『ピコ♪』という効果音が鳴り響く。

 同時にパンダロンは痛烈に地面へと叩きつけられる。


「グァ!?」


 何が起きたのか理解出来なかったパンダロン。

 大ダメージを受けながらも、パンダロンは何とか次郎衛門を見ると、其処には明らかに射程外で、再び武器を振り下ろす次郎衛門の姿あった。

 そして再び聞こえてきた『ピコ♪』という効果音と共にその意識は刈り取られてしまうのであった。


「あれは空間魔法!?

 ジローさんって、高位の空間魔法の使い手だったんですか!?」


 サラの言う通りだ。

 種を明かせば、次郎衛門は単純に振り下ろしたピコハンだけを、パンダロンの頭上に転移させていたのである。

 ちなみにフィリアは神である上に、魔法に関して天才だ。

 それ故に、空間魔法も特に難易度の高い魔法だとは思って居なかった。

 本来は初級魔法であるアイテムボックスですら、使い手のほとんど存在しない激レア系統の魔法だったりするのである。

 更に付け加えるならば、ノータイム、つまりは無詠唱での魔法の発動も、出来る者は滅多に居ない高等技術であったりする。


「クハ、クハハハ!

 これこそはフィリアたんのお尻を揉みしだきたいなーなどと、思っていたら偶然に覚えてしまった部分転移魔法なのだよ!」


 笑いながら、パンダロンを地面にピコピコと叩きつけていく次郎衛門。

 どう見ても既に決着は着いているのに容赦ない男である。

 パンダロンの上半身は、最早地面にめり込み埋まってしまっている。

 結局、パンダロンは不意打ちを食らい。

 獣化を散々馬鹿にされた挙句の果てに。

 お尻を揉みたい、ただ、その一念で、開発された魔法に完敗を喫するという。

 浮かばれないにも程がある負け方をしてしまったのである。

 浮かばれないとは言っているものの、パンダロンはギリギリで死んではない。

 だが、彼にとってはそのまま死んでしまった方が、幸せだったんじゃないかと思わなくもないもないほどに、哀れな負けっぷりである。

 そんな切な過ぎるパンダロンの敗北を目の当たりにし、益々次郎衛門から目を逸らすサラなのであった。



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