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19話 試験当日!?

 今日は、Fランク期間の最終日である。

 2人とも、条件は満たしている。

 フィリアは恐らくそのままEランクに。

 もしかしたら、Dランクになる事もあるのかも知れない。

 次郎衛門に関しては、ステータスが意味不明という事もあり、今日何らかの試験を実施する事となるらしい。

 その結果次第で、EランクにするかDランクにするか、はたまた、冒険者として不適格であるかを判断するらしい。

 普通なら、試験の内容がどんなものなのか、多少は気になったりするものであるが、次郎衛門は何時もと変らない感じに見える。


「今日ってあんたの試験なんでしょ。

 試験ってどんな内容なのかしらね?」


 どうやら本人よりも、フィリアの方が気になっているようだ。

 まぁ、次郎衛門のサポート役であるフィリアからしてみれば、自分だけ落ちるのは論外だし、その逆で自分だけ冒険者になれたところで意味もない。

 そういった意味では、フィリアの態度も当然のものという事が出来るだろう。


「総合力を知りたいみたいだったから、模擬戦でもするのかも知れんね。

 っと、これで完成だな!」


 錬金術で作りあげた怪しげな液体。

 その液体を詰めた瓶を、アイテムボックスに仕舞い込みながら、返事する次郎衛門。


「あんた、これから試験だってのに、錬金術に夢中って暢気なもんね」


 最低3件の依頼を達成するという条件を満たした次郎衛門。

 ここ数日は、宿の自室で初歩的な薬品の作成などを勉強していたのだ。

 だが、試験当日ですら錬金術を勉強しているとは、中々の熱中振りである。


「まぁ、俺は冒険はしてみたいけど、冒険者として成り上がりたい訳じゃないからな。

 冒険者ランクなんて、心底どうでも良いんだ。

 折角ファンタジーな世界に来たんだからさ。

 確かに、冒険はしてみたい。

 でも、魔法や錬金術も堪能したい。 

 要するに、この世界でしか見れない物を見てみたいんだ。

 俺にとっちゃ、どれも同じくらいロマンを感じるんだ。

 興味がないランクの事より、錬金術が優先なのは、ある意味、当然の選択だろう?」


 熱く語る次郎衛門。


「あんたはホントに馬鹿ね……

 冒険を思う存分にしたくても、ランクが低ければ立ち入る事が禁止されている場所があるのよ?

 ランクが低いと受ける事が出来ない依頼も沢山あるの。

 あんたが思うような冒険は、最低でもCランクにならないと出来ないと思うわよ?」

「え…… まじで?」

「まじよ。活動地域に制限がなくなるがCランクからだし、ダンジョンにも目安となるランク付けがあるし、まだ未攻略の高LVダンジョンになってくると、Bランク以上じゃないと入る事すらダメだった筈よ」


 フィリアが、ため息混じりに言う。

 冒険者としての初歩的な話であり、この世界では一般常識とも言える事なのだが、次郎衛門はやはり知らなかったようだ。


「げ…… そうだったのか。

 ま、焦っても仕方ないし、なるようになるっしょ」

「あんたってホントにマイペースね。

 EでもDでも、どっちにしろ暫くは冒険と言うよりは、便利屋って言った方がしっくりくる依頼しかないから、大差はないけどね」


 当面は、ダンジョン攻略や秘境探索といった夢あふれる冒険は、実績のある冒険者しか出来ない。

 結局は、やれる事をやって行こうという、今までと変わりない方針に落ち着き、2人はギルドへ向かうのだった。




「サラちゃん、おはよん。

 今日も素晴しいモフり具合だね」

「言ってる意味はさっぱり分りませんけど、お早うございます」


 サラもこの二週間で、かなり次郎衛門になれてきたようである。

 受け流し方も、かなり板について来た感じがする。


「俺って今日、試験あるんだよね? 一体何するか分る?」

「ジローさんは、訓練所で模擬戦をして貰います。

 相手はこの支部の幹部を勤めている方ですよ。

 勝てないのは仕方ないですが、ジローさんの実力を測る為の試験ですので、頑張って実力を出し切ってくださいね」

「勝てなくても良いのか、それは良かった」


 どうやら相当な手練が相手らしい。

 勝敗は問わないという言葉に安堵する次郎衛門。


「あ、でも恐ろしく手加減の下手な方なので、とりあえず死なないで下さいね! 骨折くらいなら治せるので、それ位で済むように頑張って下さい!」

「全然良くなかった!

 死なないのが試験の最低条件とか、ハードル高いにも程があるだろ!!

 異世界での初バトルが命がけとか、嫌過ぎるわ!」


 ものっそい剣幕で文句を言ったところで、相手が変る筈もない。

 先刻までのマイペースっぷりはどこに置いてきたんだという位に、テンパる次郎衛門。


「アハハハ。

 あんた何そのテンパり方。

 超笑えるんだけど。

 精々死なない様に頑張りなさい」


 そう言って笑い転げるフィリア。

 次郎衛門に結構酷い目に遭わされている彼女は心の底から嬉しそうだ。

 相変わらず焦りまくる次郎衛門を何とかサラが宥め訓練場に向かう。


「ジローさん。幾らなんでも慌て過ぎじゃないですか?

 常に冷静である事も、冒険者としては大事なんですよ?」


 その言葉を聞き動きを止める次郎衛門。

 何かしら響く事があったのかも知れない。

 そして意を決したように次郎衛門が口を開く。

 その表情は死地に向かう男だった。


「サラちゃん。落ち着く為に協力して貰えないだろうか?」

「私がですか? 私に出来る事なら……」

 

 次郎衛門が、一体何を言い出したのか分らない為に、戸惑うサラ。

 だが、根が善良である彼女は、次郎衛門の言葉に不安げながらも頷く。


「おお! まじで!? じゃ、遠慮なく!」


 そう言うや否や、次郎衛門はガシっとサラを抱きしめる。

 次郎衛門はそんなに大きな体格ではないが、小柄なサラはすっぽりとその腕の中に納まってしまっていた。

 突然の凶行に、思考が停止状態になるサラ。

 口はパクパクと何事かを発しようとしているのだが。言葉は出てきていない。


「スーハースーハー。あああああ。良い匂いだぁ。

 癒されるうううう。

 モフが五臓六腑に染み渡るうううう」


 完全にセクハラだ。

 いや、痴漢と言っても良い行為に夢中な次郎衛門。

 どうやらこれが狙いで、今までテンパった振りをしていたようだ。

 トコトンまでゲスな男である。

 一方のサラといえば、顔どころか全身が真っ赤だ。

 今にも蒸気を噴出しそうで、目の焦点もあってない状態になっていた。

 ここでやっと、イキナリな展開に呆然としていたフィリアが我に返る。

 そしてしがみ付く次郎衛門を、サラから何とか引き剥がす。


「あんたイキナリ何しでかしてんのよ!

 サラを見てみなさいよ!

 口から魂抜けて成仏し掛けてるじゃないの! 」


 確かに今のサラの様子は、成仏しそうという表現がしっくりと来る。

 最早、心ここに在らずという感じである。

 たまにピクピクっと動くケモミミが、なんとも愛らしい。


「あらま、ちょっとやり過ぎたかな。

 でもモフ神様のお陰で、俺は何者が相手であろうと勝てるような気がする!」


 あくまでも気がするだけである。

 ちょっと女の子抱きしめて強くなれるなら誰も苦労はしないだろう。


「モフ神って、この前遊んでた犬にも言ってたじゃないの。

 あっちは犬だから撫でても犯罪ににはならないけど。

 サラは年頃の女の子なんだから、いい加減にしとかないと、そのうち刺されるわよ」


 そう言えば、確かに次郎衛門は、犬の事も、もふ神様と呼んでいた。

 犬の獣人とは言え、年頃の美少女と、そこら辺の普通の犬を同様に扱ってしまうとか、次郎衛門の基準は何処か可笑しいのかも知れない。

 サラはその後に何とか再起動したものの。

 結局その日は目を合わせて話してくれなくなり、落ち込む事になる次郎衛門なのであった。



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