18話 餅つき大会開催!?
ところ変わって天界。
神は先ほどの悪戯が、思いのほか大成功だったので御機嫌であった。
「次郎衛門とフィリアの反応と言ったら、なかったわい。
まさかあんなに面白い反応をするとはのう。
これは病みつきになりそうじゃな。
さて、気分転換も出来たし、頑張って世界の管理しようかのう」
などと、独りごちている神。
だが、不意に足元に召喚の為の魔法陣が輝きだす。
「せっかく上機嫌じゃったのに。
神を召喚しようなどと言う不届き者がおるのか。
身の程を知らぬ愚か者め。
天罰を与えてくれようぞ」
だが――――――
召喚された神の目に飛び込んで来たのは。
2体の悪魔の姿であった。
「「いらっしゃーい…… 身の程を知らぬ愚か者でーす……」」
みるみる青ざめていく神の顔色。
そして―――――
「…… 間違えました。」
魔法陣から天界へ逃げようとする神。
だが、それを許す悪魔達ではなかった。
悪魔達は神を素早く捕らえる。
先ずは、神をパンツ一枚にひん剥く。
そして向かう先は地面に打ち付けた巨大な4本の杭。
その杭に、大の字に手足を縛りつけられる神。
「あの! ちょっとやり過ぎたかなって反省してたと……」
神は必死に言い訳をしようとするが―――――
それを手で制する次郎衛門。
「なぁ、爺さん。あんたも色々大変なんだろう?
神と言えどもつい魔が刺しちまう……
そんな時もあるかも知れないわなぁ……
なーに。俺もフィリアたんも、もう怒っちゃいないさ。
ただ、俺たちは今すんげー困ってるんだよ……
あんた、神様なんだろう?
困ってる俺達を助けてくれねぇか?」
芝居掛かった笑顔で言う次郎衛門。
表情は笑っているものの、その瞳に宿っているは濁った狂気。
恐怖のあまり必死に頷く神。
「間違いなく怒っとるよね?
わ、ワシに出来る事なら!
な、なんでもするから!
許して欲しいのじゃよぉ!」
「ほう…… 別に怒っちゃいねぇんだが……
何でも?
今、確かに何でもって言ったよな?
いやぁ、実はこっちの世界にも、もち米がある事を知ってるかい?
まぁ、あんたは神様だから知ってるよな?
それで、もち米ってやつを見たら、我が故郷のソウルフードである餅。
餅を、どうしても!
食べたくなっちまってなぁ。
俺がつく役で、フィリアたんが返し手役。
だが、もう一人分だけ、どうしても!
人手が足りねぇんだよ。
その役を爺さんにやって貰いたくて、わざわざこうして御足労願った訳だ。
どうだい爺さん?
一つ協力しちゃくれねぇだろうか?」
相変わらず芝居掛かった口調で、神に問いかける次郎衛門。
フィリアは神を助ける様子もなく何も言わずニコニコと微笑んでいる。
ただその笑顔がとても怖い。
当然の様にフィリアの瞳に宿っているものも狂気だ。
「な、何でもやるのじゃ!! だから……」
必死に懇願する神。
最早、天罰云々言っていた面影も威厳も、欠片ほどもない。
ただ只管に、許しを請う哀れな老人の姿がそこにはあった。
「それじゃ頼むわ」
「そ、それで…… ワシは何の役を?」
そう問う神。
次郎衛門は悪魔の笑みを浮かべ口を開く。
「 臼 」
「……え?」
「だ・か・ら!
臼がないから、臼になってくれって言ってるんだよ」
「う、臼って何!?
臼の役だなんて、サルカニ合戦くらいでしか聞いた事ないんじゃよ?
冗談じゃよね?
本気じゃないよね?」
縋るような目で必死に、次郎衛門へと訴えかける神。
「ってな訳で、始まりました!
第一回餅つき大会!
MC兼、突き手担当の、鈴木次郎衛門と」
「アシスタント兼、返し手兼、修理担当のフィリアでーっす!」
神の疑問を一切無視してハイテンションでTV番組風に喋り出す2人。
神の意向は完全に無視だ。
というか、フィリアの修理担当というワードが気になるところである。
「今回は、臼が準備出来ないというトラブルに見舞われ、まさかの開催中止になりそうだった餅つき大会でしたが!
困ってる人間は捨て置けぬ!
そんな素晴しい心意気をお持ちの神様が!
何と!
臼をやってくれる事になりました!」
「良かったですね!」
「ちょ!!? ちょっ……」
「修理担当のフィリアたんは臼が壊れない様に、しっかり修理お願いしますね!」
「はーい。任せて下さい!」
「それでは始めようと思います!餅投入!!」
容赦なく、神の腹の上に蒸したもち米を乗せる次郎衛門。
ちなみに超熱々なので、良い子の皆は、決して真似しちゃだめだぞ。
「ぎゃああああああ! 熱! 熱うううううう!?」
もち米の熱さに悲鳴を上げる神。
だが――――
その悲鳴は悪魔と化した2人には届かない。
構わずに杵を振りかぶる次郎衛門。
「せーの、よいしょ! 「ごふうう!!」」
容赦ない仕打ちに、臼は一撃で白目を剥き悶絶する。
常人ならば、即死しても可笑しくはない。
だが、フィリアが餅を返すと同時に、臼を魔法で修理させていく。
どうやら臼のメンテナンスは万全のようだ。
「ちょ! たすけ、ごふううう!!! 」
早くも息も絶え絶えな臼。
そんな臼に次郎衛門は、更なる絶望を突きつける。
「いやぁ、良かった。
フィリアたんと違って、臼には依代がいっぱいあるんだってなぁ?
うっかり壊しちゃっても、大丈夫そうだから本気でつく事が出来る!
クハ、クハハハハ!」
「手加減なんて必要ないわ!
私が、絶対に壊させはしないから、フルパワーでやりなさい!」
「おうともよ!」
心底楽しそうに笑う次郎衛門。
更に発破を掛けるフィリア。
何だかんだ言っても、2人が良いコンビになりつつあるような気がするのは、気のせいだろうか。
「もう一丁! 「ごふううう……し、死ぬう……」」
こうして悪戯の代償に、臼は強制的に修理させられ続け、気絶する事すら許されずに、餅つきされ続けたのであった。
後に。
神はこの時の事をこう振りかえる。
「ウス、ダメ、ゼッタイ」
なお、出来上がった餅は、孤児院の子供達が美味しく頂いたらしい。
こうして乾パン分裂事件から発した、餅つき大会は、大成功の内に終了したのであった。




