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17話 なにしてんだ!?

「なぁ、フィリアたん。

 今日は採集行ってみないか?」


 唐突に提案する次郎衛門。


「採集に行っても、あんた自力じゃ薬草採れないじゃない。

 それとも何?

 採れるようになったとでも言うの?」

「いあ、採れないからフィリアたん頼りでお願いします。

 錬金術で回復薬の作成に挑戦したいんだけど、今は薬草が品薄らしくてコネの無い俺には売って貰えないんだな。

 最近知り合った婆さんは足が悪いらしくてさ。

 薬を作ってやりたいんだよなぁ」


 フィリアの前方に座り、上目遣いで強請(ねだる)る様に言う次郎衛門がいる。

 本人は小動物や女の子的な可愛さを演出したつもりの様だが、ぶっちゃけヤンキー座りで絡む危ない人にしか見えない。


「そんな簡単に治るとは思えないけど、人の助けになりたいって気持ちはとても大切なものだわ……

 仕方ない、付き合ったげるから感謝しなさいよ!」


 フィリアは如何にも仕方ないと言った態度であるが、元来女神であるだけあって、人助けをしたいという話には意外と協力的なようだ。

 こうして二人は近くの森へ採集へと向かうのだった。




 ◆◆◆◆


「ふう…… 品薄って割には結構沢山採れたわね。

 これだけあれば大丈夫なんじゃないの?」


 次郎衛門に周囲を警戒させ、フィリアは採集に専念した結果。

 これだけあれば充分だろうという量を、昼過ぎには確保していた。


「そだな。フィリアたん、ありがとん。

 これで薬も作れるし、錬金術の勉強も進む。

 少し休憩したら帰ろうぜ」


 満足気にリュックから乾パンと水筒を取りだす次郎衛門。


「地球から持ってきた乾パンでもおやつ代わりに摘むかい?」


 そう言って、フィリアにも差し出す。

 昔の乾パンは、決して美味しいと言える代物ではなかったが、最近の物は結構美味しく頂けたりするのだ。


「そうね。お腹も空いたし少し貰おうかしら」


 差し出された乾パンを、フィリアも摘み始める。

 次郎衛門の差し出した物に対して、フィリアが無警戒過ぎるだろうと思うかも知れないが、その辺りはフィリアも学習済みだ。

 だが――――― 

 

「ん?」


 次郎衛門が何かに気がつき声を上げる。


「この乾パン増えてないか?」

「は? あんたは何を言ってるの?」


 そう言って、乾パンを観察し始める次郎衛門。

 釣られてフィリアも観察し始める。

 

 結論から言えば、確かに増えていた。


 増えていたというよりは、うぞうぞと動き、分裂していたと言う方が正しいのかも知れない。


「何よこれ気持ちわるっ!

 あんた一体何食べさせたのよ!」


 フィリアは得体の知れない乾パンを差し出してきた次郎衛門を攻める。

 犯人は次郎衛門と決めて掛かっている辺りに、次郎衛門への信頼の無さが見てとれる。


「普通の乾パンの筈なんだが…… 

 確かに、気持ち悪いよなぁ。

 フィリアたん、鑑定してみてくれよ」

「鑑定してみて、あんたの仕業だったりしたら、ぶっ飛ばすからね!」


 次郎衛門にも心当たりはないらしい。

 この男にしては珍しく顔色が悪い。

 まぁ、分裂する謎の乾パンなんて物を食べて、平然としてたらそれはそれで神経を疑うところだが。

 そしてフィリアが鑑定を掛ける。

 

 その結果がこれである。



乾パン


特殊効果  増殖


適当な神が、適当に付けた加護によって、増殖能力が付いた乾パン。

この増殖能力によってどんな食いしん坊でも満腹になるようになった。

増殖はアメーバっぽい分裂方式を採用しており、開封と同時に増え始める。

時間を追うごとに増殖速度は増す。

分裂速度は最終的には消化速度を上回る。

食べると最終的には腹が破裂して死ぬ。

食品業界驚愕の品なんじゃよ。



「「!?」」


 食べると死ぬ食品だとか、食品業界じゃなくても驚愕である。

 いや、食品だと言い張る事自体が驚愕である。

 確かに神は、次郎衛門の持ち物に適当に加護を付けるとは言っていたが……

 これは酷い、あまりに酷い。

 一体誰得なのだろうか。


「神の野郎!

 ま・じ・で!

 何してんだああああ!?」

「ア、アメ、アメーバがあああ!?」


 完全に錯乱状態に陥る2人。

 現在進行形で死へのカウントダウンが始まっているのだ。

 まぁ、当然といえば当然なのだろうが。


「お、落ち着けフィリアたん!

 食べたのはアメーバじゃない!

 乾パンだ!!」

「どどどどどうしてくれるのよ!

 死因が乾パンで破裂とか、嫌過ぎるわよ!!」

「だだだだから落ち着けって、とりあず吐け!

 それしか思いつかん!!」



 数十分後。


 居の中の物全てを吐き出してぐったりする2人の姿があった。

 ちなみに吐いてる描写は、作者としても読者としても、誰も喜びそうにないので割愛したっぽい。


「助かった…… のか?

 フィリアたんは無事か?」

「何とか…… 生きているわ……」


 どうやら、2人共、何とか危機は脱せたらしい。


「そういえば、フィリアたんって死んだりするの?

 神は不滅の魂があるから死なないんじゃなかったっけ?」

「確かに存在自体は不滅よ。

でも、依代よりしろは人間をベースにしてるから、基本的には人間と同じような体になっているわ。

 それに、依代はそう簡単に作れるものでもないの。

 お父様なら何体か持ってるんでしょうけど、私は、この依代が駄目になってしまったら、戻って来るのに何時になるか分からないわ」

「そっか、んじゃ、フィリアたんは、何があっても俺が守らないとな!」

「こんな街近くの森で、死に掛けてる奴が言っても、全く安心できないわね」

「クハハ。違いない。……」


 九死に一生を得て、ひっくり返りながら、他愛もない話を繰り広げる二人。

 だが、次郎衛門は、その時に何かに気が付いたっぽい。


 あれ? 鑑定のウインドウがまだ消えてない上に、何か光ってないか? 」

「え? ホントね。

 普通はすぐに消える筈なのにどういうことかしら?」


 そして2人で光ってるウインドウを覗く。

 するとどうした事か。

 鑑定結果に文が書き加えられていたのだった。


乾パン


特殊効果  増殖


適当な神が、適当に付けた加護によって、増殖能力が付いた乾パン。

この増殖能力によってどんな食いしん坊でも満腹になるようになった。

増殖はアメーバっぽい分裂方式を採用しており、開封と同時に増え始める。

時間を追うごとに増殖速度は増す。

分裂速度は最終的には消化速度を上回る。

食べると最終的には腹が破裂して死ぬ。

食品業界驚愕の品なんじゃよ。


なーんて、うっそぴょーん。

食べたら死ぬ加護なんて与える訳ないわい。

ちょっとした悪戯なんじゃよ?

いやー、笑わせて貰ったわい。

特にフィリアなんて「ア、アメ、アメーバがああああ」だってさ。

ウプププ。

最近忙しすぎてストレス溜まっておったが、良い気分転換になったわい!



「「……」」


 暫く立ち尽くす、次郎衛門とフィリア。

 フィリアに至っては、実の父からこの仕打ちである。

 どれだけ時間が経っただろうか、淀んだ目で次郎衛門がフィリアにある提案をする。


「なぁ、フィリアたん……

 俺……

 錬金術よりも、召喚の勉強をしたくなったんだが。

 教えてくれないか?」

「…… 奇遇ね。

 私もそれが良いと思ってたところよ……

 お手本を見せてあげるからしっかりと勉強しなさいよ……」


 フィリアも淀んだ目で返事をする。

 神への復讐者が、今ここに、誕生したのであった。



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