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164話 どうせ死なんだろ!?

本日7話目!

次回最終話

「我は全てを破壊へと誘う破壊の化身ジモウエ・ロン!

 破壊竜ジモウエ・ロンだああああああああああああ!」


 フィリア達の希望を踏みにじり名乗りを上げる破壊竜ジモウエ・ロン。


「そう…… なら。死になさい!」


 フィリアの放つ閃光が再び破壊竜ジモウエ・ロンを襲う。

 その攻撃を切っ掛けにアイリィや竜族、他の者達も一斉に攻撃を再開する。


 だがしかし。


「クハ! クハハハ! 効かん! 効かんぞ!

 目覚めたばかりだというのにこの力。

 この体は素晴らしいな。

 この体なら今度こそ全てを滅ぼせそうだ」


 やはりこちらの攻撃は通用しない。

 それどころか新たに手に入れた肉体に満足気な破壊竜ジモウエ・ロン。

 どうやら現時点でも封印される前よりも肉体のスペックは高いようだ。

 そんな破壊竜ジモウエ・ロンの様子に皆の心は絶望に染まってゆく。

 それでも力を振り絞り攻撃を続けていたが力も尽き攻撃の手が止まる。

 諦めムードが漂う中、只一人諦めずに立ち向かう者がいた。

 

「その声で…… その口調で!

 喋るんじゃない! 耳障りなのよ!」


 フィリアだ。

 先程を凌ぐ数の無数の数の魔法陣が浮かび上がりそれらは複雑に組み上げられ合成されていく。

 そしてそれは破壊竜ジモウエ・ロンの頭上へと展開し始める。


「ふむ。この肉体を提供してくれた礼に付き合ってやっていたのだがな。

 ならばこの茶番を終わらせるとしようではないか!」


 破壊竜ジモウエ・ロンはゆらりと両手の平を額へと移動させる。

 そして邪悪な笑みを浮かべると言い放つ。
















「ぴょんぴょんうっそぴょーん!」


 と。

 













 場に沈黙が訪れる。


「ぴょんぴょんうそぴょん?」


 再び同じ事を言ってみる破壊竜ジモウエ・ロン改め次郎衛門。


 どうやら余りの無反応っぷりに聞こえていなかったのではと不安になったらしい。

 語尾が疑問形になっている辺りに次郎衛門の不安さ加減が良く現れていると言える。

 額に当てた両手でうさぎさんの耳を表現してるっぽい。

 ちなみにフィリア達にはばっちり聞こえていた。

 その証拠に彼女等の表情からは怒りの感情が消え去っていた。

 というかあらゆる感情が抜け落ちている。

 どうせそんな事だろうと思っていた方も居たかも知れない。

 その通り、そんな事だったのだ。

 散々引っ張っておいてこの様だ。

 周囲はまるで時が止まったかのように凍りついていた。

 いや、止まってなんていなかった。

 その証拠に次郎衛門の頭上に展開されていた魔法陣は構築され続けている。


「ちょ!? フィリアたん!? 俺だって! 次郎衛門だってば!」


 次郎衛門は慌ててフィリアへと訴えるが魔法陣の構築は止まる様子は全くない。

 尚も魔法陣の構築を続けながらもようやくフィリアは口を開く。


「証拠は?」

「へ!?」

「あんたが本物のジローだっていう証拠は?」

「え? ええ!?」

「ないのね。なら―――――」

「あるよ! ありますよ! 名前だよ!

 竜族は基本的に名前持ってないって話だったろ?

『ジモウエ・ロン』って名前がある事がその証拠だって!」

 

 確かに竜族は基本的に名前は持っていない。

 若長であるアポロですら次郎衛門が名付けるまでは名がなかった事からも間違いないだろう。

 それにこの名前。

 アナグラムである。

 『ジモウエロン』→『ジロウエモン』というヒントだったらしい。

 何とも下らない小細工だ。

 だがその下らなさが帰って次郎衛門らしいのだと確信出来てしまう。

 このセンスは間違いなく次郎衛門クオリティだ。


「ねぇ。パンダロン。あんな事言ってるけど?」

「そうだな。どうせ蘇生予定だったんだろ?

 ぶっ放しちまえば良いんじゃねぇか?

 本物のジローならどうせ死なんだろ」


 フィリアはパンダロンにも意見を求めているがどうやら中身が次郎衛門本人であろう邪竜であろうとぶっ放す方向で行くつもりらしい。

 まぁ、二人の気持ちは分からなくもない。

 普通はこんな仕打ちを受けたら怒り狂って当然である。

 その間にも魔法陣の構築は続き三重構造の積層構造にまで発展している。

 だが、そんな二人の前にアイリィが立ちはだかる。


「あれは絶対にパパだよ!

 アイリィには分かるもん!」

「ア、アイリィたん! 良い子や! ほんまに良い子やでぇ!」


 健気なアイリィの言葉に思わず涙ぐむ次郎衛門。

 しかしそんなアイリィに向かってフィリアが口を開く。


「確かにアイリィの言う通りあのジローは本物なのかも知れないわ。

 でもアイリィ。よく考えてみなさい。

 本物のジローならどんな攻撃を喰らっても大丈夫だと思わない?」

「勿論だよ! パパは無敵のヒーローなんだよ!

 フィリアの攻撃でも絶対平気なんだから!

 ね、パパ! パパなら大丈夫だよね?」 


 あっさりとフィリアに言い包められるアイリィ。

 その眼には大好きな次郎衛門に対する期待に満ちてキラキラと輝いている。 


「お、おぅ。パパ…… が、頑張るょ……」


 流石の次郎衛門もアイリィの無垢な瞳の前には成す術がなかったっぽい。

 こうして次郎衛門は閃光に呑みこまれていったのだった。





「いたたたた。酷い目に遭った」

「やっぱり死なないんじゃないの」

「あれでも平気なんてパパ凄い!」


 ところどころに焦げ目を作りながらもやっぱり次郎衛門は生きていたようだ。

 他の者達も口々に次郎衛門に声を掛けており、次郎衛門を見つめる目は基本的に生温い。

 次郎衛門が無事だったという嬉しさとドッキリにしても悪質過ぎるという怒りが複雑に絡みあっているのだから、仕方がないだろう。

 そんな微妙な空気が流れる中フィリアが口を開く。


「それでどういう事なのか説明して貰おうかしら?」


 どうやら次郎衛門の今の姿の説明と邪竜がどうなったのかを知りたいようだ。


「ほむ。まぁ、詳しく話すと長くなるんだが―――――」


 そう言って何やら遠い目をし出す次郎衛門。

 回想にパートに―――――

 ――――突入する事も事もなくあっさりと話は終わる。

 要するに逆に次郎衛門が邪竜を乗っ取ったという事らしい。


 これの一体何処が長い話なのかと次郎衛門を問い詰めたいところだが本人に言わせると詳しく語ったら文庫本一冊では納まりきらないスケールの物語があるらしい。

 大幅に端折るにも程があるだろう。

 まぁ、次郎衛門にその辺の要求はするだけ無駄なような気もするので突っ込まない方が無難そうである。


「ふーん。それじゃ一件落着って事で良いのかしら?」


 次郎衛門の説明とも言い切れない説明をあっさり受け入れているフィリア。

 良く見れば周囲の他のメンバーも特に疑問を挟む様子はない。

 強いて言うのならば邪竜に身を捧げ損ねたペーシュだけが所在無さ気に佇んでいるのが印象的である。


「いや、落着とは程遠いかも。

 俺の魔力と邪竜の魔力が拒絶反応を起こしてるっぽいんだよな」

「拒絶反応ですって?」

「ああ。魔力同士が反発しあってるんだ。

 放っておけばここら辺一帯は吹き飛ぶんじゃね?

 今のところは幽霊ちゃんのおっぱいを揉む原理で魔力を同調させてる。

 そのお陰で拒絶反応は抑えられてるし、皆に別れを言う時間も取れた。

 幽霊ちゃん様様だな!」

 

 そう言って笑う次郎衛門。

 どうやらこの場に居る者達は幽霊ちゃんの小振りなおっぱいに救われたらしい。

 

「別れを言う時間だと? また嘘ぴょんってか?

 いい加減にしろ! ジロー、お前の冗談は笑えないんだよ!」


 激高するパンダロンに苦笑を洩らす次郎衛門。


「クハハハハ。そう言うなって。

 さっきのはちょっとしたお茶目だっての。

 辛気臭いのは好きじゃないからな。

 魔力を同調させ続けるのは結構きついんだぜ。

 死ぬつもりはない。

 だが直ぐに帰れる保証もない。

 フィリアたんを始め、うちの連中は逞しい奴等ばかりだけどな。

 俺の仲間内じゃ男はおっさん一人だけだ。

 だから少しだけで良い。気に掛けてやってくれ」


 何時になく真面目な態度の次郎衛門に面くらい次の句を継げなくなるパンダロン。

 どうやら本当に次郎衛門は別れを告げるつもりらしい。

 次に動いたのはアイリィだ。


「パパー! お別れなんて嫌だよ!」 


 涙を零しながら次郎衛門へとしがみ付くアイリィ。

 次郎衛門はそんなアイリィの頭を撫でながら口を開く。


「ずっとのお別れなんかじゃないさ。

 俺は何時か絶対に帰ってくる。

 だから良い子で待っていてくれ」


 次郎衛門らしからぬ優しい口調。

 それが余計に次郎衛門の生還率が厳しいという事を物語っている。

 

「ピコ。それとエージェント達もだ。主従契約は解除だ。好きに生きろ」

「いやです。少なくともマスターに抱かれるまでは従者をやめるつもりはありません」

「私達も受け入れる訳には行きませんわ。まだボスに受けた恩を返していませんもの」

「ほむ。んじゃ、お前等に命令する。

 フィリアとアイリィを守り助けてやってくれ」


 自由に生きろという次郎衛門の言葉を断固として拒否するピコとエージェント達。

 そんな彼女達の様子に呆れた表情を見せる次郎衛門。

 だが、ほんの少しだけ口角が上がっている事からその内心では結構嬉しい様だ。

 その後、アポロ達やタコさん姉妹、辺境伯や支部長とも別れの言葉を交わしていく次郎衛門。 

 その間にも徐々に次郎衛門の肉体は竜へと変化しだしていた。

 そして最後に次郎衛門はフィリアへと視線を向けた。


「フィリアたん。そういう訳でしばらく留守を頼む」 

「そう。私としてはあんたみたいに傍迷惑な奴が居なくなると思うと清々するわ。

 でもね。監視者である私があんたを野放しにすると思うの?」


 フィリアの言葉に次郎衛門は困った様に顔をしかめる。

 それも当然だ。

 次郎衛門の言葉が真実であるならば常に危険が付き纏うのだから。


「…… でも。私はあんたのサポート役でもあるのよね。

 だから不本意だけど、非常に不本意だけど! 留守は任せておきなさい。

 だから絶対に帰って来なさいよね!」


 ほんの少し顔を赤らめながら言うフィリア。

 素直になりきれないところは異世界に来た時から変わってない。


「んじゃ、無事に帰ってきたらおっぱいでも揉ませてくれよ」

「調子に乗るな! 行くならさっさと行きなさいよ!」


 そんなフィリアの言葉に嬉しそうに笑う次郎衛門。

 その姿はかなり竜化が進んでおり非常に禍々しい。

 だというのにその笑顔は非常に無邪気に見えた。


 そして次郎衛門はフィリア達の前から姿を消したのだった。

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