161話 だが安心して欲しい!?
本日4話目。
ラスト5話です。
封印の遺跡では、一応この場に居た辺境伯の指揮によって生け捕った信徒達をラスクの街へと送る準備が進められていた。
「信徒達のラスクへの移送の目処は付いたようだな」
げんなりと疲れた表情を見せる辺境伯。
次郎衛門に突如として万単位の罪人を押しつけられた辺境伯には同情を禁じ得ない。
「御苦労な事ね。問答無用に殺処分でも出来れば楽だったでしょうに」
フィリアが辺境伯に同情の籠った眼差しを送りつつも物騒な事を言い放つ。
フィリアとしては、ちょっとしたジョークのつもりなのかも知れないがこの女が言うと本当にやり兼ねない怖さがある。
だが、フィリアのいう事にも一理はある。
3万近くいた信徒達がほぼ全て捕縛されているのだ。
辺境伯としては裁く手間が省けるのである程度は死んでいてくれた方が楽だったのかも知れない。
「そういう訳にも行くまい。
ジロー殿に念を押されているからな」
「でも結局は強制労働なんでしょ?」
「事が事だけに無罪放免という訳にも行くまい。
その点においてはジロー殿も納得してくれているよ」
「ふーん。それなら良いけど」
フィリアの言葉に苦笑しながら答える辺境伯。
確かにこれは全面的に辺境伯の言い分が正しい。
計画自体は未遂で終わったとは言え、国家転覆どころか世界滅亡すらあり得る程の大事件に加担したもの達の処分が無罪放免では示しがつかないどころの騒ぎではない。
調子に乗った連中が大量発生する事必至と言える。
そういった点に関しては次郎衛門も理解はしているようだ。
そんな話題に一区切りついた頃、次郎衛門とピコが帰って来た。
魔王パックとその配下というおまけ付きで。
ちなみにピコは妙に艶っぽい感じで満足そうだ。
何に満足したのかは触れる事は避けておくとしよう。
「パパー! おかえりー!」
「ほい。ただいま。順調に片付いて行ってるっぽいな」
「戻られたか。その連中が?」
「ああ、そうだ。こいつ等が黒幕である魔王パックとその取り巻きらしいな」
そう言いながら縛りあげたパックとその配下達を地べたに転がす次郎衛門。
あれ? 魔王とのバトルはどうなったんだ? 一話読み飛ばした? ひょっとして作者が書き忘れてんじゃねぇの? と思う方もいるかも知れない。
だが安心して欲しい。
飛ばされたのは次郎衛門と魔王とのバトルの方だ。
敢えて端的にバトルについて述べるのならば魔王パックの断末魔は―――――
「アッーーーーーーーーーー!」
だったとだけ言っておこう。
断末魔と言っても死んではいないのだけれども。
そんな訳で次郎衛門はお尻から血を流しながらビクンビクンと痙攣を起こしている魔王とその配下を生け捕って戻ってきたのである。
ちなみに情報提供者であった筈のペーシュは念の為にラスクの街でゲコリアス達の監視の元に軟禁されていたりする。
「この者が魔王パック……」
辺境伯は転がされているパックを何とも言えない表情で見つめている。
己の領地、そして民達をを危機に曝した黒幕なのだ。
本来ならばその身を八つ裂きにしても納まらない程の憎しみや怒りを感じる相手だろう。
実際にこうして相見えるまでは、辺境伯の腸は煮え繰り返っていたのだ。
それが何という事でしょう。
匠の手によって魔王パックはにっくき不倶戴天の敵から、見るも哀れな被害者といった有様に見事に変貌を遂げていたのです。
「辺境伯。気持ちは分かるけど、諦めなさい。
ジローが動いた時点でこうなる事は想像出来ていた筈よ」
「フィリア殿…… そ、そうだな。少なくとも被害は皆無と言って良い状況なのだ。
これ以上を望むというのは贅沢かも知れないな」
「何で俺がちょっとやらかしちゃった雰囲気になってるんだよ!
しかも大目に見られてる感じになってるし!」
フィリアと辺境伯のやり取りを聞いて次郎衛門はちょっと不満気だ。
折角頑張ったというのにちょっとがっかりされている状況では、次郎衛門が不満に思うのも無理もない。 だが、もっとスマートに解決する事も出来たのではないかと思ってしまう辺境伯の気持ちも良く分かるところである。
「何か納得いかねぇけど、まぁ、良いか。
んで、封印のカギってのは見つかったのか?」
「今、アイラに探させているところよ……」
「フィリアたんにしては微妙に歯切れが悪いな。どうかしたのか?」
「レプリカが多過ぎるのよ」
げんなりとした様子で答えるフィリア。
現時点でカギのレプリカは既に100個以上も見つかっている状況だったりする。
幸いにしてこの場にはカギの作成者の一人であるアイラがいる。
そんな訳でアイラに一つ一つ鑑定させているところらしい。
そんな経緯を聞き次郎衛門が周囲にグルっと視線を彷徨わせてみれば。
「あぅぅ。もう疲れたのじゃー! 甘いものが食べたいのじゃー!」
と、アイラが半泣き状態だった。
アイラの眼前には山積みにされている封印のカギらしきものが大量にあり、鑑定待ちのカギの渋滞をおこしていた。半泣き状態の渋滞状態とか言ってみるもののダジャレとしても中途半端だと言わざるを得ないところである。
そんな感じで眺めている間にも続々とカギっぽい物はアイラの眼前に積み上げられていく。
フィリアが鑑定魔法を片っ端から掛けていければ良いのだろうが、封印を解く手段に魔力が必要であるという事を考えると万が一の事態を想定して魔法を使うのは控えていたりするのである。
「もう嫌なのじゃー! 放せ! 放すのじゃー!」
鑑定を投げ出し脱走を試みるアイラ。
当然逃げ切れる訳もなくさっさりと次郎衛門に捕獲される事となる。
「諦めて大人しく鑑定を続けろって。
さもなくば――――」
「さ、さもなくば? 何なのじゃー!?」
「凌辱の限りを尽くすだろう…… 辺境伯が」
「ひぃぃぃ! 嫌なのじゃー!
中年のおっさんに欲望限り嬲られたくはないのじゃー!」
次郎衛門の言葉に頭を抱えて怯え始めるアイラ。
脅しの効果てきめんなようだ。
これにはアイラがエルフ族であるという事も関係している。
合法ロリショタであるエルフ族は一部のマニアとって垂涎物の性対象となっているのだ。
勿論そういった欲望を本人の意思と無関係にぶちまける事は許されていないし、当然のように犯罪行為となっている。
だが、そういった犯罪行為を犯す者があとを絶たないという現実も確かに存在しているのだ。
そんな背景からアイラの目には辺境伯が欲望のままにエルフを襲う変態に見えてしまっても仕方がない事なのである。
「ちょ!? ジロー殿!?」
「クハハ! まぁ、世界平和の為なんだ。
運が良ければサクッと本物が見つかるだろ!」
慌てる辺境伯に対して無責任な感じに言い放つ次郎衛門。
すっかり次郎衛門の言葉に怯えたアイラは必死に本物を探し始める。
だが、結局300個全て鑑定するという極めてお約束な展開で全てを鑑定させられる羽目になるアイラなのであった。




