159話 血も涙もないのか!?
本日2話目でっす。
「見せつけてやるとしようじゃないか!
俺らしい戦いって奴を! ってな訳で今回のテーマはエコロジーだ!
名づけて異世界ファンタジーにおけるエコバトル! これより開戦だ!」
テンション↑↑な次郎衛門。
何故エコがテーマなのかは意味不明であるが今の次郎衛門は元気一杯だ。
どうやらフィリアの発破がバッチリと効いた様である。
それと同時に待機していたアポロを始めとする竜族が大空へと飛翔する。
突撃を仕掛けてくる信徒達を上空から焼き払う気満々なようだ。
そしてアポロ達の炎が信徒達へと向け放たれる。
「ぎゃああああああ!」
「熱い!熱いいいいい!」
「お母ちゃーん!」
「クルッポー!」
炎に巻かれた信徒達は苦痛にのたうち回る。
だが、不思議と死者は出ていないっぽい。
それどころか遺跡の周囲の森林に燃え広がる様子もない。
気が付けば遺跡周辺には雨が降っており、延焼を防ぎ信徒達に与えるダメージも抑えられている様だ。
そんな様子を見て次郎衛門は満足そうに頷いていた。
「クハ! クハハハ!
タコさんと人魚ちゃん、グッジョブだ!
その調子で良い塩梅に炎を水魔法で相殺してくれ!」
どうやら死者を出し過ぎない様にタコさんと人魚ちゃんは水魔法でアポロ達の炎を調整しているらしい。
この姉妹のお陰で必要以上に周囲が燃え広がる事もないし、焼かれた筈の信徒達はウェルダンではなくミディアムレア程度の焼き加減で済んでいるらしい。
これが次郎衛門流のエコという事なのかも知れない。
ただ、頑張っているのはタコさんと人魚ちゃんで次郎衛門は何もしていない。
だが、何故か次郎衛門が得意満面なのである。
「はい! ご主人様! 頑張ります!」
「冗談抜きでこれ超キツイです!
早く終わらせてええええええ!」
次郎衛門に頼られてタコさんはやる気を漲らせている。
だが、まだ未熟な人魚ちゃんには結構大変そうでその顔がかなり面白い感じに引きつっている。
まぁ、5体の竜族が炎を吐き出すのに対して消化側はたった二人しかしないので人魚ちゃんの主張はもっともだと頷かざるを得ないところだ。
「どうやら、こちらに対して手心を加えているらしいな。
ならば強行突破だ! 遺跡にさえ辿りつけば勝機は充分にある筈!」
信徒の長は次郎衛門達の様子を見て呟く。
そういった判断の元、炎から逃れた信徒達は一直線に遺跡へを目指す。
こう言うと信徒達が己の命を顧みずに封印を解こうとしているように見える。
まぁ、そういった事実もあるのだが、実は竜族達は遺跡を傷つける訳にはいかない。
信徒達は炎だけを避けるのならば遺跡へと接近した方が良かったりする。
更には乱戦に持ち込めば数的に少数である側である竜族はゴーレムとは言え味方ごと焼く訳にもいかないだろうという計算もある。
信徒達の判断はあながち間違いではないと言えるだろう。
雨で急激に足場が悪くなる中、信徒達は必死に走り遺跡を目指す。
そんな信徒達をマンドラゴーレム達が迎え撃つ。
未だ数の上では優位な信徒達ではあるが、対するマンドラゴーレムはCランク相当の魔物並みのステータスを持っている。これはベテランと言われる冒険者達がパーティーを組んで挑む事が推奨される強さだったりする。
それに対して信徒達は大半が冒険者で言えば一般人並み、Eランク程度の実力だ。
総合的な戦力は、数倍というの数の差を撥ね退けてマンドラゴーレムの方が優勢と言える。
更には、フィリアやアイリィ、白熊化したパンダロンが信徒達を容赦なく蹂躙している。
そんな中で一部の信徒達の軍勢が気炎を上げる。
「確かに手強い! だがこの程度なら! 我等6666魔将の敵ではない!」
密かに紛れこんでいた6666魔将達だ。
彼等は乱戦の中で時には剣で、時には魔法で的確にゴーレム達を屠り道を切り開いていく。
「道は我等が切り開く! 我等に続――――― 」
「させませんわよ!」
奮戦する6666魔将の前にジロー商会のエージェント、エリザベートが斬り掛かる。
その一撃を紙一重の所で避ける6666魔将。
そして一目でエリザベートに危険な気配を感じ取る。
「その身のこなし。何者だ?」
「ふふふ。今はしがない一商会のエージェントですわ」
「クックック。面白い!
久方ぶりに全力が出せそうだ。
6666魔将が序列第9位オキノピー参る!」
今ここにオキノピーとジローエリザベートの激闘の幕が―――――――
「アポロ。サクッと焼き払っちゃってー」
「承知! 特大のを放ってやります!」
開けなかった。
「ちょ!? ボスぅ!?
熱い! 熱いですわあああああ!」
「ぎゃあああああああああああああ!
味方ごと焼き払うだとおおおお!?」
「クハ! クハハハ! 汚ぇ花火だ!」
今正に切り結ばんとした二人をアポロ達の炎が容赦なく襲ったのである。
しかもオキノピーの方には死なない様に配慮されているのに対して、エリザベートの方には一切の配慮がない。
元来植物由来の環境に優しいかも知れないボディを持つエリザベートは、断末魔の悲鳴と共に炎に包まれた。
その地獄絵図の様な状況の中で高笑いを上げる次郎衛門。
そんな様子を全身に深刻かつ致命傷ではないファジイなダメージを追いながらも見つめるオキノピー。
その表情は完全に恐怖に染まっている。
「部下ごと焼き払うとは、あの男には血も涙もないのか……」
「それは聞き捨てならねぇな!
血も涙も持ってないのはむしろエージェント達の方だっての!
その証拠にほれ見てみそ?」
オキノピーが次郎衛門に指された方を見てみれば。
力尽きたマンドラゴーレムの頭部に成っていた実が落ち、見る間に芽吹き始めた。
地面が盛り上がりそして――――
「ボス! 酷いですわ!」
「クハハハ! 良いじゃねぇか!
どうせリサイクル可能なんだしな!」
「幾ら肉体の乗り換えが可能だからと言っても痛みはあるんですのよ!」
地中から這いずり出して文句を言うエリザベート。
確かに地面からおぞましく這い出る様はどう見ても血も涙も持ってなさそうではある。
どうやらマンドラゴーレムの頭上の実は自生する植物を過剰にゴーレム化させない様に自給自足する為の種であったらしい。
エコである。
更にはエージェント達はマンドラゴーレムさえあれば何度でもリサイクル可能であるっぽい。
これまたエコである。
正し、環境には配慮しているのかも知れないが、エージェント達には何の配慮もされていないかったりする辺りが次郎衛門らしいところだ。
これは次郎衛門のエゴである。
ブラック企業として名を馳せた幾人もの社長達が霞んで見える程の横暴と言えるかも知れない。
オキノピーはそんな次郎衛門達がギャーギャーと喚き合う様子を見せつけられる。
「そんな馬鹿な……」
再現なく供給され続ける戦力に割とあっさりと心を圧し折られた6666魔将達なのであった。




