14話 もふ神様現る!?
ギルドでマンドラゴラ? パニックを起こした翌日。
みみずく亭の次郎衛門の部屋で、次郎衛門が口を開く。
「フィリアたんってさ。錬金術も詳しいの?」
錬金術は、元々は金を産み出そうとしたのが起源である。
だが、現在では魔法薬から魔道具製作、果てはゴーレムまで作ってしまったりする何でもありの学問だったりする。
ちなみに今のところ、金は作れていないらしい。
更にちなむと、地球では一応、科学技術で金を作れる。
まぁ、コストが尋常じゃなく高いので、作るメリットは殆どないのだが。
「正直な話、初級程度しか知らないってレベルね。
錬金術に興味があるの? 」
フィリアも、そこまで詳しくはないらしい。
どうやら、魔法は天才的でも他の専門分野は詳しくはないようだ。
「ほら、マンドラゴラ? って取引禁止にされちゃったじゃん?
錬金術なら、自分で使えるんじゃないかと思ったんだよ。
それに、ホムンクルスやゴーレムも、一度位は作るのに挑戦してみたいんだよなぁ」
どうやら、大量に保管する羽目になったマンドラゴラ? の、使い道について考えているらしい。
山の様に大量に保管する事になったマンドラゴラ? は、アイテムボックスで保管しているフィリアにとっても、悩みの種である。
「私は詳しくはないけど、一応お父様から、各種の専門書は預かってきているわよ。
ホントは!
あんたにこういうのに関わらせると、碌な事にならない予感しかしないから嫌なんだけどね!
サポートを約束したした手前、見せない訳にも行かないし、自力で学ぶっていうのなら貸してあげるわよ」
そう言うフィリアは本当に嫌そうである。
昨日、あんな事態を引き起こしたばかりなのだ。
フィリアの懸念はもっともである。
「おお!
まじで?
それじゃ、依頼受けない日にでも、コツコツ勉強してみるか!」
そんなフィリアの心内もなんのその。
異常にやる気を見せる次郎衛門。
「向上心があるのは結構な事だけど、依頼の事も考えなさいよ。
あんたは自力で採集出来ないんだから、ゴブリンを狩るか、雑用の依頼するしかないんだから」
「確かに採集が、出来ないのには参ったよなぁ。
孤児院の子守でもして、ノルマ達成しとくか」
「ゴブリンを狩った方が楽なんじゃない?
素材になるものないとは言っても、巣でも潰せれば、一気に3回分くらいは常時依頼が終わるわよ。」
フィリアとしては、ゴブリンより子供の方が手ごわいっぽい。
確かにフィリアは、世話する方というよりも、される側のイメージだ。
「俺のステータスが謎すぎるからなぁ。
見るたびに表示が変ってるし……
変わってないのは、女の敵って部分だけなんだよな。
いざ、特攻したものの、返り討ちってなったら目も当てられんしな。
最終日に総合力を測る試験の結果が出るまでは、討伐系は保留って事で!」
どうやら、今のところはゴブリン狩りは選択肢にないらしい。
子守で条件をみたし、Eランクになるつもりのようだ。
「あんたなら、余裕だと思うけどね。
あまり遊び過ぎると、あっという間に一文無しなるわよ」
「金ならしばらくは大丈夫。
地球で貯め込んでた貯金があったんだけどさ。
全部こっちの世界でも、価値のある宝石や金に交換してきたんだ。
多分、10年くらいはイケるんじゃね?」
何やら、次郎衛門は荷物の中から宝石や金を取り出す。
だが、次郎衛門は何か違和感に気づき声を上げる。
「ん? なんじゃこりゃ?
宝石がでっかくなってるし、何か妙な力を感じるような?」
次郎衛門はフィリアに宝石を見せる。
確かに、次郎衛門の取り出した宝石は妙にデカイ。
どれもこれも、ピンポン玉位のサイズだ。
少なくとも、地球でこれ程のサイズの宝石を売り払えば、一生豪遊して暮らせるだろう。
「宝石が、莫大な魔力を吸収して、魔石化しているわね。
魔石は魔道具の動力源にしたりする貴重な素材よ。
多分、これ程のものなら1個売るだけでも、家が買えるんじゃないかしら」
などと、魔石化した宝石を鑑定しながらフィリアが説明をする。
「ほむ。何か分からんが、資産が数十倍くらいになったって事か……
それじゃ、いっそのことホントに家でも買っちゃおうか?
それなら自由に改装出来るし、ハニーとの愛の巣ってやつのも悪くないな!
ほれ、ダーリンて呼んでみ?」
確かに次郎衛門の言う通り、これほどの資産があるのなら、宿屋暮らしよりも、家を買ってしまった方が、色々と都合は良いのは間違いないだろう。
「確かにそれも良いわね。
でも、家買うにしても、ギルドに紹介して貰うくらいしか当てがないんだから、せめてEランクになってからの話になるわね。
後、ダーリンなんて言う訳ないでしょうが!
あんたとの愛の巣なんかお断りよ。
あ・く・ま・で・も! 同居するだけ」
家を買うことには同意しても、愛の巣は却下するフィリア。
まあ、確かに次郎衛門のような変態と共に行動するようになって数日で、急にダーリンなどと言い出す女性が居るのだとしたら、余程の物好きか、もしくは結婚詐欺を疑うべきである。
「クハハハ。照れなくても良いのに。
んじゃ、当面の目標はマイホームって事で、子守を頑張りますか。
ちびっ子達待ってろよ!
俺のマイホーム獲得の為に、存分に遊び倒してくれるわ!!」
フィリアは照れている訳ではないのだが、次郎衛門にはそう見えるらしい。
何とも幸せな脳みそを持った男である。
そして一応依頼の筈なのに、子供達と一緒に遊ぶ気満々な次郎衛門だった。
「クハハハ。今日も沢山遊び倒してやったぜ。
マイホーム持ちになる日も近いな。
……ん? 何奴!!」
宣言通り、全力で子守をしてきた帰り道。
ふと、視線を感じ、芝居掛かった台詞で周囲を警戒する次郎衛門。
だが、周囲に人影はない。
「いきなり何を言い出すのよ。
しかも、カッコつけた割りに何も居ないとか、恥ずかし過ぎるんですけど?」
ここぞとばかりに、次郎衛門を小馬鹿にするフィリア。
「気のせいか…… って、そこだあああああ!」
「キャン!!」
魔法で水鉄砲程度の水を飛ばす。
その水の向かう先に存在したのは一匹の犬のような獣。
いや、犬のようなというか、犬だ。
「…… 犬? あれ?
人の視線だと思ったんだけど、俺も鈍ったかなぁ」
どうやら、次郎衛門は相手が人だと思ってたらしい。
「ぷぷぷ。犬相手に何奴! って。
ホントに恥ずかしいわね。
動物虐待とかやめなさいよ」
フィリア次郎衛門を小馬鹿にしつつ犬を見る。
「野良にしては毛並みが綺麗ね。
どこかの飼い犬なのかしら?」
フィリアが犬の姿からそんな感想を言う。
ちなみに見た目はハスキーっぽい。
その犬は水を掛けられたというのに、テテテっと駆け寄ってくる。
「きゅーん、きゅーん」
「む…… 雌か。ん? ま…… 良いか。
水掛けて悪かったな。
お前も遊んでほしかったのか?
ならば存分にモフってやろうじゃないか。
ほーらヨシヨシヨシ」
たとえ犬であっても、真っ先に性別を確かめる辺りに、次郎衛門の心意気が感じられる気もしなくはない。
そして犬をがっちりと抱きしめると、恍惚な表情でその毛並みを堪能し始める次郎衛門。
正に一心不乱。
「な、何? どういう事なの……
ジローの背後に!
北の大地に動物達の為の、独立王国を築き上げた偉大なる王の英霊が見える!?」
急にフィリアが妙な事を口走りだす。
ちなみにその偉大なる王とやらは地球でまだ存命であり、勝手に死者扱いしている辺り、フィリアも大概に酷い女だ。
犬も次郎衛門のテクニックが心地良いのか、むしろ、恍惚した表情を浮かべてされるがままになっている。
これはアヘ顔…… と、言ってしまっても良い位に心地良さそうである。
この日、次郎衛門は日暮れまでたっぷりとモフを堪能したのであった。




