155話 キリキリ情報を吐いて貰おうか!?
「そいえば、どうなれば封印は解除されちまうんだ?」
「御存知ないのですか?」
次郎衛門が尋ねるとペーシュは意外そうな顔をする。
まぁ、次郎衛門は竜族と近しく接している上に封印を掛けた当事者の一人であるアイラも次郎衛門の屋敷で居候しているのだからその辺の情報は当然知っているものだと思っていたようだ。
「ああ。竜族のアポロもそこの合法ロリも頑なに教えちゃくれないんだよなぁ」
「合法ロリとは酷いのじゃー!
アイラという名前があるのじゃー!
もしくはmy sweet honeyと呼ぶのじゃー!」
「うるせぇよ! お前の体の何処にsweet成分があるっていうんだよ。
むしろ青い果実過ぎて食ったら酸っぱそうだっての」
両手を振り上げてポコポコと次郎衛門を叩きながら文句を言うアイラ。
そんな少女パンチを余す事なく堪能しながらもその意見は一蹴する次郎衛門。
青い果実とやらも好きか嫌いかで言えば大好物な癖に酷い言い草である。
しかしアイラとアポロが口を閉ざしているというのは本当の事だったりする。
その理由は情報が拡散される事を懸念しているからだ。
「教える事は構いません。しかし条件があります」
「取引って訳か。となるとその条件ってのは親父である魔王パックの助命ってところか?」
「御明察です。どんなに愚かな男であっても私には優しい父でしたから」
次郎衛門の問いかけに頷くペーシュ。
ペーシュさえ黙っていたのなら黒幕の存在はばれなかったのではないかと思うかもしれない。
しかしこの事件に協力的な次郎衛門ですら封印の詳細に関しては教えて貰えないのだ。
邪竜の信徒達が封印のカギを盗んだとしてもその解除方法までは知っている筈がない。
いや、それ以前にどんな形のものなのかすら信徒達は分からない筈なのだ。
竜族、エルフ、魔族の三種族の中に情報を流した者がいるかも知れないという所までは誰でも思い至るだろう。
魔王パックも必然的に容疑者の一人となってしまう。
そうなればボロが出てしまう事は時間の問題だとペーシュは考えたようだ。
世界を脅かすほどの大事件の首謀者が助命されるというなど通常ならあり得ない。
この話を竜族やエルフ、そして辺境伯や国王であるダインの元へ持って行ったとしたら、ペーシュがどれだけ有用な情報を提供したとしても間違いなくパックの助命は叶わないだろう。
それどころか魔族という種族への弾劾すら起こり得る。
そこで白羽の矢が立ったのが次郎衛門だ。
当然ながら貴族でもない次郎衛門にそんな権限はない。
しかしながらこの男は何の権限も無いくせにその影響力だけは絶大。
世界唯一のSランク冒険者パーティーのリーダーにして、国王や第一王子、王国屈指の貴族であるラスク辺境伯との間に個人的なパイプを持つ。
更には竜族の姫であるアイリィの義父でもあり、最近では何故かエルフの指導者である筈のアイラが屋敷に居候をしており、人魚族最強戦力でもあるタコさんを従業員として雇ってもいる。
確固たる意志を持って世界を脅かしているのが魔王パックであるならば、無自覚に世界を脅かしているのが次郎衛門なのである。
しかも経過だけを見れば偶々アイリィと出会っていたり、偶々墜落した先がエルフ集落だったりと今回の問題の最も中心にいたりもする。
その次郎衛門が首謀者の助命を願えば各種族の主導者達もそう簡単に無下に出来ないだろうという目論見なのである。
まぁ、この目論見は簡単に破綻する可能性もある。
現在のところ犠牲者はまだ出ていない状況だからこそ言える状況なのだ。
犠牲者が全く出ないという事はあり得ないとしてもペーシュ達の協力によって最小限に抑える事が出来たのならばその働きによっては魔王パックの助命を願える余地がある筈だと判断したのだろう。
その判断は実のところ間違っているとは言い切れない。
何せ次郎衛門は把握されているだけでもドッキリの為に竜族を動員してみたり、商人の護衛の為にマンドラゴーレムの群れで目的地の街を呑みこんでみたり、適当に書いた落書きの所為で王国の大臣が反乱を起こしたり、高難易度ダンジョンを水没させてみたりとやりたい放題なのである。
これだけ好き放題やっているにも関わらず本拠地であるラスクの街の評判はすこぶる良好なのだ。
各種族の主導者達にとっては軽視する事の出来ない目上のコブどころか超でっかいコブ、それが今の次郎衛門なのである。
しかも何のコネもないペーシュ達でも身分上は一冒険者である次郎衛門ならば会う事自体はそれ程困難ではないという点もペーシュ達にとっては大きい。
そういった理由からペーシュは次郎衛門を交渉相手に選んだという事らしい。
「ほむほむ。まぁ、親を想う気持ちは分からなくもない。
でも親父さんを助けられるかどうかはペーシュの心掛け次第かもな。
ってな訳で親父さんを救う為にキリキリ情報を吐いて貰おうか」
封印のカギは実は1個の水晶玉を3つに割ったような形状をしている事。
その水晶玉こそが邪竜を封じ込めている封印そのものである事。
封印を解くには封印の遺跡にある台座に水晶玉状に重ね合わせたカギを設置した上で、莫大な魔力を注ぐ必要がある事。
次郎衛門は他にも魔王パックやその配下、そして邪神の信徒達についての様々な情報をペーシュから聞きだしていく。
「……と、こんな所でしょうか」
そう言って話を締めくくるペーシュ。
少しばかり疲れた表情を見せている。
そんなペーシュとは対照的に妙にやりきった表情を見せているお供2人。
「何でお前等が達成感を醸し出してんだよ」
「失敬でござるな」
「然り、我等は油断する事なく主を見守っていたのでござる」
「実はこっそり目を開けたまま寝てたの知ってんだぞ」
「ね、ねねねねね寝てなんて、なな、ななないし!?」
「そうだ! そうだ!」
こっそりと寝ていた事をばらされて完全に口調が普通な感じになるオリマとジールイ。
どうやらござるや然りといった言葉使いはキャラ作りの為に使っていたっぽい。
そんな二人にペーシュは相変わらず疲れた様子は見せているものの特に怒っている気配は感じられない。
どうやらよくある事らしい。
「まぁ、お前等がそれで良いのなら別に良いんだけどな」
呆れたように言う次郎衛門なのであった。




