154話 ペ○シだっけ!?
「いたたた。相変わらず良いパンチだな。
間違いなくフィリアたんの右ストレートは世界を獲れるよな」
「五月蠅いわね。人が折角優しくしてあげたってのに、
あんたが余計な事をするからでしょうが」
「クハハハ。違いない」
フィリアの正論に楽しそうに笑う次郎衛門。
ぶっ飛ばされて嬉しそうだとかMの可能性もあり得そうとか言ってみるものの、やはり単純にフィリアとアイリィの行動が嬉しかったっぽい。
「魔王のお嬢ちゃん…… 名前はペ○シだったっけ? ペプ○も悪かったな。八つ当たりしちまって」
「いえ。元はと言えば私の父が原因ですから。あと、私の名前はペーシュです」
あまり悪い事をしたなどとは思ってなさそうな謝罪をする次郎衛門。
特に仮にも魔王である少女を地球の炭酸飲料扱いする辺りが余計にそういった印象を加速しているような気がする。
「それにマ○オとルイ○ジも悪かったな」
「我等の名はオリマと、ジールイでござる!
悪いと思うのなら○プシ様の名はどうでも良いとしても
我等の名前くらいは覚えて欲しいのでござる!」
「然り然り! どこぞの配管工如きと混同されるのは心外でなのでござる!」
次郎衛門のボケを的確に指摘するオリマとジールイ。
まぁ、この世界の住人である筈の彼等は配管工兄弟の事は知らない筈だ。
それなのに当然のように的確なツッコミが出来る事を疑問に思わなくもない。
これに関しては疑問に思って問い詰めたところでこの世界の連中は決してタネを明かしたりしないので問い詰めても無駄だろう。
そしてその片隅で部下にまで炭酸飲料扱いされたペーシュが少々落ち込んでいた。
「いや、お前等も大概酷いと思うけどな?」
呆れ顔で言う次郎衛門。
この場には先程までの荒んだ空気はなくなっている。
馬鹿らしいやり取りによっていつも通りの賑やかな雰囲気に戻す事には成功したっぽい。
「それで愚行を止めたいというからには具体的な策はあるんだろうな?」
「はい。詳細はオリマとジールイからお聞きください」
ペーシュに促されオリマとジールイが一歩前へと進み出る。
「我々兄弟はつい先日まで魔王パック陛下に仕えてござった。
それ故に計画の仔細を知る事が出来たのでござる」
「然り」
「計画はこうでござる。封印解除の準備が整い次第、
信徒達は封印の移籍を襲うという手筈になっているのでござる」
「信徒共って基本的に普通の人間でしょ?
遺跡って今は竜族が守護している筈よ。
どう考えても信徒だけで何とかなるとは思えないんだけど?」
オリマの説明にフィリアが疑問を呈する。
竜族は次郎衛門のドッキリにノリノリで参加しちゃうお茶目な部分もある連中ではあるが、基本的に高ランクの魔物だ。
トップクラスの者中にはアポロのようにSランクもいる。
邪竜の復活の危機に配備された竜族の者達は間違いなく一線級の者達である筈なのだ。
並みの者では一歩たりとも封印の移籍に足を踏み入れる事は出来ないだろう。
「確かにフィリア殿の言う事はもっともでござる。
故にパック様配下の6666魔将が信徒共に紛れるようなのでござる」
「ほむ。6666魔将ってどの位強くて、どれ位居るんだ?」
「残っている魔将は約600名でござるな。
ほとんどの者は冒険者で言う所のBランクといったところでござる」
「Bランク程度なのか。魔将って言う割にはそこまで強くはないんだなぁ」
「元々6666魔将はパック様直轄の魔都で成人した魔族は漏れなく加入出来るものでござるからな」
「兵役みたいなものか」
次郎衛門はBランク程度などと言っているが、これは結構えげつない情報だったりする。
ドルアーク王国でBランクと言えば一流と呼ばれる。
それに対して魔族達は普通に成人しただけでBランク位の実力があるらしい。
これだけでも魔族のスペックの高さが分かるというものだろう。
「ほとんどって事はそれ以上の者も居るって事で良いのか?」
「然り、その内の一割程はAもしくはSに匹敵するでござろう」
次郎衛門の質問に今度はジールイが答える。
600名の一割という事は少なくとも50~60名はAランク以上の猛者がいるようだ。
何故にこれ程に多くAランク以上の猛者がいるかと言えば、長年の平和の影響で少子高齢化が進んだ為と言う事らしい。
何で少子高齢化で強い連中がいるのかと思うかも知れない。
先ずは長年の平和のお陰で死ぬ者が大幅に減った。
戦いによって子を失う可能性の減った魔族達は少子化が進む。
少子化の影響で6666魔将は常に定員割れ状態となった。
6666魔将全入時代の到来である。
大学全入時代みたいに聞こえちゃったかも知れないがその内実は少々違う。
6666名を確保出来ないので入れ替わりで退役する者が大幅に減ったのだ。
その結果兵役をこなし続けた古参の者達の実力は数百年かけて大幅にアップと言う訳らしい。
しかしながら当然そういったメリットばかりではない。
社会に出るべき若者達を奪われる為に人手不足が深刻化し経済が停滞した。
当然そうなれば税収なども落ちる筈なのだが、一部の大貴族はこれを認めずに依然と同じだけの税を搾取し続けたのである。
これによって魔族の民達の鬱憤が溜まり、そして爆発し大魔王時代へと突入したと言えるのだ。
「うーむ。何というか馬鹿だな」
「ええ。馬鹿ね」
オリマとジールイからの説明を聞いて呆れる次郎衛門達。
今の説明を聞いただけでも魔王パックの政治に関する手腕の駄目駄目さがハッキリと分かる。
しかしながらAランク以上の実力者が50名というのは少々どころではなく危険な存在だ。
更にBランクの実力を持つ者が550名も居るのだ。
勿論竜族やラスクの街の戦力を計算するのならば勝算は充分にあるだろう。
だが、彼等の人生は一度死んでしまえばそれで終わりなのだ。
それ故に次郎衛門は何度でもリサイクルが効くエージェント達で対応に当ろうと思っていたのだ。
ジロー商会のエージェント達は30名しか居ない。
それぞれがSランクの領域に踏み込み掛けている一騎当千の強者ではあるがそれでも人数の差は覆し難いものがある。
想定以上の難敵に頭を悩ませる次郎衛門なのであった。




