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153話 仕方なくよ! 仕方なく!?

「どうやらカギを持っていた魔王がこの事件の黒幕だったようなのです」


 ペーシュの口から衝撃的な発言が飛び出した。

 どうやらカギを持っていた333魔王とやらのうちの一人が邪竜復活を企む連中の黒幕だという事らしい。

 この発言には今までツッコミに明け暮れていた次郎衛門ですら真剣な表情になっていた。


「…… まじか?」

「はい。間違いないでしょう。

 魔王パック…… 私の父が自ら語ってましたから」


 そう答えるペーシュの言葉には迷い、怯え、後ろめたさ、そして勇気が感じられた。


 ペーシュの話によれば元来魔王というのは一人であったらしい。

 魔王パック。

 ペーシュの父でもある魔王パックは度重なる人間達の侵略から魔族領を守り、邪竜が世界を脅かした際には最前線で戦った英雄王であったらしい。

 平和な時代が訪れた後も部下の声を良く聞き入れそれなりに善政を敷いていたらしい。

 しかしこの部下の声を聞き入れるという事が仇となる。

 長きに渡る平和は魔族の貴族階級の者達に腐敗をもたらす様になったのだ。

 その腐敗は徐々に魔族の民達の間に不満として燻り、そして30年程前に遂に民達の怒りは爆発した。

 その後なんやかんや色々な事が起きた。

 そして一つの町内に一人の魔王といった具合に多くの魔王が出現する事となったのだ。


 大魔王時代の到来である。


 まぁ、大魔王時代とか不穏な物言いをしているが要は町内の代表達が合議制で政治を行う民主制に移行しただけだったりするのだが。

 こうして魔族領は再び平和な時代を迎える事となったのだ。

 だが面白くないのは全魔族の支配者から一議員的立場に落とされた魔王パックだ。

 魔王パックは幾度も人間達からの十字軍的な一方的大義名分による侵略を退け、時には世界の命運を背負って邪竜とも戦った英雄中の英雄であった。

 その功績が認められていたからこそ民主制に移行した後も魔王に名を連ねる事が許されたのだが、魔王パックからすれば身を賭して守って来た民達に一方的にクーデターを起こされ理不尽な降格を受入させられたように感じたようだ。

 当然の様に収入も激減。

 直属の配下である6666魔将達の給金すら払えない有様だ。

 長きに渡り手足の如く尽くしてくれた6666魔将達。

 国を守り民達の敬意をその身に受けていた誇り高き6666魔将達。

 その魔将達が今ではその日食べる物にすら困る有様だ。

 貧困に耐えかね徐々にパックの元を去る6666魔将達。

 残った極僅かな魔将達は平和な時代の流れに乗る事が出来なかった不器用な者達だ。

 多くの者達はそんな彼等を見下し馬鹿にした。

 彼等は生きる気力すらすり減らしてしまっていた。

 そんな彼等に生きる場を与えてやりたくもあった。

 しかし魔王パックは動乱の時代では稀代の英雄王であっても平和な時代では至って平凡な王でしかない。

 先のクーデターによって魔王パック自身がその事をよく理解していた。

 それ故に辿りついた結論。

 再び世が動乱の時代を迎えれば魔王パックと6666魔将達は英雄としての栄光の日々を取り戻す事が出来るという極めて危険な思想だったのだ。

 その動乱の時代を迎える為に選んだ方法というのが邪竜の復活だ。

 世界が邪竜の危機に曝された時。

 魔王パックと6666魔将が現れる。

 そして颯爽と危機を救うという自作自演、所謂マッチポンプが魔王パックのシナリオであるらしい。

 この為に10年以上時間を掛けて邪竜復活を願う信徒達へと情報を流し準備してきたというのが邪竜復活に関する事件の真相であるようだ。

 

「私はそんな父の愚行を止めたいのです」


 ペーシェは語り終え次郎衛門の様子を伺う。 

 しばらくの沈黙の後、次郎衛門は口を開く。

 

「事情は分かった」

「幸いまだ被害は出ていま――――――」


 それ以上ペーシェは言葉を紡ぐ事が出来なかった。

 その理由は怒気。

 凄まじいまでの怒気がペーシェへと叩きつけられたのだ。

 怒気の主は次郎衛門。

 つい先ほどまでのふざけた雰囲気は微塵もない。


「どうした? 続きは言わないのか?」

 

 怒気を湛えたままにペーシェへと問いかける次郎衛門。

 しかしペーシェは答えない。

 否、答えられない。

 次郎衛門が何に怒っているのかすらペーシェには分かっていないのだから。

 恐怖に歯をカチカチと鳴らすばかりだった。

 呑まれているのはペーシェだけではない。

 オリマとジールイも気圧され生気を失っていた。

 とは言っても魔族の肌は褐色なので見た目には違いなどよく分からないのだが。

 今この場で次郎衛門の怒気に耐えられているのはフィリアとアイリィのみだ。

 Sランクの魔物であるピコですら身を竦ませている。


「幸い? 被害は出ていない? ふざけるなよ」


 チラリとアイリィに視線を這わす次郎衛門。

 確かに現時点では魔族やエルフそして人間には被害らしい被害は出ていないのかも知れない。

 だがそれには人系の種族しか含まれていないのだ。

 既に被害は出ている。

 平和に暮らしていた一組の竜の親子に。

 しかもその親子は竜の一族の長に連なる系譜の親子だ。

 世界中を巻き込む大戦争へと突入しても可笑しくはなかった。

 もしもアポロ達竜族に魔王パックの関与が知れれば竜族は決して魔王パックを許さないだろう。

 

「だがな。俺はそんな事はどうでも良いんだ。

 俺が許せないのは

 栄光を取り戻す、たかがそんな事の為に。

 親から子を!

 子から親を!

 奪い去った事だ!」


 そう。次郎衛門は戦争が起きそうだったから怒っているのはない。

 一部の者の欲の為に引き裂かれる事になった親子の為に怒っているだ。

 竜と呼ばれる魔物の親子の為に。

 魔王パックが邪竜の復活などを企まなければ今頃アイリィやアポロとその妻は普通の親子として平和に暮らしていた筈だ。

 次郎衛門には与える事が出来ない本当の親の温もり。

 その中でアイリィは育つ事が出来た筈なのに。

 何度か述べているが次郎衛門は孤児だった。

 実の親との繋がりは望んでも得る事は出来なかった。

 そんな次郎衛門だからこそ本気で怒っているのだ。

 次郎衛門の怒りが益々勢いを増そうとしたその時。

 ふわりと温かいものが次郎衛門の体へを包み込む。

 

 フィリアだった。


 普段は次郎衛門との肉体的接触を徹底的に拒絶するフィリアが次郎衛門を優しく抱きしめていた。

 

「落ちつきなさい。アイリィとアポロ達の絆は失われた訳ではないわ」


 それだけを口にすると次郎衛門を抱きしめ続けるフィリア。

 そして次郎衛門の傍らにあった小さな手が次郎衛門の作務衣の袖をちょんちょんと引く。


「パパ。アイリィは幸せだよ! 生れてから今までずっとずっと幸せなんだよ!」


 アイリィも自分の事で次郎衛門が怒っているという事を分かっているのだろう。

 次郎衛門譲りである黒髪と瞳を微かに不安で揺らしながら、想いを一生懸命に次郎衛門へと訴える。

 そんなフィリアとアイリィ二人の行動に徐々に次郎衛門の怒気は納まっていく。


「ああ…… 俺もアイリィと会えて幸せだよ。 フィリアもサンキュ」

「ふん。あんたの監視は私の役目だしね。仕方なくよ! 仕方なく!」


 フィリアに抱きしめられつつも礼を言う次郎衛門。

 何だか珍しく甘い雰囲気を漂わせ始める二人。


「でも、俺の個人的な感情は置いとくとしてもだ。

 邪竜の復活は絶対に阻止だな。

 フィリア。手伝ってくれ」

「それは構わないわ。でもねジロー。

 どさくさに紛れて何処を触ってるのかしら?」

「ああ。これは…… その…… 何だ…… そこにお尻があったから…… かな?」


 凄まじい勢いで目を泳がせながら、一体どこの登山家だと言わんばかりに使い古された言葉を吐き出す次郎衛門。そんなアホな事を言いながらもその手はフィリアのお尻を弄り続けている。

 折角良い雰囲気になり掛けていたというのに台無しである。

 今回ばかりは次郎衛門の下手くそな照れ隠しである事がバレバレだ。

 次郎衛門の怒りが納まり唐突に始まり掛けたラブコメ展開に息を呑み成り行きを見守っていた連中もこれには溜息を吐く。


「人が折角心配してやったってのに!

 このドスケベがああああああああ!」

「うっぎゃあああああああああああ!」


 お約束のようにぶっ飛ばされる次郎衛門。

 しかし何処か嬉しそう次郎衛門なのであった。

 

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