152話 先ずは名乗れっての!?
「…… 俺が! 俺こそがSランク冒険者! 鈴木次郎衛門だ!」
バーンと効果音が出そうな感じで名乗り上げる次郎衛門。
もう既に次郎衛門の中ではだだすべりした事は無かった事になっているっぽい。
フィリアや魔族の少女のジトっとした視線もなんのそのである。
その開き直りっぷりはいっそ清々しい。
「…… 本物ですか?」
「OH! YES!」
疑いの眼差しを向ける魔族の少女に対してハイテンションで答える次郎衛門。
すべって白けてしまった空気を何とかしようと足掻いてるっぽい。
そのヤケクソ感がちょっと痛々しくもある。
「はぁ…… そこの男がSランク冒険者のジローって言うのは本当よ。幾らなんでもギルドのど真ん中でそんな嘘を吐き通せる訳もないって事位は分かるわよね」
フィリアが溜息交じりに次郎衛門のフォローに回る。
まぁ、確かにこの場で偽物がSランク冒険者を騙ったところで直ぐにそれが嘘だと判明する事は間違いないだろう。
「それも…… そうですね」
フィリアの言い分が至極真っ当なものである事は魔族の少女も納得したらしい。
「納得してくれたのなら何よりだ。ま、そんな事は一旦横に置いとくとしてだ。ほい、これ」
「これは……?」
次郎衛門が差し出した物を見て小首を傾げる魔族の少女。
ちなみに次郎衛門が差し出したのは雑巾とバケツだ。
「先ずは自分達が汚した床の掃除! 話はそれからだ!」
確かにこれは次郎衛門の言い分が正しい。
原因は女葬男死だったとしても実際に床を汚したのは魔族の少女達なのだから。
「そ、そうですね。オリマ、ジールイ、掃除をお願いね」
二人の従者は魔族の少女の命令にほんの少し嫌そうな顔をした二人。
そんな様子を見ていた次郎衛門が更に口を挟む。
「いや、お嬢ちゃんもするんだよ」
「え?」
「いいのか? 本当に良いのかぁ? あいつ等だけに任せておいて。ひょっとしたらあいつ等お嬢ちゃんの分泌物をこっそりとprprするかも知れないぞ?」
相変わらず妙な事を言い始める次郎衛門。
そんな次郎衛門の発言にドン引きした様子で後ずさる魔族の少女。
「その手があったでござるか……」
「流石はSランク冒険者でござるな! 目の付けどころが一味違うでござる」
そしてその手があったかと言わんばかりに目を輝かせているオリマとジールイ。
どうやら従者二人もどちらかと言えば次郎衛門サイドの性的趣向を持ち合わせている気配だ。
つくづく変態の多い世界だ。
「ちょ!? 分かりました! 分かりましたよ! 私も掃除すれば良いんでしょう!」
結局は誰よりも丁寧に床を掃除する魔族の少女なのであった。
◆◆◆◆
「改めて自己紹介と行こうか。俺が鈴木次郎衛門だ。あと、嫁のフィリアたんに娘のアイリィたん。そしてetceteraってところだ」
「誰が嫁なのよ!」
「わーい。パパの娘!」
「俺達の扱いが雑すぎるだろ…… パンダロンだ」
「酷いですよマスター。私はピコです」
「ハイエルフのアイラなのじゃー!」
「タコさんです」
「人魚ちゃんでーす!」
賑やかに自己紹介しだす次郎衛門達。
相変わらず緊張感の欠片もない連中である。
しかもタコさんと人魚ちゃんに至っては自己紹介にすらなっていない気がしないでもない。
決して彼女達の名を考える事が面倒であったという訳ではない。
どうやら彼女達は本日はオフだった為に屋敷にいたようである。
そんな連中が不意に静まりかえる。
グリンと首を捻りジッと魔族の少女達を見つめ出す。
幼女からおっさんまで幅広いラインナップの視線が無言で集中する様ははっきりいってかなり怖い。
そんな空気に耐えきれずに魔族の少女は口を開く。
「な、何か?」
「いや、何かじゃないだろ? こっちが名乗ったんだから今度はそっちの番だろ。大体俺達に用事があるのはそっちの方なんだから、先ずは名乗れっての」
確かに次郎衛門の言う通りである。
しかも人目を避ける為にわざわざ次郎衛門は屋敷にまで招いているのだ。
屋敷の家主が名乗っているというのに名乗りもしないなど非礼極まりない行為と言えるだろう。
「ペーシュ様。ジロー殿言う通りでござるよ」
「然り。我らが主ながら全くもって情けないでござる」
次郎衛門に便乗し主である魔族の少女に容赦なく追撃を行うオリマとジールイ。
主に対してこの態度。
彼等は中々良い性格をしている様である。
「いや、言っとくけどお前達もだからな? しれっと全部お嬢ちゃんに擦り付けてんじゃねぇよ」
「おっと、これは失敬でござる」
「然り、失敬失敬」
彼等は失敬とか言いながらも悪びれている様子は全くない。
そして初対面の人間に対してもこの態度、本当に良い性格をしているようだ。
「良し。お前等もう帰れ」
「すいません! 従者共々の非礼は謝りますから!」
次郎衛門に縋りつく魔族の少女。
必死である。
彼女にとって余程大事な用件があるのだろう。
そんなドサクサに紛れて次郎衛門は少女のお尻やら胸やらを堪能しているっぽいがその事にも気が付けない程に少女は必死に次郎衛門へと縋りついている。
しばらく少女の肉感を堪能していた次郎衛門。
しかしフィリアの極寒の視線に気が付くと慌てて少女に名乗りと用件を言う様に促す。
「あ、あの、私の名前はペーシュと言います。まだ若輩者ではありますが333魔王の一角を担わせて頂いております」
「ほえー。333魔王ねぇ……って! 多いな魔王! 幾らなんでも多過ぎるだろ! どうなってんだ!」
思わずノリツッコミを炸裂させる次郎衛門。
魔王や勇者といった者達は基本的には1名、多くても精々数名というイメージはある。
そういったイメージからしてみると333名もの魔王がいるというのは確かに多いのかも知れない。
とういうか確実に多い。
「多いと言われましても…… 一つの町内に一魔王。というのが30年にも渡る魔族の伝統ですので……」
そんな次郎衛門の剣幕に困惑した様子を見せるペーシュ。
その姿には何言ってるのこの人? といった様子がありありと見てとれた。
「それ只の町内会の会長さんだろ!
たかだか30年程度で種族の伝統を語るんじゃねぇよ!
何なんだよ! 突っ込みどころが多過ぎるわ!」
凄まじい勢いで的確にツッコミ続ける次郎衛門。
普段はボケである癖にツッコミの腕も一流だ。
いや、ボケとツッコミは表裏一体。
一流のボケであるが故にツッコミも一流なのだろう。
「そしてこちらの二人はオリマとジールイです」
「6666魔将が一人オリマでござる」
「同じく6666魔将、ジールイでござる」
「マイペースか! 人の話を聞けよ!
ってか6666魔将って何だよ!
そんなに大量にいたら既に将じゃないじゃん!」
「6666魔将は1万飛んで2千年前からの伝統でござるよ。
我等に文句を言われても困るのでござる」
「然り然り」
「今度は超長いな!
ってか1万飛んで2千年前からとか良く考えてみたら飛んでねぇだろ!
普通に1万2千年とかで良いじゃん! 何でアクエリ○○っぽくしちゃってんだよ!」
「ジロー。ぎゃんぎゃん五月蠅いわよ。話が進まないから少し黙りなさいよ」
「フィリアたん、でもよぅ!」
「それで? 話をさっさと進めなさいよ」
あまりの煩さにフィリアが次郎衛門を黙らせ、ペーシュに続きを促す。
「邪竜の封印を解くカギを狙っている者達の件なのですが……」
そこまで言って言葉を詰まらせるペーシュ。
しばらく目線を彷徨わせる。
どうやら余程言いだし辛い事であるらしい。
だがやがて決意したように口を開く。
「どうやらカギを持っていた魔王がこの事件の黒幕だったようなのです」
自称333魔王の少女から衝撃的な言葉が飛び出したのであった。




