13話 マンドラゴラ売れるかな!?
フィリアを背負った次郎衛門が門に辿り着く。
するとその様子を見た守衛が、慌てて駆け寄ってきた。
「どうしたフィリア君、怪我でもしたのかね?」
心配した様子である。
初めて採集に出かけた連中の、身も蓋もなく言ってしまえば、素人冒険者の片割れが、担がれて帰ってきたのだ。
そりゃ、心配もするというものだろう。
「いあ、ちょっと張り切り過ぎて疲れたみたい。
って言うのは建前で、フィリアたんがどうしても俺と密着したいって言うもんでね」
ニヤニヤと笑いながら、守衛に返事をする次郎衛門。
「誰が!
あんたなんかと密着したがるのよ!
こんな姿を人に見られたら恥ずかしいから、サッサとみみずく亭に戻るわよ!」
フィリアが力一杯に否定し、宿に戻るように次郎衛門に命令する。
顔を赤らめて、怒鳴ってしまう辺り、そっち方面に関しては奥手なのかも知れない。
「ふむ。その様子なら大丈夫そうだね。
今日は早く休むと良い。
くれぐれも無理はしないようにね」
守衛はホッとした様子だ。
そして意外と紳士である。
「ほむ……
このままギルドや、孤児院を巡って練り歩くってのも悪くないかもな。
街中の連中にラブラブな様子を、見せ付けてやるってのも―――――
ぐえっ、フィ、フィリアたん。ぐるじい」
次郎衛門の言葉が言い終わる前に、フィリアは次郎衛門の背後から、するりと首へと手を回し、首を思いっきり締め上げたのだ。
「ふざけるんじゃない!
このまま絞め殺すわよ!」
容赦なく、ギリギリと締め上げるフィリア。
同時に次郎衛門の血色がドンドン悪くなっていく。
その割りに表情は微妙に嬉しそう、というか、笑い声が零れている。
「くは。くは、ははは……」
「この状況で笑うとか、ひょっとしてあんたマゾなの?
キモイんだけど!」
更に力を込めるフィリア。
これほど力を込める事が出来るのならば、既に歩けるのではなかろうかと、思わなくもない。
だが、次郎衛門は笑う。
幸せそうに笑う。
何故なら――――――
「フィリアたんが力を込めれば込めるほど……
俺は…… 幸せを感じるだろう……
背中に押し寄せる二つの豊かな膨らみが……
俺を幸せにしてくれるからな……」
どうやら、次郎衛門はフィリアのおっぱいを堪能していたようである。
絞め落とさんばかりに密着していたのだ。
視点を変えてみれば、熱烈なハグと言えなくもない。
そりゃ、おっぱいも堪能出来るというものである。
「あんた…… いい加減にしないと本気で怒るわよ……」
「う…… 分かった分かった、今日は大人しく宿に戻るか」
次郎衛門も、フィリアを本気で怒らせる気はないらしい。
茶化すのは止め、大人しく従い宿に帰るのだった。
だが、結局みみずく亭の女将さんに弄られる羽目になったのだが。
翌日、採集の採集の常時依頼は達成してないものの、マンドラゴラ? を換金する為に、2人はギルドへ向かう。
「サラちゃん、おはよん」
次郎衛門は、最早定番になりつつある挨拶をする。
「…… おはようございます。
ジローさん、フィリアさん。
昨日は採集に行ったのでしたよね?
上手く集められましたか?」
サラもまた、定番になりつつある挨拶を返し、更に採集の成果を聞いてくる。
受付嬢であるサラも、新人である次郎衛門達の成果は気に掛けてくれているようだ。
「いあ…… ちょっと常時依頼の方の採集は今一つだったんだよね。
でもさ、超でっかいマンドラゴラ? っぽいのが採れてさ。
ギルドで買取ってして貰えるのかな?」
流石に次郎衛門もあれを普通のマンドラゴラとは主張出来ないらしい。
その目が、若干泳ぎ気味である。
「え…… マンドラゴラ!?
凄いじゃないですか!!
本来なら森の相当奥まで行っても、中々見つからない貴重な素材ですよ!
本物ならBランク依頼級の買取対象ですよ!!」
目を輝かせて興奮気味なサラ。
「いや…… 本物とは限らないから……
あんまり期待されても困るんだけど。
とりあえず買い取りの担当の人呼んで貰えるかな?」
次郎衛門にしては何とも歯切れが悪いが、これは仕方ないかもしれない。
だって、肝心のマンドラゴラがあれなのだ。
「私が査定するので大丈夫です。
こう見えて、鑑定魔法も使えるんですよ!」
ただのモフ可愛い受付嬢かと思いきや、サラは買取査定まで担当してしまう程の、ハイスペックモフギルド職員だったようだ。
「サラがあれ見るのは厳しいんじゃない?
……出切れば、男の買取担当って居ないのかしら?」
はっきり言って、サラにあれを見せるのは気が引ける。
なのでフィリアが別の担当を要求してみる。
「女の私じゃ信用できませんか……
フィリアさんがそういった偏見を持つ方だとは思いませんでした……」
どうやら、サラは仕事に対するプライドが傷ついたようで、ポロリと涙を零し泣き出してしまった。
フィリアは、サラの為を思っての言葉だったのだが、泣かせてしまい何とも気まずそうだ。
周りの冒険者達もサラの様子に気が付いたらしい。
一体何事かと様子を伺い始める。
「サラちゃん誤解だよ。
フィリアたんは、サラちゃんを信用してない訳じゃないんだ。
女の子が見るにはちょっと厳しい見た目してるんだよな。
だから心配しただけだよ。
実際、フィリアたんですら腰を抜かしたくらいだし」
さり気なく少し控えめに言う次郎衛門。
フィリアに対する優しさなのかも知れない。
「!? ジローそれは内緒って言ったのに!
……ああ、もう、そうよ!
私は驚いて腰を抜かしたの!
きっとサラも腰を抜かすから、他の人が良いって言ったのよ!」
恥ずかしいらしい。
それだけ言うとフィリアはソッポを向いてしまった。
「そうだったんですか……
私ったら勘違いしてしまって申し訳ありませんでした。
でも、大丈夫ですよ!
マンドラゴラは、何度か査定した事がありますから!」
涙を拭いながら、改めて自分が査定すると宣言するサラ。
次郎衛門も、フィリアも、サラがここまで強情に言い張るとなると、もう諦めるしかないっぽい。
「それじゃ、せめて他の連中に見られない様に、別室でお願い出切るかしら?」
なるべく被害を減らそうとするフィリア。
「なんでえ、姉ちゃんケチくせえな。
皆にも見せろよ!
確かにマンドラゴラは貴重な物だが、だからってこんな所で盗んだりする奴が居る訳ないだろう?
そこまで大見得切って、偽物だったら、大笑いしてやるからな!」
折角守ろうとした相手にも、啖呵を切られる始末である。
最早、売り言葉に買い言葉状態、フィリアはヤケクソ気味に言い放つ。
「あぁ! もう!!
どうなっても知らないからね!!
それじゃ出すわよ!
覚悟しなさい!!!」
フィリアは目を据わらせながら、マンドラゴラ? を、アイテムボックスから引きずりだす。
その瞬間。
どす黒いオーラが立ち昇る。
「「「ぎゃあああああああああああ」」」
案の定、サラと冒険者の内の3割は、白目を剥いてアワを吹きながら卒倒する。
残りの5割の冒険者は恐慌状態に陥り、残りの2割は、突然の事態に右往左往するという地獄絵図が完成である。
なお、ドサクサに紛れて次郎衛門がサラを介抱すると見せかけ、思う存分にモフったり、くんかくんかしたり、更にはオッパイを触ろうとしたところで、フィリアに見つかり、怒突き回されたりもしたのだった。
結局、マンドラゴラ? は、危険過ぎた。
ギルドで側は、買い取りを拒否する事態に発展。
更にギルドだけに留まらず、マンドラゴラ? に関して、全ての取引を禁止される事になったのであった。




