147話 必要としてくれている人なら既にいるんじゃねぇか!?
砂浜にはタコさんと次郎衛門が正座させられていた。
タコさんの下半身で正座が出来るのかと思うかも知れないが触手を綺麗に折り曲げて座る姿は紛れもなく正座であった。
それでも目線がダインと同じくらいだ。
ハッキリ言って超でかい。
「魔物扱いされて誰にも相手にして貰えない事が続くうちについやってしまったんです」
「ごめんで済む訳ないでしょうが! あんたの所為で私はジローの出した気持ち悪い触手塗れになる羽目になったんだからね!」
ただひたすらに謝るタコさんをフィリアが責め立てる。
だがこれは完全に言い掛かりというものである。
しかしタコさんが人魚族と異種族との物語の様なロマンス溢れる恋愛に憧れやって来てみれば、恋愛どころか魔物扱いされてしまい凶行に及んでしまった気持ちは理解出来なくもない。
「分かる…… その気持ち超分かるぞ!」
というかすぐ傍に異常に共感してる者がいたっぽい。
タコさんがその言葉の主を探してみればその者は隣にいた。
タコさんの隣で正座させられていた次郎衛門である。
大抵の事は笑い飛ばす豪胆な性格の次郎衛門が号泣していた。
まぁ、去年のクリスマスにタコさんと似たような事件を起こしている次郎衛門にはタコさんのその気持ちは痛い程に理解出来たらしい。
フィリアもタコさんの境遇に多少同情しているらしい。
その点についてはあまり責めるつもりはなさそうだ。
だがその同情がタコさんの怒りに再び火を灯してしまったようだ。
「同情なんてしないで!
誰にも必要とされない私の気持ちなんてあなた達には分かりませんよ!」
涙を流しながら絞り出すように叫ぶタコさん。
どうやらタコさんは悲劇のヒロインモードに突入してしまっているようだ。
「姉さん!
もう帰りましょう?
父さんも母さんも里の皆も姉さんの事を心配してるのよ!」
人魚ちゃんがタコさんへと訴える。
だがタコさんは人魚ちゃんの言葉に顔を伏せる。
「帰れない……
お父様とお母様に旦那様と孫を連れて帰るって見栄切って出てきてしまったんだもの。
今更どんな顔して帰れば良いのか分からないわ」
どうやらタコさんは両親に合わせる顔がないと思っているらしい。
こんな騒ぎを起こしていたという事も知られたくはないのだろう。
もし知られたら幻滅されるのではないか、家族にまで見限られてしまったらと思うと怖くて仕方がないのかもしれない。
そんな弱さが今のタコさんの様子からは見て取れた。
何となく重苦しい雰囲気が場を包む。
しかしその雰囲気をフィリアが打ち破る。
「あんたねぇ!
さっきから聞いてれば悲劇のヒロイン気どりが鬱陶しいのよ!
私の気持ちなんて誰にも分からない?
分かる訳ないでしょうが!
あんたなんてまだ全然温いのよ!
ジローなんてちょっと不思議な力があるからって両親に捨てられてんのよ!
ずっと化物扱いされ続けた揚句に異なる世界へと追放までされちゃってんのよ!
でもね!
この馬鹿はそういった素振りは全然見せないのよ!
辛くない筈はないのに!
いつでも前向きに生きてんのよ!
あんたもちょっとは見習いなさいよ!」
フィリアは凄まじい剣幕で一気に捲し立てる。
次郎衛門の結構ヘビーな過去にその場に居た全員が言葉を失う。
いつも能天気そうな態度の裏に次郎衛門がそんな過去を背負っていたなどという事は思いもよらなかったのだろう。
これはダインやシグルド達だけではなく、孤児院の絡みで結構近しい付き合いのあるサラや、パパと慕うアイリィ、マスターと慕うピコですら知らない次郎衛門の過去なのだ。
タコさんですらフィリアの言葉の重さに押し黙ってしまっていた。
まぁ、この世界へ歩の移住に関しては能天気過ぎるが故に加減が分からずにやり過ぎた次郎衛門の自業自得な面もあったりはするのだが。
「フィリアたん。落着けって、場が異常に重苦しくなっちゃてるぞ。
ってか、俺ってマジに両親に捨てられてたのか……」
わざとらしく落ち込んで見せる次郎衛門の姿にフィリアの表情が強張った。
どうやら自分の失言に気が付いたらしい。
次郎衛門自身はまだ赤ん坊だった故に何故自分が孤児となったのか理由は知らなかったのだが、フィリアは次郎衛門と共に行動するにあたって事前に調べていたのだろう。
フィリアは何か言おうとするのだが上手い言葉が出て来ないようだ。
「なーんちゃって。今更そんな事はどうでも良かったりするんだよな。
確かに俺は両親に捨てられたのかも知れない。
皆からしたら化物だったりするのかも知れない。
でもそのお陰でこの世界の皆と会えた。
アイリィたんっていう家族も出来た。
何より―――――
フィリアたんに出会えた。
これ以上を望むってのはちょっとばかり贅沢過ぎるってもんだろ?」
「!? な、ななななに言いだしてんのよ!? そそそそんなの当たり前でしょう!?」
いきなりド直球を放り込む次郎衛門にフィリアの方が動揺し始めたっぽい。
視線が彷徨い次郎衛門を直視出来ずにそれでもチラチラとチラ見しており、その顔はタコさんをゆで上げたとしてもここまで真っ赤になる事はないのではないかという程に真っ赤だ。
素で普通にこういう事を言えちゃうのが次郎衛門の恐ろしいところである。
次郎衛門が正座させられた状態でなければかなり良い雰囲気になったかもしれない。
対照的に次郎衛門はあからさまに動揺しているフィリアの反応を楽しんでいるようだ。
その瞳は悪戯が成功した悪餓鬼のように輝いていた。
タコさんはそんな次郎衛門達の様子を眩しいものを見るかの様に見ていた。
「私もあなたの様になれるのでしょうか」
タコさんは自信無さ気に呟く。
やはり不安なのだろう。
「さてな。でもな、必要としてくれている人なら既にいるんじゃねぇか?」
隣に座っていた次郎衛門が答えながら指を刺す。
その指の先には心配そうな表情でタコさんの事を見つめる人魚ちゃんの姿があった。
「それに必要としている人間ならここにも居るぞ?」
「え? あなたが私を? それてどういう?」
次郎衛門の爆弾発言に戸惑いの声を発するタコさん。
それはそうだろう。
次郎衛門はついさっき程フィリアに対してド直球を放り込んでいたばかりだ。
それが舌の根も乾かぬうちに自分の事が欲しいと言われても困惑して当然と言えるだろう。
タコさんは困惑したままに恐る恐るフィリアへと視線を向けてみればフィリアに怒っている様子はない。
またかと言わんばかりに諦めた様子で溜息をついているだけであった。
そこでタコさんは一つの考えが思い浮かぶ。
これは所謂ハーレムという物への誘いなのではないのだろうかと。
人魚達の間では一夫一妻が当たり前ではあるが人間の貴族達の様な上流階級の者達は多くの妻を持つ者もいるという話を思い出したのである。
良く見れば次郎衛門の周囲には幼女からフィリアの様な美女まで揃っていた。
つまりハーレム要員として声を掛けているのかも知れないなどと思案するタコさん。
タコさんも人魚の一員である以上は良人となる者には自分だけを愛して欲しいという思いはあった。
だが次郎衛門達を見ていると彼等と賑やかに暮らす生活も悪くないのではないかと思えた。
次郎衛門は自分の事を魔物としてではなく扱ってくれた。
次郎衛門は自分の境遇に涙を流してくれた。
次郎衛門は初めて自分の事を必要と言ってくれた異性。
その事がタコさんにほんの一握りの勇気を与えたようだ。
「ほ、本当に? 本当に私の事が必要なの?」
怯えるように次郎衛門へと問いかけるタコさん。
その瞳には拒絶されるのではないかという恐怖の感情が映し出されていた。
所謂上げて落とすというあれである。
「ああ。お前が欲しい」
力強く頷く次郎衛門。
次郎衛門の答えに涙を零すタコさん。
「不束者ですが末長く宜しくお願いしまっしゅ!」
こうしてシープリーズの街を長年悩ませ続けた海の魔物問題は解決したのである。
そして数日後。
ラスクの街にジロー商会直営のタコ焼き屋がオープンしたのだった。
最後の一行を書きたいが為だけに始まった海編。
約2カ月も掛けてこの有様です。
でも後悔はしておりません!
しておりませんとも!




