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145話 増えた!?

「色ぼけしているリア充どもは全員死ねば良い!」


 浜へ打ち上げられるや否や、怨嗟の声と共に速攻で暴れ始めるタコさん。


 タコさんの触手が次郎衛門達に襲いかかる。

 それぞれの触手はまるで別々の意志を持っているかの様だ。

 鞭のようにしなる先端は時に打ち据え、時に柔軟に相手の体を絡めとるだろう。

 更に明らかに触手が元の長さより伸びて襲いかかって来ている。

 正に千変万化。

 想像以上にタコさんの戦闘能力は高いようだ。

 

「まずいな。俺達はともかく、サラちゃんや伯爵はまともに喰らったら即死だぞ」


 咄嗟にサラを抱かかえながら触手を回避する次郎衛門。


「確かにその通りでガハアアアアア! 何のこれしき! やせ我慢発動なのである」


 次郎衛門の言葉に頷いている間に吹き飛ばされるダイン。 

 完全に背骨が折れた感じでのけ反りひっくり返った割に次の瞬間には何事もなかったかのように起き上がる。

 相変わらずダインの理不尽な能力は健在であるらしい。

 そしてタコさんの攻撃はシグルド達にも及ぶ。

だがしかし―――――


 避ける。

 避ける。

 避ける。


 以前のシグルド達だったならば蹂躙されていたであろうタコさんの猛攻。

 それをシグルドやシーフである僕っ娘どころか魔女っ娘でさえも確実にその目で捉え回避出来ていた。

 自分達の身に起こった変化に驚き戸惑うシグルド達。


「強くなっているのか……」


 思わず呟くシグルド。

 しかし何故? シグルドは己自身に問いかけるが答えは出ない。


「シグルドよ。己の身に起きた変化に戸惑っているようであるな」

「父上? 父上には私達の身に何が起きたのか分かっておいでなのですか?」

「勿論だ。余は言ったであろう。ジロー殿もお前の事を気に掛けていると」


 そしてダインは語り出す。

 スイカバレーによって無駄のない闘気のコントロールが身に付いた事。

 砂の城作りで砂を運び続けた事によって不安定な足場でも縦横無尽に走る事が出来る強靭な足腰を手に入れた事を。


 そんな会話を繰り広げている最中にも再びダインは触手に叩きのめされてしまったので、言葉を少しばかり補足をする事にしよう。

 この世界では魔物を倒す事によってステータスが上昇する。

 それ故に多くの者はそちらの方へ意識が集中し基礎的なトレーニングを蔑にする者が多い。

 だからと言って基礎トレーニングが無意味という訳ではない。

 むしろとても重要な事なのだったりする。

 あまり知られてはいない事であるが魔物を倒す事によるステータス上昇はあくまでもベース能力に倍率補正が掛かっているという事なのである。

 基本的な能力が高ければ高い程、ベース能力x倍率補正となるので掛け算的にステータスは上昇すると言う事になる。

 魔物を倒す事で強くなるという常識。

 この常識こそがこの世界で生まれ育った者達に地道に己の肉体を鍛える事の重要さを見失わせていたのだろう。そして次郎衛門はその重要さに気が付いていたのだ。

 既に伸び代の無くなっていた筈のゲコリアスを魔改造する事によってベース能力を上げ、一端の戦士に変貌させていた事からもその事は伺う事が出来る。

 つまりシグルド達は砂運びで強靭な足腰を作りスイカバレーでそれを活かす為の繊細な闘気のコントロールを養っていたのだ。

 そんな訳でシグルド達とってここ一月程の地獄とも言える環境は実はとても効率の良いトレーニングだったという訳なのだ。

 


 一見傍若無人でふざけているだけに見える次郎衛門だが、その裏には実は相手に対する気遣いがある。

 騎士っぽい少女を諌めた時もそうだった。

 まぁ、その気遣いが相手に伝わっているのかは激しく疑問が残るところではあるが。

 それに対して己はどうだっただろうかとシグルドが自分自身の身を振りかえってみれば、次郎衛門の一挙一動に驚き、恐れ、怯え、疑ってばかりだった気がする。


 敵わないな。

 本当に敵わない。

 シグルドの心の中に次郎衛門へのそんな思いが込み上げる。


「ですが! せめてもの恩返しに成果を発揮させて頂くとしましょうか!」


 吹っ切れた笑みを浮かべタコさんへと駆け出すシグルドなのであった。



 さて、逸れてしまっていた話をタコさんとのバトルへと戻すとしよう。

 思ったより手強い。

 それが次郎衛門のタコさんに対する印象だった。

 基本的に次郎衛門の攻撃はピコハンによる打撃がメインなのだが、柔軟な触手に対してはあまり効果がななかった。そしてフィリアやアイラの魔法、アイリィの炎やピコのレーザー等もタコさんの水魔法によって防がれてしまうのだ。

 水魔法ならフィリアの雷が有効ではないかと思うかも知れない。

 最近のラノベを読む人ならば純水という物は電気を通さないという話を思い浮かべる人もいるかもしれない。

 だがこの世界での魔法はイメージに効果を大きく左右される為、タコさんの中では水は電気を通すという認識があるし海から近い事もあり水は海水を操作している状態だったりする。

 では何故無事なのかと言えば基本的には電気というものは抵抗の多い水中ではなく抵抗の少ない水面を移動する。

 人魚達はその事を経験則で知っていたりする。

 そんな訳でタコさんは雷を海面へと上手く受け流す事が出来るらしい。 

 

 勿論全力で攻撃すれば討伐する事は可能なのだろうが、タコさんの肉片を人魚ちゃんに引き渡して、これがお姉さんですよ、という訳にもいかないのだろう。


「姉さん! もうこんな事は止めて一緒に帰りましょ!」


 次郎衛門達を相手に一人気炎を上げるタコさんに必死に呼び掛ける人魚ちゃん。

 人魚ちゃんの呼びかけが届いたのかタコさんの動きが鈍る。

 そして―――――


「私に妹なんていない! イケメンに色気を振り撒くふしだらな妹なんていない!」


 より一層激しく暴れ出すタコさん。

 どうやらシグルドと密着していたところをバッチリと見られていたようだ。

まぁ、恋愛対象者達に魔物扱いされて絶賛お独り様ライフ続行中の姉の目の前で見せつけるようにイチャコラし出す妹が居たとしたら縁を切りたくなったりぶっ飛ばしたくなる気持ちは分からないでもない。

タコさんは怒りのままに人魚ちゃんに向かってその触手を差し向ける。

 そこには身内に対する加減などは微塵も存在していない。

 

 下半身が魚である人魚ちゃん。

 当然の様に陸上での行動は不得手だ。

 迫りくる触手から何とか逃れようと身をよじるものの避けきれない。

 もうダメだと思ったその瞬間。


 パチンという音と共に突然にタコさんの触手が切断された。

 それは次郎衛門の切り札ともいえる空間切断だ。

 次郎衛門もこの状況ではタコさんにある程度のダメージを与える事も止む無しと判断したっぽい。

 だがしかし。


「なんだとぅ!? 触手が増えた!?」


 何とタコさんの触手の切断面から新たな触手が生えたのである。

 しかも2本も。

 これには次郎衛門を始めとした一行も度肝を抜かれる。

 地球のタコにも見られる現象ではあるが、タコさんは自分の意志で触手を増やす事が出来るらしい。

 打撃に耐性があり、魔法にも強い。

 そして切り飛ばせば数が増える。

 厄介な事この上ない状況に追い込まれる次郎衛門達なのであった。 

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