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140話 お目覚めかい!?

中々海編の終わりに辿りつけないのでござる。

夏中に終わると良いなぁ

 とある少女の骨が砕けた翌日。

 砂浜には入念に準備体操を行う次郎衛門達の姿があった。

 シープリーズの街に訪れて約4週間。

 ようやく海に入る気になったようだ。

 

「よーし! 準備体操OK! それじゃ皆海へ突撃だぁ!」


 そう言い放つと海へと一直線に疾走する次郎衛門とそれを追うアイリィ。

 そんな次郎衛門達を微笑ましい様子で見守るシグルド達。


「え? ジロー殿?」


 シグルド達の表情が驚愕に染まった。

 海へと向かった次郎衛門とアイリィが海水に浸かる事無く海面を走り出したのである。

 別に次郎衛門達が魔法を使っているという訳ではないらしい。


「クハ! クハハハ! 烈○王に出来て俺に出来ない道理はない! 中国武術がなんぼのもんじゃい!」


 要するに漫画やアニメなどで見かけるあれを実践して見せているのだ。

 足が沈む前に次の一歩を踏み出せば沈まないというあれである。

 この時の次郎衛門とアイリィを目撃した漁師がいたらしく、後に海面を走る親子の怪談が生れたりもしたらしい。

 しかしこの後に及んでまだ海に入らないとか一体何しに来たのかと思わなくもないが本来の目的は魔物退治だった筈なので、普通に海水浴したとしてもそれはそれで駄目だったりする。 

 そしてあっという間に遥か水平線の彼方へと次郎衛門とアイリィの姿が消えていった。

 

「あの人達は本当に自由奔放ですね」


 相変わらずのフリーダム差加減に苦笑するシグルド。

 

「あれ? マスター達もう戻って来たようですよ。む? 何か持ってますね。あれって何なのでしょうか?」


 ピコの言葉に一同が水平線に目を凝らせば、遠くてまだよく分からないものの確かに次郎衛門が何かを担いでいるように見える。

 次郎衛門が近付いて来るに従って担いでいる物の輪郭がハッキリとし始める。 


「あ、あれって! まさか!」

「「「「人魚!?」」」」


 その場に居た者達が一斉に叫ぶ。

 そう。次郎衛門が持って帰って来たのは上半身が少女で下半身が魚という所謂人魚と呼ばれている生物だったのである。

 人魚とは上半身は女性で下半身は魚という人種だ。

 女性しか生まれない為に他の人系の種の男性と子を作る事によって子孫を残すらしい。


「クハ! クハハハ! 獲ったどおおおおお!」


 自慢げに叫び担いだ人魚娘を誇らしげに掲げる次郎衛門。

 次郎衛門に獲られた側の人魚娘と言えば完全にぐったりとしていて、鮮度はともかく活きの良さはないっぽい。

 

「獲ったどおおおお! じゃないわよ! 変なもん拾って来るんじゃないわよ! キャッチしたらキチンとリリースしてきなさいよ!」

「変なもん扱いは酷くないか?」


 人魚娘をそっと砂浜に降ろしつつフィリアに抗議する次郎衛門。


「それで一体どうしたのよこれ?」

「よくぞ聞いてくれたフィリアたん! あれは俺が32歳の時だった――――」

 

 いきなり思い出に浸りだしたっぽい次郎衛門。

 32歳の時も何も数分前の出来事の筈なのだが浸れる程の回想シーンなどがあるのだろうか。


「――――と思ったら今も32歳だったりするんだなこれが!」


 特になかったらしい。


「そういうどうでも良い演出は要らないのよ! 大人しく白状するか今すぐ死ぬか選びなさい!」

「うお! 落ちつけフィリアたん! 分かったって! 俺が気持ちよく疾走してたらこの娘が急に海面に顔を出して来て思わず顔面を思いっきり蹴飛ばしちゃったんだよ。それでその娘が華麗十三回転半捻りで着水しもののピクリとも動かないっぽいから持って帰って来た。ってな訳でフィリアたん回復よろしこ」 


 フィリアの剣幕に押されてあっさりと白状する次郎衛門。

 御自慢の感知能力で気付かなかったのかと思わなくもないが浮かれ過ぎてて水面下にまで気が回ってなかったようだ。

 十三回転半捻りで着水とか言っているがどう考えても跳ね飛ばされただけでむしろ交通事故に近い状況だと思われる。

 よく見てみれば人魚娘の鼻からは止め処なく鼻血が出ているし、道理で人魚娘がぐったりしている訳である。

 誰がどう見ても次郎衛門が悪い筈なのに当の次郎衛門と言えば悪びれた様子はあまりない。


「何で私がジローの尻拭いなんてしなくちゃいけないのよ」


 などとフィリアはブツブツと文句を言う。

 しかし次郎衛門のフォローやサポートはフィリアの役目でもある。

 結局放っておく訳にもいかずに結局人魚娘の傷を癒すフィリアであった。


「…… ここは? 人間族の街?」


 傷が癒え目を覚ましたらしい人魚娘。

 どうやら状況が飲みこめていないらしい。

 頻りに周囲を見回している


「お? お目覚めかい?」 


 そんな人魚娘に次郎衛門が話し掛ける。


「あ、あなた達は?」


 周囲を人間に囲まれている状況に怯えた様子を見せながら問いかける人魚娘。


「俺は鈴木次郎衛門だ。ジローって呼んでくれ。実は――――って訳なんだ。悪い!」


 軽く自己紹介をしながら人魚娘に事情を説明し、正直に謝る次郎衛門。

 しかし人魚娘は最初は次郎衛門の説明を中々信じなかった。

 人魚娘からしてみれば人間が水面を走れるだなんて話は到底信じられない話であったし、何より人魚は一部の人間達に攫われて愛玩動物として闇取引の対象になっていたりする。

 更に次郎衛門の人相の悪さも相まって人魚娘は次郎衛門達の事を誘拐犯の一味だと疑い話を信じなかったのだ。

 そこで次郎衛門が実際に海上を走って見せた。

 しばらく呆けたように海上を走る次郎衛門に見とれていた人魚娘だったが、ようやく次郎衛門の話に耳を傾け始めたのだった。 


「事情は分かりました。周囲をしっかり確認していなった私にも非はありますし、お互い水に流すとしましょう」 

「そう言ってくれると助かる」 

「水面を走れるという話には驚きましたけど、実演されてしまったら信じるしかないですもんね」


 そう苦笑する人魚娘なのであった。

 


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