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139話 キャッスルフラッグ開催!?

前回端折って書いたキャッスルフラッグを詳しく書いてみたくなったので書いてしまいました。

 キャッスルフラッグを開催する事になった次郎衛門達。


「転移はなしで良いよな?」


 次郎衛門の提案に一同は頷く。

 転移ありだと流石に転移出来ない者の勝算は完全になくなるので次郎衛門のこの提案はあっさり受け入れられる。 


「よーし! 俺の合図と共にスタートだ! レディ、ゴー!」


 次郎衛門の合図と共に一斉に王国国旗へと向かって走り出す。

 先頭争いを繰り広げるフィリアとピコ。

 僕っ娘と魔女っ娘を小脇に抱える次郎衛門が二人に続く。


「僕達二人を抱えてこの速度。本当に人外染みてる」


 僕っ娘が呆れたように呟く。


「クハ! 流石に手ぶらの奴等相手だと厳しいな!」

「遠慮などせずに私達を置いて行っても良いのですよ?」


 次郎衛門が不利な展開にぼやけば、魔女っ娘が次郎衛門を挑発する。


「絶対にこの手は離さねぇ!」

「…… 情熱的?」

「どうせ誰にでもそういう事言っているのでしょう?」


 次郎衛門の離さない宣言に僅かに動揺を見せる二人。

 

 

「水着の美少女と組んず解れつ出来る機会だなんて下手したらこの先一生来ないかも知れんからな! 俺は今! 全力で! お前達の鼓動を! 体温を! 吐息を! 汗ばんだ柔肌を! 全力で! 堪能中だ! 邪魔する奴は実の親だとしてもぶっ飛ばす!」


 やっぱり碌でもない事を言い出す次郎衛門。

 全力を二度もアピールしているところから察するに本気度だけは高そうだ。

 完全に目的が別のものになっている。

 ちなみに孤児であった次郎衛門には育ての親は居ても実の親はいないので実質的には邪魔する奴は漏れなくぶっ飛ばすつもりっぽい。

 

「女の敵!」

「いやあああ! 離して! 離してええええ!」

「ちょっと落ち着けって! こら! あばれるな! 」


 小脇の二人、コワッキーズは全力で次郎衛門に抵抗し始める。

 流石の次郎衛門も抱きかかえた人間が暴れたのでは満足に走る事も出来ずに先頭からドンドン引き離されていく。

 だが次郎衛門のその表情は非常に満足気であった。

 その後ろをシグルドと肩にマルローネを乗せたダインが追いかける。


「本当にあの人達は一体どうなっているんだ」


 悔しげに呟くシグルド。

 全力で走っているにも関わらず先頭のフィリアやピコどころかどうみても片手間な次郎衛門にすら追い付けないのだ。

 シグルドの心は悔しさと惨めさとで押しつぶされそうになっていた。


「悔しいかシグルドよ?」


 我が子の心情を汲み取ったダインが語り掛ける。


「…… はい」

「それで良いのだ」

「…… !?」


 僅かな逡巡の後、素直にその感情を認めるシグルド。

 そんなシグルドの心を肯定するダイン。

 己の醜さを叱責する事もなくそれが当然だと言わんばかりのダイン。

 父の思わぬ言葉に驚きの表情を作るシグルド。


「他者を認めるという事は存外難しい事なのだ。それが己より身分の低い者であったならば尚更である。余もその事を素直に認められるようになったのは三日ほど前の事であった」


 遅過ぎである。

 しかもドヤ顔である。

 まぁ、貴族の様な支配者階級に生まれた者には一生認められずに死んでいく者達もそれなりにいるので認められるようになったというだけでも立派な事だと言えるのかも知れない。


「み、三日ですか?」

「流石に三日というのは嘘なのである。真顔で驚かれても困るのだ。本当はラッセルと初めて出会った時であったから二十年以上は前の事であったよ」

 

 どうやら三日というのはダイン流のジョークだったらしい。

 存在自体がジョークみたいな癖に見た目が世紀末覇者な風貌なのでジョークが分かり辛いのである。

 ちなみにラッセルというのはダインの冒険者時代の仲間の事で、王子として調子に乗りまくっていたダインはフルぼっこにされた事があったようだ。

 やせ我慢のお陰で何とか死なずに済んだのだとダインは笑う。


「どうやら父上に気を使わせてしまったようですね」

「我が子を気にするのは当然の事である。それにジロー殿とてお前の事を気に掛けてくれている」

「ジロー殿が…… ですか?」

「うむ。この場に共にあるという事が何よりの証拠であろう」


 そう言ってダインは笑う。

 確かにどうでも良いような人間をわざわざ連れては来ないだろう。

 次郎衛門達が純粋に観光に来ただけだとしても連れて来たという事はそれなりに好意を持たれているという事なのだ。

 観光ではなく命が掛かるかもしれない依頼ともなれば尚更だ。

 そう考えれば今までの次郎衛門から受けた理不尽な仕打ちも許せるような気がしてくる。

 遥か前方を走る次郎衛門に視線を向けるシグルド。

 仲間の少女達を嬉々として抱きかかえる次郎衛門の姿が見える。

 シグルドは思う。


 やっぱり許せない。


 だが不思議と先程までの劣等感は治まっていた。

 

「父上! 先ずは我がパーティーメンバーを取り戻そうと思います! 御助力願えますか!」

「フハ! 勿論である! 行くぞ! 我が息子よ!」

「はい!」


 強制されていた先程までとは違い、自らの意志で走り始めたシグルドなのであった。 

 


 


 最後尾にいるのはアイリィと騎士っぽい少女である。

 しかもまだ一歩たりとも動いてすらいなかった。

 既に他の連中は城門に辿りつこうとしている。


「おい。行かなくて良いのか? 私としてはこのままリタイアしてくれると嬉しいのだがな」


 肩車された状態の騎士っぽい少女がアイリィへと問いかける。


「んー。大丈夫。準備出来た!」

「準備?」

「見てれば分かる!」


 そういうなりアイリィは自らの背中に漆黒の翼を生やす。

 小柄なアイリィどころか騎士っぽい少女ですら覆い隠せる程巨大な翼だ。

 翼が羽ばたく。

 ふわりとアイリィ及び騎士っぽい少女は空へと舞い上がる。


「え!? 飛んだ?」

 

 騎士っぽい少女が戸惑うように呟く。

 そんな騎士っぽい少女を無視するかの様に翼は二度、三度と羽ばたく。

 羽ばたく度に王国国旗に向かう速度が増して行く。

 眼下でセクハラに勤しむ次郎衛門をあっさりと抜き去り更に加速していく。

 このまま進めば真っ先に王国国旗へと辿り着けるだろう。


「ちょ!? 怖い! 怖い怖い怖い怖い!」


 空を飛ぶという未知の経験に騎士っぽい少女が悲鳴を上げる。

 その目には既に涙が浮かんでいる。

 というか涙垂れ流し状態だ。

 まぁ、垂れ流されているのは涙だけではなさそうだが具体的に明言するのは避けようと思う。

 そして眼前には王国国旗と天守閣が迫る。

 アイリィに避ける気配は全くない。

 もうダメだぶつかると騎士っぽい少女は思わず目を閉じる。


 そして騎士っぽい少女に訪れる衝撃。


 断ち切られる意識。


 圧し折れる王国国旗。


 吹き飛ばされる天守閣。


 砕かれる騎士っぽい少女の骨。


 そして―――――


「アイリィがちゃんぴおーん!」


 王国国旗だったものを握り締めて喜ぶアイリィ。

 後にこの場に立ち会ったブルックス伯爵は語る。

 アイリィの手に握られている国旗の残骸は、彼等の扱いを間違えればこの国の未来もこうなるぞと暗示しているかのようであったという。


 結局は出遅れた感こそあったが終わってみればアイリィの圧勝であった。

 こうしてアイリィがチャンピオンの栄冠に輝き、第一回キャッスルフラッグの幕は閉じたのであった。


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