138話 これでゆっくり休める!?
スイカバレーの次は砂の城作りだ。
シープリーズの街の砂浜はかなりの規模の砂浜だったりする。
その砂浜の砂を使い尽くす勢いで次郎衛門達によって巨大な建造物が作り上げられていった。
当然そんな規模の城を一日で造りきれる筈もなく、日が沈めばBBQパーティーを楽しむ一行。
だがBBQパーティーを楽しむ余裕がありそうなのは次郎衛門達パーティーメンバーと国王夫婦くらいのものだった。
他のサラやシグルドとそのハーレムメンバーやブルックス伯爵は炎天下の中で厳しい日差しに肌を焼かれながら延々と砂を運ぶという重労働にぐったりしている始末であった。
「何かシグルド達妙にやつれてないか?」
「はは…… この日差しの中での城作りが中々にハードでして……」
次郎衛門の問いかけに正直に答えるシグルド。
そんなシグルドの様子を見てどうやら反省したっぽい次郎衛門。
「今日からは昼飯の休憩時間を多めにとる事にするか!」
「ジ、ジロー殿! ありがとうございます!」
次郎衛門の配慮に感激し涙ぐみ始めるシグルド。
次郎衛門達としては砂遊び程度の事だったのだが、シグルド達にとっては相当に過酷な環境だったようだ。というかシグルド達が砂の城作りをやらなければいけない義理もなければ義務もない。
わざわざ次郎衛門達に付き合う必要はないという事にシグルド達の誰一人として気が付いていないところがちょっと哀れに思う。
彼等は日々の作業が過酷過ぎて思考力を失っているのかも知れない。
そしてその日の昼食後。
今日から少しは楽出来るとシグルド達が気を抜いた時だった。
「よっしゃ! 折角の休憩時間だし皆でスイカバレーでもやろうぜ!」
折角休めると思いきやこれである。
勿論次郎衛門には嫌がらせをしようという思惑など全くない。
休み時間は元気に遊ぶものだという小学生的な発想なだけなのである。
「ちょ!? ジロー殿ぉぉ!?」
嫌過ぎる展開に悲鳴に近い声を上げるシグルド達。
それも当然だ。
午前中ずっと砂運びに従事していたのだ。
既に連日の疲れも溜まり疲労はピークに達している。
そんな状況でやっと少し休めると思った瞬間にスイカバレーだ。
スイカバレーは細やかな闘気のコントロールが必須という極めて難しい競技だ。
今のシグルド達にとってスイカバレーはもはや拷問以外の何物でもなかった。
「うんうん。シグルド! 元気一杯だな! んじゃ、早速やろうぜ!」
シグルド達の悲鳴にも似た叫び声が次郎衛門には歓喜の声の様に聞こえているようだ。
シグルド達の主張は次郎衛門には伝わっていなかったらしい。
こうして日中は砂の城の建造とスイカバレーを行い、日没後にはBBQパーティーに明けくれる一部の面子には苦行でしかない日々が続いたのだった。
三週間後。
次郎衛門達の手によって見上げるような巨大な城が完成していた。
しかもこの世界では見る事のない日本風の城だ。
普通ならば砂の城などちょっとした事で崩れてしまうのだろうが魔法によって強化されており崩れることもない。
ちょっとした観光スポットになりそうな気配すらある。
更には本物の城と同様に籠城だって出来ちゃう位リアルに作られていたりする。
「よっしゃ完成だ! 皆よく頑張ったな!」
次郎衛門の言葉に一同の歓声が上がる。
感極まって涙ぐむ者達もいた。
シグルドとそのハーレム3人娘、そしてサラとブルックス伯爵だ。
特にシグルドとブルックス伯爵に到っては日焼け止めも碌に塗っていなかった。
その所為で二人の見た目はかりん糖の如しだ。
「こ、これでやっとゆっくり休める……」
放心状態で呟くかりん糖その壱。
「そ、そうですね。もう魔物なんてどうでも良いからゆっくり休みたいですな」
かりん糖その弐も力なくその意見に同意した。
かりん糖その弐にとっては魔物の問題は死活問題である筈なのにだ。
余程この三週間が苛酷であったようだ。
「よし! それじゃ早速ビーチフラッグやろうぜ!」
「な!?」
かりん糖達の思いもなんのその。
元気一杯で叫ぶ次郎衛門。
「い、今からですか?」
「天守閣にある旗をとったやつがチャンピオンだ!」
確かに次郎衛門の言う通り天守閣のドルアーク王国の国旗が燦然とはためいていた。
どうやらビーチバレーとスイカ割りを融合させたように砂の城作りとビーチフラッグを融合させるつもりらしい。名づけるならばキャッスルフラッグとでもいったところか。
今回ビーチフラッグもやってしまえば、海でやりたい事の要望は海に入りたいという事だけになる。
というか、折角海に来たというのだから真っ先に入っとけよと思わなくもない。
何故こいつ等は海にも入らずに砂の城作りに心血を注いでいたのか理解に苦しむところだ。
「い、嫌です!」
「え?」
絞り出す様に言い放つかりん糖の言葉に次郎衛門は思わず聞き返す。
「嫌だといったのです! こんな状態であの城に突入なんてしたら死んでしまいます!」
ここに至ってようやくかりん糖その壱改めシグルドが決死の覚悟で次郎衛門に反抗し始める。
だがそれも仕方ない事なのかもしれない。
既にシグルド達は体力の限界といって良い程に疲弊しきっているのだ。
その上キャッスルフラッグの会場となる砂の城は実際に籠城出来る城なのだ。
侵入者を待ち受ける様々なトラップも当然の様に備えていたりする。
万全の状態であってもシグルド達にとっては危険なトラップも多い。
今の状態で突入などすれば確実にシグルド達の人生はゲームオーバーとなるだろう。
シグルド達とサラ、そしてブルックス伯爵は一目散に逃げ出す。
己の生存を掛けて走る。
目指すは彼等が滞在している伯爵の館。
館に辿りついたからと言っても特に状況が変わるという事はないかも知れない。
それでも一縷の望みを掛けて彼等は走る。
『 し か し ま わ り こ ま れ て し ま っ た 』
シグルドの行く手を遮ったのは次郎衛門達ではなく国王ダインとその妻マルローネであった。
「シグルドよ。余と共にチャンピオンを目指そうではないか!」
「父上は私に死ねと仰るのですか!」
父であるダインに必死に訴えるシグルド。
そんなシグルドに対してダインは穏やかな笑みを浮かべて語り掛ける。
「そうではない。シグルドよ。死ぬと思うから死ぬのだ。大丈夫だと思えば意外と大丈夫なのである」
独自の超理論を展開し始めるダイン。
「その理屈で死なないのは父上だけですからね!?」
ヤケクソ気味に突っ込むシグルド。
確かにシグルドの言う通りでそんな精神論で何とかなるのはダインだけだ。
普通は致命傷を受けたら死ぬ。
恐らく次郎衛門でも死ぬ。
「落ちつけって、ちょっとしたお遊びだ。誰も死にはしないって!」
何時の間にか追い付いた次郎衛門が逃がさないとばかりにシグルドに声を掛ける。
既に次郎衛門の小脇には僕っ娘と魔女っ娘が捕獲されていた。
そして騎士っぽい少女は定位置になりつつあるアイリィの肩車だ。
彼女達の表情には諦観の色が浮かんでおり、抵抗する素振りさえ見えない。
それも当然だ。
次郎衛門どころかダインまでやる気満々なのだ。
彼等は次郎衛門の言う事を聞く義理はあっても義務はない。
いや、実際のところ義理もないのだけれど。
しかし彼等はダインの言う事は聞かない訳にはいかないのだ。
シグルドにとっては実の父であるし、ハーレム3人娘やサラ、ブルックス伯爵にとっては国王だ。
そしてキャッスルフラッグも無事…… とは言えないかも知れないが開催される事となる。




