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136話 それじゃいきますよ!?

 サラの水着姿を見るなり完全に動きを停止する次郎衛門。


「ジ、ジローさん?」


 そんな次郎衛門の様子に戸惑うサラ。 


「クハ! クハハハハ! 犬耳最高! 犬尻尾も最高だ!」


 感極まった様子で最高と連呼しまくりサラへと詰め寄る次郎衛門。

 どうやら次郎衛門はサラを性的な目で見ているのではないらしい。

 性的な目で見てないのであれば一体どんな目で見ているのかと言えば。


 ずばりモフモフである。


 世の中にはそういった生き物をこよなく愛する人種が確かに存在する。

 地球では北の大地に王国を築いた男や「それでも動物が好き」という名言を放った女などが有名だ。

 そして次郎衛門のモフモフ好きはそれらの偉人達に決して劣るものではない。


 じわじわとサラへとにじり寄る次郎衛門。


「ひっ!?」


 尋常ではない次郎衛門の様子に後ずさるサラ。

 明らかに次郎衛門を警戒しているようだ。

 実のところ次郎衛門がサラを性的な目で見てようが見ていなかろうが関係なかったりする。

 どっちにしても捕まれば結局はモフられるからだ。

 いや、性的な目で見ていない今の方が犬猫と同じ扱いな分、サラの女としてのプライドは傷つく事になるのかも知れない。

 そんな訳で次郎衛門がにじり寄ればサラがその分後ずさるといった感じの奇妙な間合いの測り合いが展開される事となった。

 だがSランク冒険者である次郎衛門に対しサラは悲しいかな普通の一般人女性である。

 そこには歴然とした力の差が存在していたりするのだ。

 

「ん?」


 不意に次郎衛門は何かを見つけたかの様にサラから視線を逸らした。


「え?」


 思わず次郎衛門の視線を目で追ってしまう。

 だがそれは次郎衛門の罠であった。

 サラが次郎衛門から視線を逸らしたのはほんの僅かな短い時間だった。

 次の瞬間サラの目に飛び込んできた光景は―――――


 次郎衛門の土下座。


 次郎衛門は土下座をしていた。

 それは完全無欠の土下座であった。

 誰がどう見ても土下座以外の何物でもなかった。

 ちょっとお洒落に表現するのならばDOGEZA☆である。


「え? ええええ? ちょ、ちょっとジローさん! 止めてくださいよ!」


 訳が分からずに軽くパニック状態に陥るサラ。

 襲われれるかと思ったら土下座されたのである。

 サラでなくても意味不明だろう。


「サラちゃん頼む! 一生のお願いだ! どうか、どうか! 魅惑の尻尾で俺の顔をふぁさってやって下さい!」


 とんでもない事を願い始める次郎衛門。

 馬鹿である。

 愛らしい尻尾で撫でられるという行為はモフモフ好きにとっては堪らない行為かも知れない。

 確かにこれは力づくでは達成する事は難しいだろう。

 その為には土下座すら厭わない漢の姿がそこにあった。


 しかしサラにとって次郎衛門の願いは簡単にはいそうですかと受け入れられるものでもない。

 獣人の耳や尻尾といった部分は家族や恋人といった特別に親しい人にしか触らせない部位なのである。

 つまり次郎園門の要求は獣人側の視点からすれば愛の告白に等しい。

 勿論サラも次郎衛門にそんなつもりはない事は理解している。

 だが次郎衛門はこの国の最重要人物と言いきってしまって良い立場にいる存在だ。

 なにせ次郎衛門の気分次第で国が滅びかねないのだ。

 しかもこの場には何故かこの国で一番偉い筈の国王までいる。

 そしてサラは身分としてはただの平民でしかない。

 そんなサラに対して躊躇いなく重要人物である次郎衛門が土下座しているのだ。

 その光景はサラに何とも表現し難い奇妙な快感のようなものを与えていた。

 その結果―――― 


「い、一度だけなら……」 


 サラは断りきれずに一度だけという条件でOKしてしまったのだった。


「よっしゃあああああ!」


 まさかのOKに拳を握りしめ咆哮する次郎衛門。

 次郎衛門のなりふりの構わない気迫が勝利を摘み取った瞬間であった。

 そして次郎衛門はまるで上流から下流へと流れる水のように滑らかに土下座から正座へと体勢を変える。

 そのまま微動だにしなくなる次郎衛門。

 その佇まいは修行僧を彷彿させるものがあった。

 どうやら正座のままでサラに尻尾をふぁさって貰うつもりのようだ。


 サラは次郎衛門の前に立ちゴルフのスイングの様に軽く尻尾を振りまわす。

 サラの尻尾を五感をフルに研ぎ澄ませて待ち受ける次郎衛門。

 傍目には十代半ばの水着少女のお尻を嗅ぐ三十代のおっさんの図の完成だった。

 しかもそれを見守るのが国王、王妃、王子、伯爵といった王侯貴族達なのだ。

 途轍もなくシュールな光景である。

 この国の未来は本当に大丈夫なのだろうか。

 多分駄目だろう。


 充分に素振りを繰り返し、ふぁさる手応えを掴んだっぽいサラ。

  

「そ、それじゃ行きますよ?」

「おう! ばっちこーい!」

 

 期待に目を輝かせる次郎衛門。 



 そして次郎衛門が待ち望んだ瞬間が――――――







 訪れなかった。



 フィリアの降臨である。


「ジロー…… サラ…… あんた達二人きりで何してんの……?」



 凄まじい怒気と冷気を湛えて立ちはだかるフィリア。

 驚きと共にジローとサラが周囲を見回してみれば先程までガン見していた筈の連中が誰一人としていない。どうやらダインを始めとする者達はいち早くフィリアに気が付き逃走を謀ったっぽい。

 妙にフィリアが静かだと思ったらどうやら日焼け止めを入念に塗っていた為に他の女性陣より遅れて来たという事らしい。

 折角男共に、というより次郎衛門に水着姿を見せてやろうと思ったら当の次郎衛門はサラとエロそうな事をしていたのだ。

 そりゃフィリアも怒るってものである。

 

 

「フィ、フィリアたん!? こ、これはだな! 別にイヤラシイ意味はなくてだな!」 


 慌てて言い訳を始める次郎衛門。

 このままならフィリアにぶっ飛ばされる事必至だ。

 必至な未来を回避する為に必死に言い繕おうとしていた。


「へぇ…… それで……?」


 だがフィリアの心に次郎衛門の言葉が届いている様子は全くないっぽい。


「わ、私は嫌だって言ったんです! でもジローさんが無理やり!」


 あっさりと次郎衛門を売り飛ばすサラ。

 そこに何の躊躇もなかった。


「ちょ!? サラちゃん? 何言い出すの?」


 多少強引ではあったものの合意の上での行為だったつもりの次郎衛門はサラに必死に縋りつく。


「ジローさん離してください! 私はまだ死にたくないんです!」

「一人で死ぬのは嫌だ! サラちゃん一緒に死のう!」


 だがそこはSランク冒険者でもある次郎衛門。

 心中しそうな台詞とは裏腹にドサクサに紛れてちゃっかりサラの尻尾を握りしめていたりする。 

 そしてそれを見逃すフィリアでもなかった。


「見せつけてくれるじゃないの…… 」


 実際には次郎衛門が勝手にサラの尻尾を堪能しているだけなのだが、どうやらフィリアには今も二人がイチャついている様に見えるらしい。


 心なしかフィリアの背後に吹雪が見える様な気がする。

 いや、本当に吹雪いていた。

 砂浜には雪が積もり海に至っては完全に凍りついている。

 フィリアの発する冷気に身を震わせ縋り付きあって怯える次郎衛門とサラ。

 そんな行動が更にフィリアの神経を神経を逆なでする。

 完全に悪循環だ。


「言い残す事はあるかしら……」


 今にも凍死しそうな二人に問いかけるフィリア。

 今この時が次郎衛門達が助かる為の分水嶺と言えた。

 可能性は低いがフィリアの機嫌を直す事が出来れば二人はまだ助かる事が出来るかも知れない。

 次郎衛門とサラ、二人の視線が交わると互いに頷き合う。

 どうやら二人の中で何かが通じ合ったっぽい。  


 そして意を決して次郎衛門が口を開く。 


「俺達アツアツです。夏だけに? なんちゃって! は、ははは……」


 命乞いの為の言葉がダジャレだった。

 しかも妙にイラっと来るクオリティのダジャレだ。

 次郎衛門の言葉にサラの表情が絶望に染まった。

 どうやら二人は全く通じ合ってなかったらしい。

 意味ありげに頷きあっていたのは一体何だったのだろうか。

 


 その日シープリーズの街は未曾有の強烈な寒波に飲み込まれたのだった。

 

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