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135話 生きてて良かった!?




 ここはドルアーク王国屈指のリゾート地として名高いシープリーズ。

 王都まではひとっ飛びだだった次郎衛門ではあるが流石に行った事のない場所、つまり座標の分からない場所への転移は基本的には出来ない次郎衛門であるがそこは空間把握能力と尋常ではない視力を活かして比較的短距離の転移を繰り返した結果、通常は王都から2週間は掛かる道程を僅か2時間で走破していたりする。つまり次郎衛門達は通常ラスクから最低でも一月半は掛かるであろう距離を二時間ちょいと遠足でも行っちゃおうぜ! 的なノリで移動してしまったのだ。


「うっひょー! 海だ海! まじで海だー!」

「うむ。海である! 余も海は久しぶりなのである!」


 この世界の海にテンション上がりまくりの次郎衛門と国王ダインの姿あった。

 波打ち際で波と戯れながらキャッキャとはしゃぎまくりだ。

 中年に差し掛かろうかという次郎衛門と紛れもない中年であるダインのおっさん二人が波と戯れる様子はシュールでそれを見る者に乾いた笑いを浮かべさせてしまっていた。

 ダインはシグルドを拉致る際に騒ぎを聞き付け王妃であるマルローネと一緒についてきたのだ。

 さて、この世界の海もぱっと見は地球の海と大差はないようだ。

 ただし地球の海には存在しない生物はいるっぽいので生態系はかなり違いそうではある。

 そんなはしゃぐ二人を生温い目で見守る男が二人。

 一人はシグルドで、もう一人は依頼主でシープリーズの街の領主でもあるブルックス伯爵だ。


 何故この場にブルックス伯爵が居るのかと言えば話はこの街に辿りついた時に遡る。


「そいえば、海に気を取られて依頼の手続きしてないような?」


 シープリーズの街に辿りついてからまだ依頼を受けて居なかった事に気が付いた次郎衛門。

 その手続きを行ってくれる筈のサラを拉致っておきながら今更ではあるが。


「海…… そしてこの街での依頼…… まさかジロー殿!?」 


 そのまさかである。

 流石にシグルドも高位の冒険者をやっている訳ではないっぽい。

 依頼と聞いてピンと来るものがあったようだ。

 海に行くとしか聞いていないシグルド達にとっては寝耳に水の話だった。

 ただ、次郎衛門と関わっていると寝耳に煮えたぎった油や溶けた鉄くらいの物が注がれる事態には結構遭遇する事になるので彼らには強く生きて欲しいと心から願わずにはいられない。



 シープリーズの街にも規模は小さいが一応ギルドは存在していたのでそこで手続きをしようとした次郎衛門達。

 そこでこの依頼は特殊で受けようとする冒険者は漏れなく依頼人であるブルックス伯爵の面接が必要だと言われてしまう。

 この依頼は領主であるブルックス伯爵にとって最重要案件と言っても良い問題だ。

 伯爵が冒険者を直に見極めてその目に適った者しか受ける事が出来ないらしい。

 ってな訳で次郎衛門達は「伯爵いる?」と隣の家にでも遊びに行くかのような気軽さで伯爵邸に乗り込んだ。

 伯爵家に仕える騎士や兵士達は行き成りやってきた得体の知れない次郎衛門を門前払いにしようとしたのだが次郎衛門はこれを強硬突破(この場合は凶行突破と言った方がしっくり来るかも知れない)した。

 これに対して伯爵側も貴族としての意地からか徹底抗戦の意志をみせる。

 しかし誰一人として次郎衛門を仕留める事は出来ず伯爵邸陥落も目前という事態に至って状況に絶望したブルックス伯爵が降伏を選択。

 そこでようやくブルックス伯爵は次郎衛門達一行の中に現国王と第一王子が居た事を知りもう全部終わりだと言わんばかりの表情で崩れ落ちる。

 というか、単純にイケメン冒険者的な感じのシグルドはともかく世紀末覇者的な風貌の一度見たら一生忘れる事はないだろう自国の国王に気付かなかった騎士に騎士道について小一時間ばかり問い詰めてみたいところである。

 そして次郎衛門がSランク冒険者で依頼を受けにきただけという事実を王子でありこの面子の中でもっとも常識人であるシグルドから知らされ、ブルックス伯爵は安堵と共に号泣するという恥ずかしい醜態を曝しちゃったりもした。

 そして依頼の件に関しては国王同伴のSランク冒険者である次郎衛門からの逆指名をブルックス伯爵が断れる筈もなく次郎衛門達が引き受ける事になった。

 更には国王ダインや王子であるシグルドが同行している為に王国の伯爵であるブルックス伯爵も一緒に行動を共にしているのだ。

 随分と端折った説明ではあったが詳しく説明するとそれだけで作者の執筆速度では夏の時期も過ぎ去ってしまいかねないので勘弁して欲しい。


 そんな訳で魔物が出るという砂浜に次郎衛門達はやって来ているのだ。

 何故次郎衛門とダイン、つまりおっさん二人が波と戯れているのかと言えば。

 フィリアを始めとする女性陣は絶賛着替え中なのだ。

 何に着がえているのかは敢えて説明するまでもないだろう。


 そして遂に次郎衛門待望の瞬間が訪れる。


「パパー! アイリィ可愛い?」


 その声に次郎衛門が振り返れば何故かスク水を身に付けたアイリィが次郎衛門へと飛び付いた。

 何故スク水? と思わなくもないが確かにアイリィによく似あっている。


「おおー! 良いぞ! アイリィたん完璧だ!」


 長めの黒髪をきっちりと水泳キャップに収めてはしゃぎまわるアイリィ。

 その姿は見る者全てをほっこりと和ませる愛らしさがあった。


「アイリィたんが着がえ終わったって事は……」


 期待に目を輝かせながら周囲に目を向ける次郎衛門と結構高貴な身分の男三人。

 雄としてのサガなのでこればかりは彼等を責めても仕方がないだろう。

 そこには次郎衛門が待ち望んでいた光景が広がっていた。

 各々水着に着替えた女性陣である。

 流石にうら若き女性が露出度の高めの水着を着るという事に若干の抵抗があるようで恥じらいモジモジしている様が彼女達に何とも言えない絶妙な魅力を上乗せさせていた。 


「お、おお……」


 言葉にならない感動に打ち震える次郎衛門。


「マルローネは何時でも若々しく美しいのである!」


 躊躇わずに嫁を称賛するダイン。

 相変わらず夫婦仲は良好らしい。


「!!?」


 女性陣の想像以上の破壊力に赤面するシグルド。

 とても遂さっきまで彼女達とあ~んしていたイケメンと同一人物とは思えない。

 

 そして―――――




「生きてて良かった……」


 


 眼福な光景に思わず呟くブルックス伯爵。


 その目にはうっすらと涙すら浮かべている。

 下手したら拝みだしそうな気配すら感じられる。

 地球ならば「お巡りさんこの人です!」と叫ばれそうな状況である。

 この街の領主なので実際は取り締まる側の人間だったりする。

 なので「この人です!」と叫ばれた所でやって来るのはブルックス伯爵の部下だったりする。

 叫ぶ意味はなさそうだ。

 確かに眼前に広がる光景は素晴らしい絶景ではある。

 しかし泣く程の出来事なのかと思わなくもない。

 だが実際の所、伯爵は結構厳しい状況であったりする。

 主な収入源が観光であるこの街は数年に渡って魔物の出現に悩まされている。

 討伐隊を差し向けてみたものの海中に潜む魔物に手も足も出せずに討伐隊は惨敗。

 幸い討伐隊や観光客に死者などは出ていないものの、観光による収入は壊滅的なダメージを受けている。

 ぶっちゃけた話、破産寸前という所まで追いつめられているのだ。

 日に日に貧しくなる生活に妻は愛想を尽かし娘を連れて実家に帰ってしまった。


 若い女性の水着という華やいだ光景が、全てを諦めかけて不毛の砂漠と化していたブルックス伯爵の心に潤いの雨をもたらしたっぽい。

 そして潤いの雨がブルックス伯爵の心を満たし溢れ出た言葉が先程の台詞である。

 若いお姉ちゃんにハアハアしてしまっただけでは…… ないと思いたい。


 

「あ、あの…… これ似合っているんでしょうか?」


 不安気な声が響いた。

 その声に次郎衛門が視線を向けてみれば。


 ぴくぴくと周囲を警戒するように動く犬耳。

 恥ずかしそうに頬を染めながらもはにかみ笑うその表情。

 慎ましくとも弾力と若々しさと未来への希望を予感させる胸。

 キュッと引き締まったウエスト。

 水着のお尻の部分から飛び出し不安げに揺れる尻尾。


 そこには大胆にもビキニタイプの水着を身に付けたサラの姿があったのだった。


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