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132話 この私が負けるだなんて!?

何時も読んで頂きありがとうございまっす!

「ファイブカードだ!」


 店中に見せつけるつける様にカードを開く次郎衛門。

 そこには確かにエースの、つまりは1の札でファイブカードが揃っていた。


「そ、そんな馬鹿な……この私が負けるだなんて……」

「クハ! クハハハハ! フィリアたん破れたりぃ!」


 フィリア口からの敗北を認める言葉が紡ぎ出され、次郎衛門が高らかに勝ち名乗りを上げる。

 それと同時に参加者達の怒声にも似た歓声が巻き起こった。


「うおおおおお!」

「良かった本当に良かったよおおお!」

「だ、誰か回復魔法かポーションを……」


 

 喜びに歓声を上げる者、隣の者と涙を流し合う者、悔しげに舌打ちする者、うっかり先走って腹を切ってしまった者などその様子は様々だった。

 まさかの敗北に茫然と立ち尽くすフィリア。

 優勝者にチューを、しかも濃厚なのをしなければいけない看板娘も立ち尽くしている。

 ついでに店にいる者達とのキスが出来なくなった店主も立ち尽くしている。

 以前から多少はその兆候が見えてはいたが看板娘の使用済みスプーンにただならぬ興味を示したり、男とのキスもウェルカム状態だったりと、このドワーフの店主は相当ヤバい部類の生き物であるっぽい。

 そんな三人とは対照的に店内は歓喜の坩堝と化していた。


「そ、そんな。私に勝てるのなんてお母様くらいしかいない筈なのに……」


 未だに自分の敗北が信じられないフィリア。

 次郎衛門のカードと自らのカードを見つめながら茫然としていた。

 何度見比べても次郎衛門はエースのファイブカードでフィリアはハートのロイヤルストレートフラッシュだ。


 そこでフィリアはある事に気付く。

 まぁ、多分お気付きの方も多かったと思う。

 書き間違えたんじゃねーの? と思われた方もひょっとしたらいるかも知れない。


「ちょっと待ちなさいよ」


 底冷えするかのような声でフィリアが呟く。

 決して大きな声ではないのだが不思議と湧き立っていた店内に響き渡った。

 そのフィリアの言葉には有無を言わさせぬ迫力が込められていたからだ。


「ジロー…… 正直に答えなさい。何でハートの1が二枚もあるのよ?」

「「「「え?」」」


 それまで喜びに湧き立っていた参加者達が一気に静まり返る。

 フィリアの手札のロイヤルストレートフラッシュは当然だがハートの10、11、12、13、1の札で

揃えられている。

 そして次郎衛門の手札は各種の1とジョーカーが揃っている。

 当然その中にはハートの1も含まれていた。

 確かに誰が見ても場には2枚のハートの1が存在していた。

 普通なら絶対にあり得ない光景だ。

 確率的に厳しいとかいう問題ではなく物理的にあり得ない。

 折角助かったと思いきや、何だか妙な雲行きに参加者達は戸惑いを隠せずにおろおろとしている。 


「濡れ衣だ! むしろフィリアたんの方こそが怪しいだろ!」


 徹底抗戦の構えを見せる次郎衛門。

 たしかに今までのフィリアの強さはイカサマをしていたと疑われても仕方ないくらいに無双っぷりであった。

 だがフィリアは動じない。

 配られなかった山札のカードを店主から奪い調べて行く。

 するとどうだろう。

 ハート以外の1どころかジョーカーまでもが山札の中から出てきたのである。 




「何か1が沢山出てきたんだけど?」


 思いっきり冷めたジト目で次郎衛門を問いただすフィリア。

 流石にこの状況では次郎衛門とフィリアではどうみても次郎衛門の方が疑わしい。

 

「ヨノナカフシギナコトモアルモノダヨネー」

 

 次郎衛門が惚けようとしているが既に口調が露骨に怪しい。 

 その上、ダラダラと汗を掻き、次郎衛門の目は超気持ち良い人もびっくりな勢いで華麗に泳ぎまくっている。その速度は多分海のダイヤとも言われるクロマグロよりも速い。

 まぁ、この世界にクロマグロが存在すのかどうかは分からないが。

 これでは自らに非があると自白している様なものである。


「そんな訳あるかあああああ!」


 フィリアの怒号が響き渡る。


「うぎゃああああ!?」


 次郎衛門の悲鳴も響き渡る。


「だからお前等店の中で暴れるんじゃねぇ! 店が! ワシの店があああ!?」


 御約束の様に店主の悲鳴も響き渡ったりもした。

 

 次郎衛門のやらかした事のタネを明かせば何と言う事はない。


 現状としてトランプはジロー商会の商品なので次郎衛門自身も販促用にトランプを幾つか持ち歩いていたりする。

 となれば後は次郎衛門お得意の空間転移の出番である。

 配られたカードと元々持っていたカードを空間転移によってすり替えればあら不思議!

 あっという間にファイブカードの出来あがり! という訳である。

 ちなみにフィリアが持っていたカード以外でファイブカードを揃えれば良かったんじゃないかという意見もあったかも知れない。

 次郎衛門は気付かれない様にやろうと思えば出来た。

 だが次郎衛門はわざとばれる可能性があるように仕込んでいたりする。

 次郎衛門は女性には悪戯もするが意外と甘い部分もある。

 もしもフィリアと看板娘が本当に次郎衛門とのキスが本当に嫌だったならばそれを回避出来る道を残していた。

 それが同じカードを同時に場に存在させる事でイカサマに気が付かせる事だった。

 店主とキスをしたくない他の参加者達はイカサマに気が付いたとしても黙っているだろう。

 となれば、フィリアや看板娘が次郎衛門とのキスを満更でもなく思っていたのならイカサマに気が付いても黙っていてキスすれば良いし、何が何でも回避したかったのならばイカサマを指摘するだろうという打算が次郎衛門にはあったのだ。

 二人が本当に気付かなかった場合は遠慮なくその唇を貪っていただろう。

 まぁ、普通は満更でもなく思っていた相手だとしても公衆の面前でその相手との初めてのキスをするような女性はそうはいないと思うのだが、そこまで考えていない辺りがとても次郎衛門らしいと言える。

 

 こうして次郎衛門の反則負けが確定した。

 その結果、店主が大ハッスル! 

 店中に参加者達の悲鳴が響き渡る事となり店内に大量の屍積み上げられた。

 勿論次郎衛門もその屍の列に加わっていた事は語るまでもない。

 ちなみに一番往生際悪く逃げ回ったのはハイエルフのアイラだった。

 結局は捕獲されて屍の山に加わったが。


 無事に優勝者にディープなキスをしなければならない危機から脱した看板娘といえば。


「フィリア! ありがてゅ!?」


 礼を言っている最中にフィリアに顔面を鷲掴みにされていた。

 所謂アイアンクローの状態である。

 フィリアならばそのまま握り潰す事も簡単だろう。

 万力の如き力で顔面を締め付けられた看板娘は必死に逃れようともがくが無理っぽい。


「フィ・リ・ア・様でしょうが?」


 どうやら呼び捨てが気に入らなかったらしい。

 たったそれだけの事でまだ少女と言える年齢の者の頭蓋骨が軋む程に締め付けるとは短気過ぎる神様もいたものである。

 

「ふぃりふぁふぁまふぁりふぁふぉうふぉふぁいふぁふぃふぁ」


 顔面を鷲掴まれたままにフィリアに礼を言いなおす看板娘。

 大会前の暴れっぷりとインチキを行った次郎衛門の末路を目の当たりにしていた看板娘は即座に敬語に切り替えたようだ。

 何を言っているのは分からないがフィリアに感謝しているという事だけは何となく分かる。

 そこでようやく看板娘を解放するフィリア。

   

「礼には及ばないわ。どうせあんたも今から店主とキスするんだし」

「へ? それってどういう……」


 看板娘を離したものの看板娘を奈落の底に突き落とす衝撃の発言を言い放つフィリア。

 予想外の急展開に呆けた顔になる看板娘。

 

「どういうも何もジローの馬鹿が言ってたでしょうが。私が優勝したら私以外の全員が店主とキスの罰ゲームになるって」


 どうやらフィリアは彼女を助けるつもりなど欠片程も持ち合わせていなかったっぽい。

 それどころか地獄へと突き落とす気満々だ。

 唯一対抗出来そうな次郎衛門が既に屍の列に加わってしまっている以上は既にフィリアを止め得る人材はこの世界には存在しない。というか、よくよく思い返してみるとフィリアが次郎衛門の暴走を止めた事はあっても次郎衛門がフィリアの暴走を止めた事はないので結局のところ次郎衛門が居ようが居まいが関係なさそうだが。


「え? えええ!?」

「私は元々は私以外の参加者って言ってたのよ? でも次郎衛門の言った事を誰も訂正しなかった以上はそれが正式ルールよ。恨むならあんたを巻き込んだジローの馬鹿を恨みなさい」


 どうやら次郎衛門の言い間違いが原因の様である。

 これは別に次郎衛門が意図していた事ではないし、恐らくフィリア以外の者はその事に気が付いてすらいなかっただろう。

 例え気が付いていた者が居たとしてもだ。

 店に居た者達はフィリアに異を唱えて既に一度ぶっ飛ばされた後なのである。

 訂正など出来る訳がなかった。


「そ、そんな!」


 ようやく看板娘は事態を理解した。

 いや、正確にはまだ正しく理解は出来てはいないがどうやら店主とのキスをしなければならないという事は理解したようだ。

 みるみる顔を青褪めさせる板娘。

 嫌でも視界に映る無数の屍達。

 特にアイラのレ○プ目が際立っている。

 看板娘にはその光景がほんの僅かな未来の自分の姿に見えた。

 嫌だ。

 あんな風にはなりたくない。

 心の底からそう思った。

 店主の事は嫌いではない。

 犯罪者であった自分を拾い面倒を見てくれた大恩人だ。

 好きか嫌いかであれば間違いなく好きだと言えた。

 だがそれはLikeであってもloveではない。

 あんな髭塗れのおっさんとキスはしたくはなかった。

 

 ヨタヨタと後ずさる看板娘。

 そんな看板娘の背中に何かがぶつかった。

 看板娘が恐る恐る目を向ける。


 そこには万全の状態でキスをするべくリップクリームで唇を丁寧にケアする店主の姿あったのだった。


「い゛や゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」

 

 看板娘の絶叫が夜のラスクの街に響き渡った。

 こうしてノリと勢いで始まったトランプ大会は多数の者に決して忘れ得ぬプライスレスな思い出という甚大な被害を出しつつ終了したのだった。

 


小ネタですが常に凄い勢いで泳いでいそうなマグロですが、その平均速度は時速7キロ程らしいです。

意外とゆっくりですよね。

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