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131話 爪が甘いぜ!?

「第一回暴飲暴食亭杯トランプ大会開会をここに宣言する!」


 次郎衛門の開会宣言が響き渡る。


「優勝者には看板娘ちゃんからのチューが進呈されます! 勿論マウストゥーマウスのディープなやつだ!」

「「「うおお!!!」」」

「ちょ!? ディープな!?」


 次郎衛門の開催宣言と優勝者への賞品に店中の男達が湧き立つ。

 20名程の人数しか居ないとは思えない程の熱狂ぶりである。

 ほっぺにチュー位なら協力しても良いかななどと思っていた看板娘であったが何時の間にかディープキスに変更されていた事に異議を唱えようと声を上げるが狂ったように湧き立つ男達の咆哮にあっさりと掻き消されてしまう。

 男達の咆哮にはどこか追い詰められた獣の様な鬼気迫ったものが込められている。

 それには理由があった。

 その理由とは。


「尚、フィリアたんが優勝した場合には優勝者であるフィリアたん以外の全員が店主とのキスという罰ゲームが執行される! 野郎共! フィリアたんだけには優勝させるんじゃないぞ!」

「「「うおおおおおおおおお!!!!」」」


 この特殊なルールの所為で異常に盛り上がっているのだ。

 その歓声はディープなチューと発表された時の比ではない。

 ちなみに特殊ルールの案がフィリアから挙がった時点で一部の連中はその場からの逃亡を実行した。

 彼等の判断は中々に素早い好判断だったが相手が悪かった。

 既にフィリアが暴飲暴食堂を結界によって封鎖していたのである。

 こうして賞品にカテゴライズされた店主と看板娘以外の者の強制参加が科されていたりする。

 まぁ、要するに男共はヤケクソになっているのである。


「こうなったらフィリアさん頑張って!」


 ディープなキスを避けたい看板娘が早速フィリアに縋りつく。


「ふん。私を誰だと思っているの? 勝つに決まっているじゃない!」


 自信満々なフィリア。

 チェスや将棋といった様な競技ならばともかく、ある程度運の要素が介在するトランプに何故そこまで彼女は自信を持てるのだろう。

 その疑問は直ぐに解決する事となった。


「ブラックジャックよ!」

「勝者フィリア!」


「これでパーフェクトゲームよ!」

「あんまりだ…… 神経衰弱で一度も順番が回って来ないだなんて……」


 といった具合にフィリアは本当に強かったのである。

 ブラックジャックを行えばブラックジャックが高確率で揃い、神経衰弱を行えば最初から最後まで一気に取りきってしまう。ハッキリ言って無敵と言えた。

 決してインチキを行っている訳ではない。

 ファンタジーものでは神の御加護とやらで超幸運に恵まれるパターンの話があったりする。

 フィリアはその更に上だといえる。

 神の御加護どころか神そのものなのである。

 何者かが意図的にフィリアを負けさせようとインチキでも仕込まない限り無敵なのだ。

 これなら自信満々になるのも頷ける話だ。


 圧倒的な強さを誇るフィリアに対戦相手達は成す術もなく敗退していく。

 フィリアはあっさりと決勝戦へと駒を進めた。

 

 そして次郎衛門も強かった。

 流石人物紹介で存在自体がファンタジーとか書かれているだけの事はあった。

 フィリア程ではないにせよ、次郎衛門も危なげなく決勝へと駒を進めた。

 では他のメンバーはどうだったかと言えば。

 アイリィは身体スペックこそずば抜けているもののそれ以外は普通の幼女だったりするのであっさり敗退してしまい、ピコはフィリア相手に秒殺されている。

 アイラは次郎衛門相手に善戦したものの次郎衛門による精神攻撃、要するにセクハラ攻撃の前に激しく動揺及びに赤面し敗れ去った。

 その時に必死に責任を取れ等と喚いていた姿が印象的であった。

 


 こうして次郎衛門VSフィリアという何だか作者の御都合っぽい感じの決勝戦が実現する事となったのである。


「やっぱりしぶとく生き残っていたわね」

「フィリアたんの快進撃もここまでだ! 店主とのキスは断固拒否させて頂くぜ!」

「あんたみたいな奴にこそ罰ゲームは必要なのよ! 絶対に店主とキスさせてやるんだから!」


 既に戦闘態勢にある二人は熱く言葉の応酬を繰り広げる。

 店主は場を盛り上げる為に一肌脱いだつもりが完全に罰ゲーム扱いされてしまい何だか複雑な表情だ。

 その一方で一応次郎衛門が勝った場合の景品である筈の看板娘も話題にすら上がっておらず、こちらはこちらで複雑そうな表情をしていた。 


「それでは種目を決めるとするぞ。決勝戦の種目はと……ポーカーだ!」


 店主が種目を決めるべくくじを引きポーカーに決定する。


「店主! 演出ってもんを分かってるじゃねぇか! 良い引きだ!」

「望むところよ! 掛かって来なさい!」


 ポーカーで優勝を決めるという事には次郎衛門とフィリア双方共に異論はない様である。

 まぁ、ポーカーと言ってもチップなどを掛けた駆け引きなどは面倒なのでなし、カードチェンジは一回のみの勝負で勝利した方が優勝というなんとも大雑把な決勝戦だったりする。

 ちなみにジョーカーはありのルールだ。

 この辺は街の大衆食堂でノリとその場の勢いで開催されたトランプ大会なので大目に見て欲しい。

 いよいよ勝負が始まるかといったその時。

 次郎衛門はフィリアにとある提案をするべく喋り出した。


「俺からフィリアたんに提案がある」

「何よ?」

「負けた時のリスクを考えると勝った時のメリットが看板娘のチューだけじゃ割に合わん。フィリアたんのチューも付けてくれよ」

「な、なんで私がジローにキ、キスなんてしてあげなきゃいけないのよ!」

「おやおや? フィリアたんともあろう者が自信満々の癖に負けた時の事を心配してんの?」

「クッ! 良いわよ! もし私に勝ったらディープなキスでも何でもしてあげるわ!」


 次郎衛門の安い挑発にあっさりと乗ってしまうフィリア。

 この類の駆け引きでは次郎衛門が一枚上手であるようだ。

 そんな二人の様子を見て既に敗れ去った参加者達は罰ゲームから逃れる為に一縷の望みを託す。

 ただ、勝手に景品扱いされた上に割に合わない呼ばわりされた看板娘の女としてのプライドはズタズタである。


 そしてSランク冒険者同士のある意味、夢の決戦の幕があけた。

 

 二人それぞれに5枚のカードが配られる。


 配られたカードを見るなり重苦しい表情を見せる次郎衛門。

 フィリアの表情も真剣そのものだ。


「チェンジは何枚する?」


 そんな二人に対して問い掛ける店主。


「……必要ない」


 重々しい声色で返答する次郎衛門。


「あら奇遇ね? 私も必要ないわ」  


 自信たっぷりにフィリアもノーチェンジを宣言した。

 どうやら双方共に相当に良いカードが手札に来ていた様だ。

 その割に次郎衛門の態度が微妙に気になる所ではあるが。


「先手必勝よ! 私から行くわ! ロイヤルストレートフラッシュよ!」


 何と、と言うべきか当然と言うべきなのか言葉に困る所ではあるが、フィリアはポーカーで最強役と名高いロイヤルストレートフラッシュだった。その中でも最強のスペードではなくあえてハートのロイヤルストレートフラッシュでちょっぴり女子力をアピールしている演出が小憎らしくもある。

 超レアな役をたった一発で引き当てるとはフィリアの神としての実力は本物なのかも知れない。

 フィリアのカードを見た瞬間に他の参加者達の表情が絶望に染まる。


「もう…… 終わりだ……」

「嫌だ! ファーストキスがあんな親父だなんて嫌過ぎる!」


 絶望に打ちひしがれる者、何とかこの場を脱出しようと叫びながら必死に店の扉を蹴破ろうとする者、小さく「良し!」と呟く者、短刀を手に既に切腹の準備に入ってる者など様々な者達がいた。

 まるで世界の終りが訪れてしまったかのような様子である。


「おいおい。諦めるのはまだ早いぜ?」


 混沌に満ちた雰囲気を打ち払うかのような声が響き渡る。

 自暴自棄に陥り掛けていた参加者の視線が一人の男の元へと向けられる。

 その視線の先にいるのは勿論次郎衛門だ。

 

 そこには自信満々の次郎衛門の姿があった。

 フィリアのカードを見せつけられても尚、自信満々の姿に周囲の者達の目にも再び希望の光が灯る。


「そうだ! 勝負は決まっちゃいない!」

「あの男ならきっとやってくれる筈だ!」

「ジロー!」

「ジロー!」

「「「ジロー!」」」


 巻き起こるジローコール。


「五月蠅いわね! だったらさっさとカードを開いて見せなさいよ!」


 一気に次郎衛門一色に湧き立つ店内の様子に若干苛立つフィリア。

 フィリアに対する声援は看板娘だけである。

 ほぼ全ての声援を次郎衛門が一身に浴びていたりしたからフィリアも面白くないっぽい。 


「爪が甘いぜフィリアたん」


 格好を付けながら言葉を紡ぐ次郎衛門。

 詰めを爪とか言っちゃている時点で次郎衛門も充分に詰めが甘い様な気がするは気の所為だろうか。

 イントネーションもそれ程変わらないので誰も気が付いていないけども。


「確かにロイヤルストレートフラッシュはポーカーにおける最強役と言っても良いだろう。だがジョーカーを含めたポーカーの場合は二番手になっちまう」

「ま、まさかジローあんた……」


 何だか自分に酔いしれちゃっているっぽい次郎衛門の言葉に僅かに動揺を見せるフィリア。


「そのまさかだフィリアたん! これが! これこそがジョーカーありポーカーの中での最強役!」


 ここで一呼吸を置く次郎衛門。

 そして息を吸い終えると自信に満ちた笑みで再び口を開く。

 

「ファイブカードだ!」


 そういって次郎衛門は手札を開いて見せたのだった。


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