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129話 そう簡単には触らせないよ!?

 元パンダロンだった白熊が夕陽の中に消えて行った日の夜。


「あ、ジロー。久しぶり!」

 

 今や立派に暴飲暴食堂の看板娘のとなった元盗賊の少女が元気に挨拶をしてくる。

 次郎衛門達は一風呂浴びたあとは修行の打ち上げという事で暴飲暴食堂へとやって来たのだ。

 Sランク冒険者でもありそれなりに商売も順調に進んでいるのだから、わざわざ大衆食堂で打ち上げしなくても良いのにと思わなくもないが、この店の店主とはそれなりに親しい付き合いをしていたりするので外食といえば大抵この店だったりする。それにこの店は旨い上にボリュームも文句なしなので誰も反対しないという理由もある。


「おう。久しぶり。すっかり看板娘っぷりも板についてきたみたいだな」


 気さくな雰囲気で挨拶しながらもちゃっかりと看板となった少女のお尻を触ろうと手を伸ばす次郎衛門。

 しかし流石は元盗賊といったところだろうか。

 看板娘の少女はひらりと身軽に次郎衛門の手を避ける。

 この店の客層は冒険者などの荒くれ者も多い。

 そういった連中からちょっかいを掛けられる事も多い看板娘はこの手の事には手慣れた雰囲気すら感じさせる。


「おっと。そう簡単には触らせないよ!」


 次郎衛門の手を華麗なステップで避けた看板娘はべっと舌を出しながら快活に笑う。

 だが、看板娘が身をかわした先には気配を消したアイリィがスタンバって居たりする。

 修行の成果を存分に発揮し、看板娘に悟られる事無く背後に陣取ったアイリィ。


「うへへ。姉ちゃん良いケツしとるのぅ」


 容赦なく両手でがしっと看板娘のお尻を揉む。


「きゃ!?」


 予想外のボディタッチに慌てて飛び退いた先には準備万端でピコが待ち受ける。


「胸は未だ成長過程といったところでしょうか。未来に期待です」

「ふぁ!?」


 今度は胸と来たもんだ。

 何だか看板娘に失礼な批評を述べるピコ。

 再び看板娘が慌てて弾んだピンポン玉のように飛び出した先にいるのは当然の様に次郎衛門だったりする。


「ほい。お帰り」

「ひぁぁ!?」


 飛び込んできた看板娘を自らの胸で抱きとめる次郎衛門。

 勿論その際にはちゃっかりとお尻も触る事も忘れはしないし、忙しく働く看板娘の汗ばんだ体臭もキッチリ堪能していたりする。もはやセクハラを通り越して痴漢の領域であるが今更この男にそれを言ったところで無駄な気もする。

 結局次郎衛門達の手の平の上で弄ばれていた看板娘。

 次郎衛門の胸の中でジタバタと足掻き何とか脱出しホッと胸を撫で下ろす看板娘を眺めながら


「「「いえーい」」」


 等とハイタッチを交わす次郎衛門達。

 そんなだから肝心のフィリアとは手を繋ぐところまでしか仲が進んでいないという事に気が付けと思わなくもない。そのフィリアと言えばさもどうでも良い様な振りをしているが若干機嫌が悪くなっていたりする。

 まぁ、二人の恋愛事情に関しては女心が分からなさすぎる次郎衛門も悪いが奥手で鉄壁すぎるフィリアにも原因があるとも言えるのだが。


「すげー……あの娘って今まで客に触らせた事ほとんどないってのに」

「ああ。完全にあの男の手の平の上だったな」


 常連客らしき冒険者達が次郎衛門達の手際に感嘆の声を上げている。

 どうやら看板娘は常連客達の間ではガードの堅さには定評があったっぽい。

 そんな様子を悔しそうに見つめる看板娘。


「ジロー。うちの従業員をあまり虐めてやるな」


 見かねたドワーフの店主が次郎衛門を窘める。

 

「おう。店主! 久しぶり! いつものくれ!」

「本当にお前はカレーが好きだな」

「カレー屋でカレーを頼んで何が悪いって言うんだよ」

「勝手にカレー屋にするんじゃない。うちは至って普通の食堂であってカレー屋ではないわ」


 等と冗談を言い合う次郎衛門と店主。

 実際のところ売り上げの半分以上がカレーであるのでカレー屋という表現も見当はずれって訳でもない。それと、出て来るボリュームが尋常ではないので普通の食堂というのも当てはまらない気もする。

 次郎衛門の事を恐れずに軽口を叩き合えるような存在は少ない。

 他にも孤児院の子供達に安く食べられるように便宜を図ったり、食い逃げされまくっていたというのにも関わらずその犯人の面倒をみてやったりと、店主の人? ドワーフ? としての器はかなりデカいと言える。だからこそ次郎衛門はこの店を気に入っているとも言えるのだが。


「そんなに時間は掛からんから大人しく待っておれ」


 問題児である次郎衛門に忠告の意味も込めて席で待つように言う店主。


「へーい。でも急いでくれよ。あまりフィリアたんを待たせると店が吹き飛んじゃうかもしれんぞ」

「お、おおおう!?」


 次郎衛門の言葉に青ざめた表情になる店主。

 冬の寒空の元に放り出されたチワワの様な表情だ。

 これが看板娘の少女だったならばそれなりにグッと来るものがあったりもするのだろうが、がっしりとした体躯を誇るドワーフではキモいを通り越して怖いの一言に尽きる。

 普通ならこの様な会話は軽いジョークで済むのだがフィリアに前科がある。

 店主がビビるのも仕方ないと言えるだろう。


「し、しないわよ! 大体あれだってジローが悪いのであって私が悪いって訳じゃないんだから!」


 流石にあの件に関してはフィリアも店主には悪い事をしたと思っているらしい。

 フィリアの様子にどうやら店は大丈夫そうだと胸を撫で下ろす店主。

 そんな店主の様子を珍しいものでもみるかの様に見つめる看板娘。

 堂々とした態度の店主しか見た事がなかった看板娘には驚きの光景であったようだ。


「おい! 何呆けているんだ! さっさと働かんか!」


 看板娘の視線に気が付いた店主が怒鳴る。

 何とも下手くそな照れ隠しと言えた。


「はーい。分かりましたよ!」


 看板娘も店主の照れ隠しという事が分かったのだろう。  

 苦笑しながらも仕事を再開する看板娘。


「おっし! 折角の打ち上げだし今日は俺の奢りだ! 店主、店に居る他の客にもカレーをじゃんじゃん振舞ってやってくれ! 皆でカレーパーリーしようぜ!」


 次郎衛門の奢り宣言に他の客から歓声があがったのだった。

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