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128話 がう。!?

実は白熊の鳴き声は比較的比較的獣っぽいのですが、パンダの鳴き声は非常に奇妙な鳴き声だったりします。

 一定の距離をとって向かい合う支部長と白熊。


「おっさんはそのままで良いとして支部長は武器とか必要ないのか?」

「構わん。俺が尤も得意とする戦い方は格闘術だ」


 次郎衛門の問いに自信ありげにその場で拳を振るって見せる支部長。

 支部長も次郎衛門達ならばともかく冒険者としての弟子でもあるパンダロンに負ける気はさらさら無い様だった。

 ほんの数カ月前に次郎衛門への依頼にどちが付き添うかで両者が相見えた時には支部長が粘るパンダロンをねじ伏せているので根拠のない自信ではないと言える。

 対する白熊はゆったりと佇みこれから始まる戦いになんの気負いもないように見えた。


「それじゃ、始めるぞ。双方準備は良いか?」

「何時でも構わん」

「がう。(問題ない)」


 次郎衛門の言葉に支部長は拳を構える。

 一方の白熊は悠然と仁王立ちに立ちあがる。


「始め!」


 次郎衛門の声が周囲へと響く。

 開始の合図と共に支部長はフットワークを生かし油断なく白熊の隙を伺う。

 そんな支部長を泰然と待ち構える白熊。

 その姿はまるで挑戦者を真正面から受け止める王者の貫録すら感じさせた。


「舐めやがって……」


 白熊の余裕たっぷりな態度に支部長は吐き捨てるように呟く。

 本来ならば弟子である白熊の方が支部長に対して挑戦するという構図になっている筈だ。

 だが実際には逆の構図になってしまっている。

 支部長が思わずそう呟いてしまう気持ちも分からないでもない。


「確かにお前は強くなったのかも知れない。だが!」


 そう叫ぶと支部長のフットワークは更に加速していく。

 

「がう。(む?)」

 

 支部長の高速移動による撹乱にキリっと引き締まった白熊の表情が一段と険しくなる。

 基本的に熊という生き物は二足歩行こそ出来るがその態勢で存分に動ける様な骨格はしていない。

 その事を充分に理解している支部長はスピードで撹乱するという手段に出たのだ。

 弟子に対する師匠のとる行動としてはどうなのかと思う面はあるかも知れない。

 だが臨機応変に状況に対応する能力は冒険者にとって必要不可欠だ。

 この場に支部長の行動を卑怯だと思う者は一人もいない。


「喰らえ!」


 巧みに白熊を翻弄した支部長は白熊の隙を狙い側面に回り込む。


「がう。(甘い)」


 白熊も側面に回り込んできた支部長に反応し驚異的な体捌きを見せると、接近して来た支部長対してカウンター気味に右前脚を振り降ろす。


 タイミングは完璧。


 次の瞬間には白熊の右前脚が支部長を捕えると思われたその時。


「がう。(何だと!?)」


 支部長は白熊の右前脚を左手の手甲でそっと添える様に受けると己の体を軸として体を回転させ見事に受け流したのだ。


「っぷぅ。危ねぇ」


 白熊の攻撃を完全に受け流し一旦距離を取った支部長は冷や汗を滲ませながら呟く。


「がう。(やるな)」

「おお。支部長やるなぁ」


 もう遥か昔に全盛期を過ぎたであろう支部長の華麗な体捌きに称賛の声を送る白熊と次郎衛門。

 白熊に至っては、ぼふぼふと両前脚を叩き合わせ拍手? まで送っている。


「勝負はこれからだ!」


 そう叫ぶなり再び高速移動による撹乱に出る支部長。

 

「がう。(舐められたものだな。同じ手が通じるとでも思っているのか)」

 

 そう言い放つなりゆらりと動きだす白熊。


「な!?」

「うわ! キモ! 何だあの動き!」


 支部長が驚きの声を上げ、次郎衛門も思わず叫ぶ。

 何故なら白熊は支部長に匹敵する程のフットワークを繰り出したからだ。

 常人には目で追う事らも困難な程の速度で動く白熊。

 勿論二足歩行で。

 表情はキリっと凛々しいままで。

 奇怪な事この上ない光景だった。

 そんな生き物とタイムリーに対峙している支部長には同情を禁じ得ない。


「クッ! お前こそ舐めるなぁ!」


 支部長は勝負に出るつもりらしい。

 白熊が同じ速度で動ける以上は持久戦は不利だと判断したのかもしれない。

 

「がう。(速い!)」

 

 今までよりも更に早いスピードで白熊を翻弄する支部長。

 後の事はどうでも良い。

 この瞬間に全ての力を出し尽くす。

 そんな鬼気迫る気概が感じられた。

 速度で白熊を圧倒した支部長が白熊の背後を取った。

 渾身の拳を白熊に向かって放つ。


「貰ったぁ!」


 支部長が己の勝利を確信し叫ぶ。

 そして支部長の拳が白熊に命中したと思われた瞬間。

 白熊の姿が掻き消えた。


「なんだと!?」

「がう。(残像だ)」


 支部長の背後には既に白熊がいた。

 凛々しい表情のまま言い放つ白熊。

 勝利を確信していた支部長の顔が驚愕に染まる。

 無駄のない滑らかな動きで右前脚を振るう白熊の姿。

 それが支部長の見た対白熊戦最後の光景になったのだった。 


「そこまで! 勝者白熊!」


 次郎衛門の勝者宣言が響き渡る。


「がう。(当然の結果だ)」


 一見良い勝負に見えたが終わってみれば支部長の攻撃は白熊には一切通用せず、全ての面で白熊が支部長を終始圧倒した戦いだったと言える。

 次郎衛門のお墨付きは伊達ではなかったようだ。


 だが話はこれだけでは終わらない。

 白熊は勝利の余韻に浸る事もなく歩き出す。

 向かう先は勿論―――――


 メアリーだ。


「がう。(我が番いよ)」

「は、はい!」


 貫録たっぷりの白熊に話し掛けられやや上ずった声で返事をするメアリー。

 やはり何故か会話は成立するっぽい。


「がう。(ああ…… 会いたかった。この日をどれだけ待ち望んだ事か)」


 ガバッとメアリーを抱きしめる白熊。

 そんな白熊とメアリーを西日が照らしている。

 傍目には白熊に襲われる一般女性といった有様だが。


「ちょっと待ってあなた! 私まだ現実を受け入れる心の準備がまだ!」


 突然の白熊の行動に慌てるメアリー。

 まぁ、確かに獣人とは言え外見はほぼ人そのものだった旦那がある日突然に白熊なんぞになっていたらそう簡単には受入る事は出来ないかも知れない。

 しかしこの白熊はキリっと凛々しい表情をしている上に妙に貫録がある。更には滅法押しが強かった。


「がう。(ならば我等の巣に戻るまでに心の準備とやらをしておくのだな)」

「きゃ!?」


 メアリーを小脇に抱え歩き出す白熊。

 もはやメイク・ラブ待った無しといった風情である。

 そんなやり取りの中で気になる点は数え切れない程あるが敢えて一つ気になる点を上げるとすれば白熊の巣という発言がきになるところだ。愛の巣ならば二人の家だろうとは想像がつくが巣となるとちょっと想像がつかない。見た目が白熊なので極寒の地だったりしそうで怖い。いや、ベースはパンダなので竹林というのもあり得そうだ。


「がう。(おっと、一つ確認する事を忘れていたがジローよ。)」

「お? どうした?」

「がう。(指輪の効果は間違いなく解除されているんだろうな?)」

「ああ。大丈夫だ。好きなだけメアリーさんと愛を育んでくれ」

「がう。(言われるまでもない)」


 次郎衛門の冷やかしも軽く受け流す白熊。

 そのままメアリーを小脇に抱えた白熊は夕陽の中に消えていったのだった。

 


白熊がどこに去ったのは不明です。

でも数日後に次郎衛門達と再会した時にはパンダロンに戻ってたっぽい。

愛の力は偉大ですな。

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