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127話 日誌あるけど見る!?

「「し、白熊になってるぅ!?」」


 メアリーと支部長が同時に声を上げた。

 そんな二人を悠然と見つめる一頭の白熊。


「がう。(久しぶりだな。支部長、そして我が番いよ)」


 獣の力を完全に引き出したどころか完全に獣と化しているパンダロン。

 妙にキリッとして見えるし王者の貫録すら漂っている。


「あ、あなた?」


 戸惑うメアリー。

 旦那が三カ月ぶりに帰って来たと思ったら白熊なんぞになっていたら誰でも戸惑うだろう。

 自分の見間違いを期待して何度も目を擦ったりしているが残念ながら何度見直してみても白熊である。

 それもただの白熊ではない。

 王者の風格を身に纏い妙にキリリとスタイリッシュな表情を浮かべているイケメンじゃなかったイケ白熊である。

 というか、これ程に変貌していては見間違いようがないのだがメアリーの己の目で見たものを認めたくないという気持ちはよく分からないでもない。


「ジロー! 一体どうなってんだ!」


 おろおろとするメアリーの代わりに叫ぶ支部長。


「どうも何も見たまんまだけど?」

「さっぱり訳が分からねぇよ!」


 次郎衛門の適当な返事に詰め寄る支部長。

 ちなみにメアリーは未だに目をゴシゴシと擦っている。

 余程目の前にある現実の事が受入難いらしい。


「うーん。口では説明し辛いなぁ。修行中の日誌あるけど見る?」


 そう言いながら次郎衛門は一冊のノートを取り出しパラパラとめくる。

 いい加減そうな性格の割にはノートは初日から今日までに渡って結構書きこまれており次郎衛門達が一体どんな修行とやらを行っていたのかも記されていた。


 と言う訳でパンダロンの身に一体何が起きたのかを掻い摘んでみて行こう。





1日目


今日から修行だ。だがパンダのおっさんは俺達と一緒に修行するには実力が足りない。しばらくは獣化して居られる時間を延ばす方向で訓練させようと思う。


5日目


思ったよりもおっさんの獣化出来る時間が伸びない。

どうしたものか。


8日目


強制的に獣化させる薬の開発したのでおっさんの食事に混ぜてみた。

おっさんが食後いきなり奇声を発し始めたと思ったら倒れた。

どうやら薬は失敗品だったっぽい。

次こそは成功させると心に誓う。


10日目


再び薬を作ったのでおっさんに飲ませようとしたところ必死に抵抗してきた。

思ったよりもてこずった事に驚いた。

やっぱポテンシャルは高いんだと確信した。

ちなみに薬は失敗だったらしい。

おっさんはまた倒れた。

薬は失敗したが成功を心に誓っただけで言葉にしてはないから嘘つきにはなっていない筈、セーフ。


18日目


遂におっさんは自力で長時間パンダ化する事に成功した。

よほど薬を呑むのが嫌だったみたいだ。

パンダ化した姿は相変わらずスリムで気持ち悪い。


20日目


一週間後に迎えに来ると伝えておっさんを山に置いて来る。

この辺はAランク以上の魔物も多いので生き残れれば大幅なレベルアップが見込めそうだ。

ちなみにほんの一時の別れだというのにパンダのおっさんは必死に俺に縋りついて泣いてた。


27日目


おっさんの様子を見に行ってみた。

生きてはいたもののパンダの黒い部分の毛が抜け落ちてた。

どうやら過酷な環境によるストレスで脱毛症になったっぽい。

こんな愉快な脱毛症は初めて見た。

俺の姿を見つけた時のおっさんは物凄い勢いで号泣しながらジャレついてきてビビった。

たかが一週間程度会っていなかっただけで大袈裟なおっさんだ。

余りにもしつこいので思わず張り倒してしまった。

おっさんに治療用の薬を投与したらあっと言う間に脱毛した部分に毛が生えてきた。

まぁ、生えてきたのは白い毛だったけど。

おっさん遂に白熊に進化。


45日目


白熊と化したおっさんが遂に人語を喋らなくなった。

ちょっと野生に目覚め過ぎたっぽい。

まぁ、何となく言ってる事は理解できるから気にしない事にしようと思う。

近隣の主的存在の魔物との決戦の日は近そうだ。


60日目


遂に白熊がこの周辺一帯の主的存在を打倒し、白熊が主的存在にまで上り詰めた。

先代の主的存在をねじ伏せ高らかに勝利の咆哮を上げた時には不覚にもうるっときた。

これで白熊にもう一段階上の修行を科すことが出来そうだ。

明日くらいから竜族のアポロに頼んで白熊の相手用に活きの良い若いドラゴンを2、3体ばかり派遣して貰おう。


63日目


アポロに頼んでいたドラゴンが10体ほどやって来た。

思ったよりいっぱい来てびっくり。

ドラゴン達には白熊を探して殺さないようにぶちのめす様に頼んでおいたら2時間くらいで白熊が凹られて連れて来られてた。

白目剥いた白熊ってちょっとシュールだ。

もうちょっと粘れよ。


70日目


おっさんがドラゴンのうちの一体を返り討ちにしたらしい。

凄まじい成長率だ。

逆襲の白熊劇場スタートするかも?


90日目


遂におっさんがドラゴン10体を全て撃退したっぽい。

様子を見に行ってみると白熊は王者の風格を身に纏っていた。

心なしか顔がキリッと引き締まって見える。

逆襲の白熊劇場ここに閉幕。




 とまぁ、こんな感じの事が書かれていた。

 あくまでも次郎衛門の主観による日誌なのパンダロン視点だったならば、また違った内容になった可能性は否定できないところだが、パンダロンがドラゴンを単独で撃破出来る程に力を付けた事は間違いないようだ。


「パンダロンが単独でドラゴンを撃破たと? 信じられん……」


 次郎衛門の日誌を読んだ支部長が苦々しく呟く。

 アポロが派遣してきたドラゴンはそれなりに高位のドラゴンである筈だ。

 そんなドラゴンを単独で撃破出来る程の実力となればそれだけでSランク冒険者認定されても可笑しくはない。少なくとも総合力は文句なしにSランクになっていなければ不可能だ。

 支部長の視線の先には妙に貫録たっぷりの一頭の白熊が映っている。

 容易く信じられないのも仕方ないと言えるのかもしれない。


「がう。(疑うのか?)」

「ま、まぁ。信じ難い話ではあるな」


 白熊の問いかけに戸惑いながらも答える支部長。

 何故か会話は成立しているっぽい。

 

「がう。(ならば試してみるか?)」

「ほう? 大した自信だな」

 

 シニカルな笑みを浮かべ挑発するかのように身構える白熊。

 キリリと力強い目力がとても印象的だ。

 それに応じる様に好戦的に笑みを浮かべる支部長。

 展開について来れずにおろおろとするばかりのメアリー。

 支部長のその辺りの臨機応変さは流石は元Aランク冒険者だと言える。


「お? 二人共やる気っぽいな! それじゃ俺が審判をしてやろう。ルールは相手を殺さなければOKって感じでどうだ? 死にさえしなければポーションで治してやるぜ!」


 そんな二人と一頭の様子に次郎衛門は自ら審判役を買って出た。

 何とも大雑把なルールであるがそれだけに実戦的なルールだともいえる。


「ああ。良いだろう」

「がう。(それで良かろう)」


 支部長と白熊が次郎衛門の提案に同意する。

 そしてある程度の距離をとり向かい合う二人。

 こうして支部長と元パンダロン現白熊の戦いの火蓋が切って落とされる事となったのだった。 

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