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124話 それはちょっと困ったな!?

読んで頂きありがとうございまっす!

 ここはラスクの街の辺境伯邸にある会議室だ。

 今この場には辺境伯を始めとした有力者達が勢ぞろいしていた。

 次郎衛門が邪竜に関する話を関係者を集め説明する為に彼等に集まって貰ったのだ。

 その中にはギルド関係者の支部長やパンダロンの姿や、ハイエルフであるアイラ、そして竜族の若長であるアポロの姿もあった。

 

「ジロー殿。今の話は本当なのか?」

「本当だぞ。既に邪竜封印のカギは三個中二個までも邪竜復活を目論む連中に奪われたと見て良いんじゃないか」

「そうか…… 魔王が所持しているという最後のカギと邪竜自身が封印されている場所の死守が最優先事項といったところか」


 次郎衛門の言葉に苦々しい表情を浮かべながらも対策案を並べていく辺境伯。

 その案は手堅く無難な対応だと言えた。


「そいえば、俺がまだこの世界に来たばかりの頃に守衛のおっさんが怪しい奴の目撃情報があるって言ってた気がするけど、あれってどうなったんだ?」

 

 うっかり守衛のおっさんに捕まえられかけた事もあるだけにかなり前の出来事だというのにしっかり覚えていたらしい次郎衛門。


「その件か……」


 次郎衛門の質問にうんざりとした表情を作る辺境伯。

 この時点であまり良い内容の答えは期待出来そうになさそうだ。


「一応怪しい者達は今現在54人程拘束してはいる」

「!? 多くね?」


 確かに次郎衛門の反応は尤もだと言える。


「奴等は幾ら捉えても毎週のように数人で徒党を組んで現れるのだ。しかも何か企んでいるという確かな証拠もないので迂闊に扱う事も出来ん。一通り事情聴取をして解放しているのだが直ぐまた新たな連中が警備兵達に捕まる始末だ! 正直拘束中に奴等に与える食事代だけでも馬鹿に出来ない状況だよ」


 忌々しそうに吐き捨てる辺境伯。

 次郎衛門の周辺にいる者達の中で文句なしに№1の人格者である辺境伯がここまで露骨に愚痴を言うのは珍しい。まあ、幾ら捕まえても雨後の筍かって勢いで不審者が現れ続けたらストレスも溜まってしまうってものだろう。


「ほむ。それはちょっと困ったな」

「困っただなんてものではないぞ。この状況が続けば私の小遣いも減らさなければならんかも知れんのだ!」


 思わず拳を握り締める辺境伯。

 街の運営にまで響きだすようなら次郎衛門も真面目に対策を考えるのだろうが、影響が辺境伯の小遣い程度ならばまだ大した影響はないだろうという雰囲気が漂う。

 だがとある者の発言が状況を一気に緊迫させる事となった。


「これは本当にマズイ状況かも知れないのじゃー」

「ほむ? 一体どういう事だ?」


 アイラの真剣な表情に思わず聞き返す次郎衛門。


「普通こういった事件に関わる者達は目立たない様に行動する筈なのじゃー。だが奴等はわざと派手に行動している節まであるのじゃー」

「!!!」


 アイラにここまで言われれば他の者達もアイラが何を心配しているか理解した様だ。


「そうか! 奴等は目立ちたがりって事か!」

「…… はい?」


 次郎衛門が辿り着いた答えを口にする。

 この次郎衛門の答えにその場に居た全員は凍りついた。

 恐ろしい程までに見当違いだったからだ。


「アポロみたいに無駄に派手でダサい服装の連中を片っ端から押さえて行けばいつか連中に繋がるかも知れんな!」


 活き活きと見当違いな方向へと走り続ける次郎衛門。

 アポロに至っては急に名前を呼ばれた上にセンスまで貶されている始末であった。

 常に作務衣の男が何を偉そうにと思わなくもないが、その事は誰も口にしない。

 迂闊に指摘などしようものなら余計な問題が己に飛び火して来る未来が想像出来るからだ。

 一応アポロの名誉の為に言っておくが竜族であるアポロは普段は服など着ていない。

 むしろ裸族と言っても差し支えがないくらいだ。

 人型でなければこの部屋にすら入る事は不可能だったので人化してみたものの無駄に体格の良いアポロが辺境伯家で丁度良く着れそうな服が今たまたま着ている服だったというだけだったりする。

 そんな理由から実はアポロよりも辺境伯の方が内心ダメージを受けていたりする。


「ちっがーうのじゃー! 何でそうなるのじゃー!」


 ジタバタと手足を振りますアイラ。

 だが見た目と行動こそ幼く周りのものをほっこりとさせまくる彼女ではあるが頭の回転は悪くないようだ。実年齢600歳↑というのは伊達ではないらしい。


「うそうそかわうそ。 冗談だっての。要はあれだろ? この近辺で捕まえた連中は囮だって事だろ?」

「分かっているのならわざわざボケるななのじゃー!」


 ジタバタと全身を使って主張するアイラの頭を宥める様にポンポンと触れる次郎衛門次郎衛門。

 次郎衛門に触れられる事自体は結構気に入っているのかアイラも不満そうながらも大人しくなる。

 どうやら次郎衛門は早くもアイラの扱いを覚え始めてきたらしい。

 何となく次郎衛門の背後に猫科の猛獣とすら全身でスキンシップを交わす老人の姿が見える。


「って事は、魔王が持ってるとかいう封印がヤバそうだよな」


 次郎衛門の言葉に皆一様に頷く。


「魔族への使者は竜族である私が行きましょう。飛んで行けばあっという間に着きますからな」


 と、アポロが使者を買って出る。

 次郎衛門がいる手前、言葉使いに多少気を使っているあたり中々律儀な男だ。

 早さだけを考えるならば次郎衛門の空間転移を使えれば良いのだろうが、魔族の領域は強力な結界が張ってあり空間転移での侵入は出来ないらしい。仮に空間転移出来たとしても次郎衛門は魔族との伝手がない。Sランクとは言え顔や名の売れてない冒険者の次郎衛門が行っても相手にされない可能性も無きにしもあらずだ。

 その点アポロならば一度魔族もとへ使者として行っておりある程度の伝手がある為に使者としては申し分ないだろう。更にアポロ自身も言っているように飛んで行けるので普通に馬などで向かうより断然早いというメリットもある。

 本来なら使者だけでなく援軍も送るべきなのだろうがそれをやってしまうと内政干渉にもなりかねないので援軍は送る事が出来ないらしい。


「ラスクの街としては近辺にあるという封印場所の特定とその死守。これが当面の方針という事で大丈夫だろうか?」

「その辺が無難でしょうな」


 辺境伯が締めくくる様に全員に問いかけ、お迎えが来ても何とか現世に踏みとどまる事が出来た支部長が賛同の声を上げる。どうやら反対者は居ないようだ。

 そんな周囲の様子に辺境伯は満足そうに頷くと今度は次郎衛門に向かって口を開く。

 

「ジロー殿達にも手伝って頂きたいが良いだろうか? 勿論報酬は支払う」 

「悪いが俺はちょっとやりたい事があるんだけどさ」 

「やりたい事だと? それは邪竜復活の危機よりも優先すべき事であるのか?」

「封印場所の特定だけなら辺境伯直属の兵を使うんだろ?」

「ああ。事が事だけに秘密裏に調査を進めるつもりだ」


 想定通りの辺境伯の言葉に次郎衛門は満足そうに一つ頷く。

 そして真剣な表情で言い放つ。


「俺達はその間、修行をしようと思う」


 次郎衛門は邪竜が復活してしまった時の為に備えるつもりらしい。

 次郎衛門一行は冒険者の国ドルアーク王国でも最高の戦力を誇る。

 辺境伯や支部長には戦うという発想はなかった。

 普通の者はドラゴンと戦うという発想すらないのだ。

 増してやそれが伝説に語られる様なドラゴンともなれば尚更だった。

 この次郎衛門の言葉は、邪竜が復活した時には、自ら先頭に立ち戦うという宣言に等しい。

 そんな次郎衛門の覚悟に感極まった様子の辺境伯。

 何だか放っておいたら泣き出しそうな気配すら漂っている。


「こちらの事は我々で動く! だからジロー殿達は存分に修行してくれ!」

「悪いな辺境伯。お言葉に甘えさせて貰うわ。よっしゃ! パンダのおっさん! 邪竜なんて俺達でぶっ飛ばしてやろうぜ!」 

「ちょ!? 俺は嫌だぞ!? 邪竜となんて絶対に戦わんぞ!」 


 突然過ぎる展開に悲鳴に近い声を上げるパンダロン。

 どうやら次郎衛門の言う俺達の中にはパンダロンも含まれていたっぽい。


 こうしてバトル漫画ではよくありがちな修行パートへの突入が決定したパンダロンであった。

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