122話 壊れてしまうのじゃー!?
ここ数カ月の間微増減を繰り返していたブクマが今週急に10件程増えて歓喜。
既にピークを迎えて後は下降するだけなのではと戦々恐々していただけに感激も一入でなのでありまっす。
無事にアイリィ、ピコと再会した次郎衛門。
まぁ、再会と言ってみたものの実際に一旦別れてから再会するまでの時間は数時間程しか空いていなかったりするが。
「んで、盗まれた宝珠ってのと邪竜の信徒ってのは何なんだ?」
ようやく集落に落ち着きが戻り始めた頃、次郎衛門はアイラに問いかけた。
「惚――――」
「惚けるなってのは無しな。話進まんし、もし言ったら当社比で8倍程気合いを入れて愛でるからな」
問いかけられたアイラは顔を真っ赤にしながら既にパターン化し始めていた言葉を叫ぼうとしたが次郎衛門が先手を打ったっぽい。それにしても当社比ってひょっとしてジロー商会にはエルフを思う存分に愛でる事が業務な部署があったりするのだろうか。それはそれで心くすぐられるものがある気がする。
まぁ、毎回惚けるなと叫ばれても一向に話が展開しないのでとりあえず今回は次郎衛門のグッジョブと言うべきだろう。
アイラは8倍愛でるという次郎衛門の脅しに、「8倍だなんて……壊れてしまうのじゃー」とか訳の分からない事をのたまいつつほんのり嬉しそうに身を悶えさせ始める。
だが先程までと違い良しとしない本家ロリとも言える存在が現れる事となる。
アイリィである。
更に一人の美少女がアイラの背後へと忍び寄る。
その美少女とは当然ピコだ。
「何なのじゃー!? 何をするのじゃー!? は、離すのじゃー!」
ピコに羽交い締めにされて必死にもがくアイラ。
アイリィはそんなアイラの元へと歩み寄るとその拳を何の躊躇もなくアイラの腹筋へと突きさす。
俗にいうところの腹パンというやつだった。
言わば本家ロリから合法ロリへの腹パンのプレゼントだ。
それは羽交い締めにされて無防備を晒している腹部への物理的破壊力を伴ったプレゼントだ。
アイラが口走った「壊れちゃうのじゃー」とはまた別の意味で壊れそうであった。
何とも嫌なプレゼントもあったものである。
「ぐおぇ!!」
腹パンを喰らったアイラの口からはロリらしからぬ嗚咽と、焼く前のお好み焼きの様な物質がゲロリと溢れ出た。だが惨劇はこれだけに止まらなかった。
「アイリィ様ナイス腹…… パンで…… ぐおぇ!」
何と後ろでアイラを羽交い締めにしていたピコもどろりとした物質を、しかも鈍色の物質を吐き出したのだ。吐き出された物質はジュージューと嫌な音を立てている何とも環境に良くなさそうな物質である。
どうやらアイリィの放った腹パンの衝撃がアイラの体を通りピコにまで到達したようだ。
それは中国武術で浸透頸などと呼ばれる事もある高度な技術である。
一人の幼女の足元に膝まづく美少女二人。
人外美少女3人の夢の狂宴と言える光景であった。
後にこの夢の狂宴を目撃したエルフの少年少女は語る。
あの腹パンは喰らいたくはないと。
アイリィも順調に成長している様だが彼女は一体何処を目指しているのか不安になる光景でもあった。
「パパは話を進めろって言ったの! 誰が色目使えだなんて言ったんだ! この腐れロリババアが!」
「ぬうう。誰が腐れロリババアなのじゃー!」
アイリィの辛辣な言葉に抗議の声を上げるアイラ。
そのアイラを決死の表情で再び羽交い締めにするピコ。
「「ぐおぇ!!」」
アイリィの台詞に反論を試みるアイラであったがアイリィが拳でアイラ並びにピコを黙らせる。
結局アイリィの繰り出す物理的な圧力負けるアイラなのであった。
◆◆◆◆
「…… その昔、600年程前の事になるのかの。とある人間の国の王が不老不死などという幻想に取りつかれた事があったのじゃー」
国中の錬金術師に研究を行わせ、不老不死の情報には多額の賞金を掛けたのだ。
そうして集められた情報の中に竜の子の生肝を喰らえば竜族と同等の能力と生命力を得られるというものがあった。
その情報は勿論嘘だ。
厳密に言うならば100%嘘とも言い切れない。
魔力の大きい者がより長く生きるこの世界では、魔力を豊富に含んだ食料を食べる事は成長限界の訪れていない者に関しては多少は有効だと言えるかも知れないからだ。
逆に言えば例えその情報が事実だったとしても『かも知れない』という程度の効果しか見込めないという事なのだが。
だが愚かな王はそんな真贋定かならぬ胡乱気な情報であっても試さずには居られなかったらしい。
王の命によって人と友好的な立場にあった竜族の子を攫った。
我が子を取り戻さんと母竜はその国の王都へと向かった。
そこで待ち構えていた国軍によって攻撃を受けてしまった。
万全な状態の母竜ならば遅れをとる事もなかったかも知れない。
しかし母竜は卵を産んだ事、そしてその後の子育てによって著しく体力を消耗していた。
結局母竜の命を賭した我が子を救いたいという想いは叶う事はなかった。
竜族の母子は人間によって殺されてしまったのだ。
その事実を知った父竜は激怒した。
当然だ。
己が留守の間に、我が子が! 妻が! 何の罪もない家族が!
人の詰まらない欲望の為だけに殺されたのだ。
父竜に同調した同族を率いて元凶たる人間の国を襲った。
Sランクのドラゴンの群れは愚かな人間達の国を容易く滅ぼした。
だがそれで父竜の憎悪が晴れる事はなかった。
妻と子を奪った人間が憎かった。
仲良く毛繕いをし合う獣人が憎かった。
楽しそうに酒を酌み交わすドワーフが憎かった。
無邪気な幼い笑顔のエルフが憎かった。
自分達には関係ないとばかりに引き籠る魔族が憎かった。
憐れんだ眼差しを向けてくる同族が憎かった。
目に映る全てが憎かった。
そして父竜は世界の全てを相手に戦い始めたのだ。
それは既に心優しかった父竜ではなかった。
憎悪に囚われて邪竜に堕ちてしまっていた。
多くの種族を生物を殺し続ける邪竜は限界が来る事なく能力の成長を続けた。
このまま能力が成長を続けたら竜族の長をも超えるのは時間の問題と思われた。
そこで当時飛び抜けた魔力を持っていた竜族の長、ハイエルフのアイラ、そして魔王の3名が邪竜を封印したのである。
そして封印を解くカギは竜族の長、ハイエルフ、魔王の3名がそれぞれに管理する事になったのだという。
「…… と、言うような事があったのじゃー」
のじゃーのじゃーと、気の抜けるような喋りの割には結構ハード目な内容の話だった。
あと、アイラの実年齢が600↑という衝撃の事実も驚きであった。
「ほえー。どっかで聞いたような話だなぁ。んで、邪竜の信徒ってのは結局何なんだ?」
どっかで聞いたというかアイリィと出会った時にアポロから聞かされた話だったりするのだが忘れてしまっているっぽい。
「邪竜に滅ぼされた国で奴隷として虐げられていた者達の末裔なのじゃー」
奴隷達からすれば邪竜という存在は圧政者達から自分達を解放してくれた救世主に映ったらしい。
勿論邪竜は奴隷を助けようとなど欠片たりとも思っていなかったと思われるので勝手に奴隷達が邪竜を崇拝しているだけに過ぎないのだが。
そして物覚えはあまり良くないが頭の回転は悪くない次郎衛門は一つの結論にたどり着く。
「うん? 俺を邪竜の信徒と呼んで盗んだ物を返せって喚いていたって事は、封印のカギってのを盗まれたんだな?」
「ギクっなのじゃー!」
次郎衛門の言葉に分かりやくすビクつくアイラ。
これで結構な御長寿さんだというから驚きである。
こうして邪竜の封印は3つの内、2つまでが邪竜の信徒と思われる者に盗まれたという事が判明したのだった。




