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10話 初依頼を受けるぞ!?

 翌日、二人はEランクになる為に必要な、3件の依頼を完了という条件をクリアするべく、ギルドへと向かった。


「サラちゃんおはよん。

 今日は依頼を見にきたよ。

 でも、俺って冒険者の事何も分からんからさ。

 注意するべきって点を教えて貰えるかい?」


 普段お気楽な行動ばかりしている割には、慎重な男である。


「ジローさんなら、何も考えずに討伐依頼受けそうだと思っていましたが、意外ですね。

 少しだけ見直しましたよ。

 そうですねぇ。

 やはり最初は、街のみなさんのお手伝いとか、後は採集の常時依頼がお勧めですね。

 新人さんは、常時依頼のゴブリン討伐とかに突撃するパターンが多いのですが、返り討ちで死んじゃったり、大怪我しちゃったりする人も少なくないので、お勧めできません」



 やはり第一印象が最悪だったせいか、サラの次郎衛門に対する評価はかなり低いようである。


「そうね。急いでランク上げる必要もないんだし、無難に危険が少ないのを選びましょ」


 どうやら、フィリアもサラの意見に賛成なようだ。


「ほむほむ。

 ま、確かにその通りだよな。

 しかし、住民の手伝いも冒険者の仕事になるんだなぁ」

「冒険者ギルドというのは、人々が求める人材を提供する組織ですからね。

 様々な依頼があるんですよ」


 どうやら、冒険者ギルドは日本でいうところの人材派遣会社のようなものらしい。

 ただし、この世界の冒険者は、命がけで魔物と戦ったりする為に、敬意を持って受け入れられているっぽい。


「ほえー。孤児院で子守、食堂の新メニューの味見、引越しの手伝い、大工の手伝い、お婆ちゃんの話相手…… 一日生活できる分の報酬から、子供のお小遣い並に少ないやつまで色々あるんだな」

「一応、冒険者になる為の年齢制限は、後見人が居ない場合は15歳からで、後見人がいれば、10歳からですからね。

 そういう子達が後見人の方と一緒に行動を出来ない場合でも、こういった依頼なら受ける事が出来るんですよ。

 でも、あまり多くある事でもないので、受けて貰えると助かります」


 やはり報酬の安い依頼は、特殊な事情が無い限り、受ける人が少ない不人気な依頼のようである。


「依頼者だけじゃなく、サラちゃんも助かるってのなら、今日は孤児院での子守でも受けてみようか。

 フィリアたんもそれで良いかい?」


 次郎衛門は、そう言ってフィリアの様子を伺う。


「あんたにしては、中々悪くないんじゃない?

 ま、サラの好感度上げてもう一度モフりたいって考えが透けて見えるけど」

「おっふ。あっさり見抜かれたか。まぁ、下心だけじゃないよ。

 俺もそういった施設で育ったからな。

 子守ってのは慣れたもんなんだよ。

 全く分からない事から始めるより、少しでも出来そうな事を選ぶのは間違っちゃないだろ?」


 次郎衛門は笑う。

 確かに次郎衛門の言う通りだろう。

 出来るかどうかさっぱり分からない依頼を受けるよりは、出来そうな依頼を受けるのは当たり前の事だ。

 

「それでは、孤児院の子守を受けてくれるんですね。

 私も育てて貰った施設なので、受けて貰えると、とても嬉しいですよ。

 でも、だからと言って、耳や尻尾は触らせてあげませんからね?」


 サラも次郎衛門に釣られる様に笑ったのであった。




 2人で街の外れの方にあるという孤児院を探しながら歩くと、孤児院は結構簡単に見つかった。

 建物こそボロボロだったが、小奇麗に手入れされていて、敷地もかなり広いようだ。


「こんにちわーん。

 子守の依頼を受けてきた冒険者ですが、どなたか居ませんかー?」


 次郎衛門が大きな声で叫ぶと、数人の子供達と初老の女性が出てくる。


「ああ、子守を引き受けて下さった方ですね。

 それでは、お昼ご飯はこちらで準備するから、夕方までお願い出来るかしら? やんちゃな子が多いので、私ではあまり遊んで上げられなくてねぇ」

「ほーい了解。んじゃ。ちびっ子達よ! 

 先ずは、あのお姉ちゃんのスカート捲りして遊ぼうぜ!」


 そういって次郎衛門はフィリアを指差す。


「ちょ? ジローあんたイキナリ何言ってんのよ!

 ってこらああああ。やめなさいってば!」


 5~6歳くらいの男の子は、大はしゃぎでスカート捲ったりしているが、少し大きな子は、若干前かがみでモジモジしていた。

 勿論、次郎衛門はそんなフィリアのあられもない姿を脳に焼き付けるのだった。


「ハァ…… 酷い目にあったわ…… ジローあんたねぇ……」


 一段落ついて戻ってきたフィリアは、まだ昼食前だと言うのにぐったりとしている。

 相当疲れたらしい。

 子供の体力恐るべし、である。


「くはは。お疲れ。お陰で俺は楽できたし、フィリアたんのパンツも脳内に焼き付ける事が出来たよ。

 これでしばらくはオカズには困らないで済むな」


 そういって爽やかに笑う次郎衛門。


「あ、あんた…… 私を如何わしい事に使ったりしたら、許さないからね!!」

「大丈夫、ご飯3杯はいけるから」

「一体何が大丈夫なのか、さっぱり分からないわよ……」


 そう言って座り込むフィリア。

 最早次郎衛門に食って掛かる元気もないようだ。

 ()に恐るべきは子供パワーである。


「男の子ってのは、悪戯が大好きだからな!

 俺は見た目が怖いらしいから、仲良くなるまでが大変なんだ。

 んで、仲良くなるには、一緒に悪戯するのが有効なんだよ。

 そろそろ昼食だし、午後は俺が頑張るさ」


 次郎衛門は、そう笑って食堂に向かうのだった。





「ほーら。高い高ーい」


 子供を空中に放り投げる次郎衛門。

 その高さは、優に5メートルはある。

 普通はそんな目に遭えば、恐怖で大泣きしそうなものであるが、そこは流石異世界。

 みんな大喜びだ。

 年少の男の子だけじゃなく女の子も、果ては年長組みの子達ですら順番待ちで並んでいる。

 キチンと順番待ちをし、投げられるとぎゃーぎゃーと騒ぐ姿は地球で言うところの絶叫マシンに近いかも知れない。

 しかも、終わった子がまた列に並ぶので、エンドレス状態なのである。


「ちょっと休憩させてくれ…… 流石にしんどいわ!」


 疲れた様子で座り込む次郎衛門だが、子供達はお構いなしに次郎衛門にしがみ付いている。


「意外ね。ホントに子守が得意だったとはね」

「俺は子供が大好物…… じゃなかった大好きだからな」


 それを聞いた子供達が、恐怖に顔を歪ませながら一斉に距離をとり、恐る恐る次郎衛門に問いかける。


「じろーは、僕達を食べちゃうの?」


 恐らく別の意味で言ったであろう発言だったのだが、子供たちは、言葉通りに受け取ったようである。

 そして院長先生の教育は、極めて健全である事が分かる。


「バレたか。特に女の子は大好物だな。

 じゅるり…… ぐへへへへ。

 早く逃げないと、食べちゃうぞー!!」


 次郎衛門は、色んな意味で危ない台詞を吐きながら、子供達を追いかけ始める。


「ぎゃあああああああ」


 唯でさえ人相の悪い次郎衛門が、追いかけてくるのだ。

 幼い子供達にとっては、恐怖以外の何ものでもなかった。

 蜘蛛の子を散らすように逃げ惑う子供達。

 高笑いを上げながら、容赦なく追い立てる次郎衛門。

 こうして子供達にとっては、超リアル鬼ごっこが開催されたのだった。




「お疲れ様。これでも飲んでくださいな」


 鬼ごっこで、疲れ果てた年少組が昼寝したので、次郎衛門は院長先生がお茶を淹れてくれたお茶を飲む。

 ズズズっと啜り上げる姿はかなり年寄り臭い。

 まぁ、次郎衛門も31歳なので、年寄りとまでは行かないが、充分におっさんではあるのだが。

 フィリアは上品に飲んでいる。

 腐っても女神、その辺りのエレガントさは、流石の一言に尽きる。


「今日は助かったわ。

 冒険者カードに完了の手続きをしとくわね。

 これをギルドに持っていけば報酬が貰えるわ。

 もし、良かったらまた受けてくれると嬉しいわ」


 微笑む院長先生。

 その表情を見る限り、二人の仕事に満足して貰えたようである。


「ちょこちょこ来ますよ。

 その代わりと言っては何ですが、サラちゃんに会うことがあったら、俺の事をめっちゃ褒めて伝えてください。

 好感度をあげて行けば、そのうちあのモフな耳や尻尾に触らせて貰えるかも知れませんからね」

「あらあら。でも、それは難しいかも知れないわね。

 獣人は家族か恋人位にしか触らせないから、本気で触りたいなら、サラを口説き落とさないと無理よ」

「くはは。そりゃ難関ですね。

 それじゃ、そろそろ報告に戻りますね」


 年長組の子と院長先生に見送られて、ギルドに向かう2人。


「あんたって、女神である私にはタメ口なのに、院長先生には、丁寧な言葉使いするのね。

 ああいう熟女が好みなのかしら?」


 無事に、報酬受け取った帰り道。

 フィリアがちょっと嫌味を込めた感じで言う。


「うーん。どうも、育ての親と重なっちゃうんだよな。

 多分、俺はあの手の人には一生頭が上がらん気がする」


 少し寂しそうな表情をする次郎衛門。

 その表情には、何時ものいい加減そうな雰囲気はない。

 幼い頃の記憶でも、蘇っているのかも知れない。

 フィリアは、ちょっと気まずくなった空気を振り払うように、明るい声で言い放つ。


「また、子守依頼を受けましょ!

 未来ある子供達を導くのは、女神である私の務めだわ!

 ジローにも、手伝わせてあげるから光栄に思いなさい!」


 フィリアは女神らしい優しい笑みを浮かべる。

 普段の言動は、我侭なお嬢様そのものだが、こうやって笑っていれば、本当に女神っぽい。

 一瞬、フィリアに見とれてしまった次郎衛門だったが、その表情には直ぐに何時もの笑みが戻る。


「クハハハ。

 そうだな。 

 また行こう。

 嫁の手伝いをするのは、旦那である俺の務めだしな!」


 次郎衛門もまた笑ったのだった。



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