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117話 なんでだよ!?

次は日曜日に投稿しまっす。

 次郎衛門を空の彼方へと見送り自宅へと帰ってきたパンダロンとメアリー。

 既に二人の間に確執は存在していなかった。

 元々好きあって夫婦となった二人である。

 パンダロンの浮気騒動が次郎衛門の仕業による誤解と分かった以上は何時までも気にしても時間の無駄だと言えるだろう。

 久しぶりの夫婦水入らずにメアリーの作る料理にも熱が入る。

 そんなメアリーの手料理を数カ月ぶりに堪能するパンダロン。

 それはとても幸せな光景だった。


「ふう。やはりメアリーと一緒に食う飯は旨いな」

「ふふ。ありがとう。でも王都のレストランで美味しい物を食べたりもしてきたんでしょう? 私の料理じゃ物足りないんじゃないかしら」

「確かに王都のレストランの料理は美味かった。だが俺に言わせればお前の笑顔が傍にない王都の料理の方が物足りん」

「あなた……」


 次郎衛門達と一緒にいる時からは想像も出来ないような甘い台詞を吐きだすパンダロン。

 メアリーも嬉しそうにはにかんでいる。

 中々プロポーズ出来ずにモジモジしていた頃からは考えらない程の成長っぷりであった。

 この場に次郎衛門達が居たならばそれは盛大に冷やかした事だろう。

 だが、次郎衛門は空の彼方に消え去って行ったし、アイリィやピコはそれを追って姿を消した。フィリアはわざわざ他人の家にまで出しゃばって冷やかす程野暮ではない。

 パンダロンもその事を理解している為に全力でイチャつきに掛かっているのだ。


 食事も終わり食器などを片付けるメアリーの姿を普段の厳つい表情からは考えられないような優しい視線で見つめるパンダロン。

 パンダロンの視線は徐々にメアリーの胸元や臀部などに集中していった。優しい視線もあっという間にやらしい視線に早変わりだ。

 辛抱堪らんと言わんばかりにまだ片付けの最中のメアリーを抱きしめキスをするパンダロン。

 メアリーも口ではまだ片付け中だとか言ってはいるが本気で抵抗する様子もない。

 辛抱堪らんとメアリーをベッドへと運ぶパンダロン。

 瞳を潤ませるメアリー。

 もはや二人の甘い一時を邪魔する者は存在しない。

 二人のボルテージはドンドン上がって行く。

 このまま二人は濃密な夜を過ごすだろうと思われたその瞬間。


「グオオオオオ!? いてぇ!?」


 パンダロンの小指に痛打したような痛みが走る。

 パンダロンにはこの痛みには覚えがあった。

 王都でも味わった理不尽この上ない痛みだ。


「なんでだよ!」


 思わず叫ぶパンダロン。

 だがその叫びに応える者は誰も居ない。 

 更にパンダロンの視界を埋め尽くす無数のメアリーの群れ。

 あっさりとパンダロンは無数のメアリーが嘆き悲しむ幻に囚われてしまう。

 もはや自力で幻覚から脱する事はないだろう。

 パンダロンに掛けられた幻覚とはそれ程に強力なものだった。


 確かに二人の甘い一時を邪魔する者は存在しなかった。

 だが二人の甘い一時を邪魔する物は存在したのである。

 もうお気づきの方もいるだろう。

 その存在とは浮気防止装置の呪いともいえる魔法が掛かった指輪である。


 さて、指輪の効果を忘れてしまった方の為にその当時の次郎衛門の台詞を抜粋してみる事にしよう。


  

「ずっと監視するのも面倒だし、おっさんが酔いつぶれてる間に指輪に脈拍や汗、そして感情を計測して性的興奮を読み取る機能を付けたんだ。そしてある一定以上の値を計測した場合はペナルティが科される。んで、ペナルティは幾つかの段階があってだな。一番軽いやつなら足の小指をしこたま打ちつける程度の痛みで済む。でも一番重いペナルティの場合はさめざめと泣くメアリーさんの幻覚と幻聴に苛まれる事になるから気を付けろよ」


 お分かり頂けただろうか?

 浮気防止機能の癖に浮気ではなくても、つまり相手が嫁のメアリーであったとしても性的に興奮すれば発動してしまうのである。途轍もなくエグイ機能だと言わざるを得ない。

 しかもパンダロンは新婚早々に王都行きが決定しずっとお預け状態を喰らわされていた。

 そしてやっと訪れたメアリーとの機会に女騎士とのキスとは比べ物にならない程に興奮しまくっていた。間違いなくMAXパワーでペナルティが発動している。

 パンダロンは次郎衛門が大空へと旅立つ前に言っていた後悔するぞという言葉の意味を深く考えるべきだったのだ。あの時に、いや、王都に居た時点で既にフラグは立っていたのだ。

 でもまぁ、この展開を予想できる方が異常だとは思うが。

 


「あなた!?」


 パンダロンの異変に気付いたメアリーは悲鳴に近い叫び声を上げた。

 そんなメアリーにも指輪の効果が牙を剥く。

 それは浮気の通報機能だ。

 最大級のペナルティに連動し最大級のボリュームで通報が鳴り響く。

 それはメアリーの鼓膜を突き破り彼女を昏倒させた。


『奥さん! パンダロンの旦那がどこぞの女としっぽり極め込んでますぜ!

 奥さん! パンダロンの旦那がどこぞの女としっぽり極め込んでますぜ!

 奥さん! パンダロンの旦那がどこぞの女としっぽり極め込んでますぜ!

 奥さん! パンダロンの旦那がどこぞの女としっぽり極め込んでますぜ!

 奥さん! パンダロンの旦那がどこぞの女としっぽり極め込んでますぜ!

 奥さん! パンダロンの旦那がどこぞの女としっぽり極め込んでますぜ!

 奥さん! パンダロンの旦那がどこぞの女としっぽり極め込んでますぜ!

 奥さん! パンダロンの旦那がどこぞの女としっぽり極め込んでますぜ!

 奥さん! パンダロンの旦那がどこぞの女としっぽり極め込んでますぜ!

 奥さん! パンダロンの旦那がどこぞの女としっぽり極め込んでますぜ!』



 閑静な夜の住宅街に次郎衛門の声が下品に響き渡った。

 夕食後の家族の団欒も、恋人達の甘い蜜月も全てぶち壊しであった。

 特にこの声を聞いた子供が「女としっぽり極め込むって何?」と両親に聞いて来た時の気まずさといったらなかったという。


 騒音に耐えかねた周囲の住民が駆けつけた時には幻覚に囚われたパンダロンと耳から血を流して倒れているメアリーの姿があったという。

 結局指輪の効果はフィリアですら解除出来なかった。

 慌てて次郎衛門の大捜索網が敷かれたものの足取りすら掴めずに終わる事となる。

 その後2週間に渡ってパンダロンは幻覚に囚われ続け、近隣住民は次郎衛門の大音声に眠れぬ夜を過ごし続ける羽目になった。

 そしてこの事件の後しばらくの間、パンダロンは近所の子供達にシッポリンさんと呼ばれる事になったのだった。

  

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