116話 打ち上げ準備中だから!?
読んで頂きまして感謝感謝ひたすら感謝なのであります。
次は水曜日に投稿しまっす。
「ここは…… 俺は生きているのか……」
パンダロンが目覚め周囲を見回す。
見慣れた家だった。どうやら自分の家のベッドに寝かされているようだ。
それと同時に二人の女性の姿がパンダロンの視界に飛び込んできた。
一人はパンダロンの嫁であるメアリーだ。
どうやら泣き腫らしているらしく目が真っ赤に充血していた。
もう一人の女性は金髪碧眼の美女だ。
要するにフィリアである。
パンダロンが無事だったのはフィリアが治療したからだ。
「何が起きたっていうんだ?」
状況がさっぱり分からないパンダロンは戸惑うばかりだった。
「それは、私から説明するわ」
そういうとフィリアはパンダロンに事情を説明し始める。
その内容を掻い摘んで説明するとこんな感じだ。
パンダロンを狂ったように殴打し続けたメアリーだったのだが、殴り続けている内に我に返った。
血塗れでひっくり返っているパンダロンを見てこりゃえらい事をしてしまったと焦ったメアリー。
急いでギルドへと駆け込むも、ギルド所属のヒーラーは支部長の治療に掛かりきりでとてもパンダロンの治療する余裕はなかった。どうしようかと途方に暮れていたところ、まだ勤務中だったサラにフィリアが回復魔法を使えると聞いて助けを求めたのだった。
辛うじて治療が間に会いパンダロンが峠を越した事を確認した後に、メアリーへと事情聴取を行ったところ、この騒動が次郎衛門の所為である事が確定したらしい。
そもそもメアリーがパンダロンに対して怒っていたのはパンダロンが浮気をしていたと勘違いしたからだった。
王都で無理やりにエレオノーラのお付きの女騎士とキスをさせられた事が、指輪に付与されていた浮気通報機能によってメアリーの元へ連絡がいった。メアリーはパンダロンが王都で浮気をしたのだと勘違いしてしまったのだ。
更に次郎衛門は独身女性の一人暮らしは危険だろうという事でメアリーへ護身用にドーピングポーションを渡していた。
ドーピングポーションとは温和な雑貨屋の嫁姑ですらも瞬く間に狂戦士へとジョブチェンジさせるリスキーな薬だ。暴漢が相手ならば護身用としても充分に役に立つだろう。
だがメアリーは次郎衛門から一時的にパワーアップ出来る魔法の薬と聞いていた為にパンダロンへのお仕置きの為に服用してしまったようだ。
その結果はパンダロンも体感したようにメアリーは見事にジョブチェンジを果たしたし、パンダロンは死に掛けたという訳である。
ぶっちゃけると一から百まで全部が全部、次郎衛門が悪いという碌でもない結論に帰結するのだ。
「あなた…… ごめんなさい。」
誤解で旦那であるパンダロンを撲殺しかけたメアリーが泣き崩れながら謝罪を繰り返す。
パンダロンはそんなメアリーの頭に優しく手を乗せ口を開く。
「誤解だと分かってくれたのならそれで良い。これからはジローの事は信用し過ぎるな。悪人じゃないが奴が関わるとは大抵碌でもない感じになるからな」
確かにパンダロンの言う通り次郎衛門は悪人ではない。
作中ではあまり語られていないが、孤児院の子供達の面倒を見たり、暴飲暴食亭で働いている元食い逃げ少女の様子を見に行ったり、雑貨屋のお婆さんの話相手になったりと結構良い事もしてたりするのだ。 良い事と一緒に様々な問題を起こしまくるので周囲の人間の評価はプラスかマイナスで言うならば若干マイナスといった感じの評価である。
「やっぱりジローの所為だったんじゃねーか」
フィリアの説明を聞き怒りを露わにするパンダロン。
まぁ、パンダロン自身は何も悪くないのに愛する嫁に撲殺され掛かったら怒って当然なのだが。
パンダロンは返り討ち覚悟でせめて一太刀次郎衛門に浴びせてやろうと周囲を探るが次郎衛門の姿はなかった。あらゆる騒動の中心にいる筈の次郎衛門が何故かこの場に居ない。
そんなパンダロンの様子を察したフィリアが口を開く。
「ジローならここには居ないわよ。打ち上げ準備中だから」
「打ち上げだと…… 俺がこんな目に遭っていたってのにアイツは宴会の準備なんぞしてやがるのか!」
「もう治療は終わったし歩けるでしょ。気になるなら広場に行ってみれば?」
と言う訳で広場にやってきたフィリアとパンダロンとメアリー。
そこに次郎衛門は居た。
正確には広場の中心に謎の巨大な樽が置いてありその樽に次郎衛門は顔だけ出してハマっていた。
その姿は地球というか日本で言うところの黒ひげ危○一発にそっくりだ。
「ジロー。お前一体何やってるんだ?」
黒ひげ○機一発の事を知らないパンダロンは次郎衛門の奇妙な姿にさっきまでの怒りも忘れて思わず問いかけた。
「おお! おっさん助けてくれよ! このままじゃ俺、空へ飛ばされちまうんだ!」
どうやら打ち上げの準備とは宴会の準備の事ではなく本当に次郎衛門を打ち上げる為の準備の事だったらしい。しかも次郎衛門の様子から察するに本人の意思でハマっている訳でもなさそうだ。間違いなくやったのはフィリアだろう。
「何の事だか分からんが、嫌なら転移で出れば良いだろう」
「この樽にセットされちまうと魔力を吸われちまって魔法が使えないんだよ。フィリアたんの鬼畜! だがそれがいい!」
次郎衛門がハマっている樽は普通の樽ではなく次郎衛門が作った特別製の樽で、樽にセットされた者の魔力を吸い取り発射の為のエネルギーにしているらしい。つまり樽にセットされた者は自分自身の魔力で大空へと旅立つ事が出来る素晴らしいアイテムなのだ。飛行距離は吸い取った魔力に比例して伸びる。ちなみに着地に関しては考えられていない辺りが次郎衛門クオリティである。
「それでジローを一体どうするつもりなんだ?」
パンダロンはフィリアに問いかける。
「どうもこうもないわ。打ち上げるのよ。流石に今回の件は目に余るわ」
どうやらフィリアは一般人であるメアリーをも巻き込んだ次郎衛門に御立腹らしい。
その罰として次郎衛門が密かに開発していたリアル黒○げ危機一発を没収し、開発者自らをその実験台にする事にしたようだ。
次郎衛門がセットされた樽の周囲には最敬礼の姿勢でを微動だにしない見送る気満々のアイリィとピコの姿もある。
最初は彼女達も次郎衛門を何とか助けようとしたのだが、フィリアが彼女達に何事かを囁いた瞬間に次郎衛門の救出を諦めた。ちなみにフィリアが何を囁いたかは乙女の秘密だそうだ。
「パンダロン。一番の被害者であるあんたにジローの発射スイッチを刺す権利を上げるわ」
そう言ってパンダロンにナイフを手渡すフィリア。
手渡されたナイフを見つめるパンダロン。
その表情はやや引きつっていた。
何故ならナイフがデカかったのだ。
樽の直径が1,5mほどなのに大して刃渡りも同じくらいあるのだ。
まるで最終幻想七とかいうゲームの主人公蔵人が扱う大剣の様である。
しかも差し込む穴が一つしかない。
こしこれが普通のゲームだとしたら先手必敗の無理ゲーである。
「これ…… 流石に刺したら幾らジローでも死ぬんじゃないのか?」
「そうそう! そんなの刺さったら流石の俺でも死んじまうって!」
今まで散々な目に遭わされて来たというのに躊躇してしまう優しい男パンダロン。
そんなパンダロンの優しさに付け込み必死に保身を謀る次郎衛門。
「死なないわ。どういう仕組かは知らないけど。それはただの発射スイッチよ。気兼ねなく刺しなさい」
「そうなのか? それなら遠慮なくやらせて貰うとしよう」
フィリアの言葉を聞き安心した様子のパンダロン。
それとは対照的に慌てる次郎衛門。
この黒ひげ危機○発はまだ未完成なのだ。
着地に関しても考えられていないし、何より何処に飛んで行くのかも分からないのだ。
流石の次郎衛門でも不安にもなるというものである。
「おっさん! それを刺したら後悔する事になるぞ!」
「てめー。この後に及んで往生際が悪いぞ!」
「それを刺したら絶対に後悔する事になる! 間違いない。だから早まるなって!」
必死にパンダロンに呼び掛ける次郎衛門。
そんな次郎衛門を無視してパンダロンはナイフを樽に突き刺した。
『ズバッシューーン!!』
「うっぎゃあああああああああ! 超こえええええ!」
轟音と悲鳴と共に空の彼方へと飛んでいく次郎衛門。
何となくバイバイキーンという捨て台詞が聞こえて来そうな光景であった。
それと同時に背中から漆黒の竜の翼を生やして次郎衛門の後を追うアイリィ。
ピコは走って次郎衛門を追うつもりらしく砂塵を巻き上げながら疾走していく。
次郎衛門、アイリィ、ピコの三人は瞬く間に視界から消えて行った。
こうしてパンダロンは少しばかり次郎衛門に対しての溜飲を下げる事に成功したのだった。




