115話 あ、無理だ!?
次は日曜日に投稿する予定でっす。
引き続きパンダロンに視点を合わせて進行して行くとしよう。
エカテリーナさんと共に旅立とうとする支部長を何とか現世に踏みとどまらせたパンダロン。
支部長を背負い何とかギルドへと辿りつく。
パンダロンに受付嬢のサラが気が付いたようだ。
「あ、パンダロンさんじゃないですか! 王都から帰って来たんですね!って、支部長!? どうしたんですか!?」
一命を取り留めたとは言え、重症な支部長にサラが気が付き悲鳴に近い声をあげる。
「何となく分かってるとは思うがジロー達の仕業だ。学校新設に関して色々進めていたらしいんだが、ジローに話を通さずにいたらしくてな…… 自分一人だけ助かろうと逃げ出したところをアイリィに辺境伯家の会議室から辺境伯家の外壁まで思いっきり殴り飛ばされてこのざまだ。俺の虎の子のポーションがなかったら確実に死んでたな」
「ああ…… やっぱりですか。こそこそ何やらしていた時点でこんな日が来る気はしました」
パンダロンに経緯を聞いたサラ。
その目には既に諦めの色が表れていた。
次郎衛門が何かするのを放っておけば確実に何かしらの問題が起きる。ならばと手を打ってみればこの有様だ。パンダロンや支部長は次郎衛門と関わった時点でどう足掻こうが悲惨かつ過酷な運命が決定してしまったのかも知れない。どの選択肢を選んでも結局どれも罰ゲーム…… 何て嫌で救いのない人生なのだろう。
二人が無事に天寿を全う出来るように祈ってしまうサラ。
とりあえず支部長を治療室に放り込んだパンダロン。
ギルドで働いている筈の新妻のメアリーに会って無事を伝えたいところなのだが、直ぐに報告書の作成に取り掛かる。
次郎衛門の王都行きは指名依頼という形で行った上に経費もギルド持ちだったので詳細な報告書が必要だったのだ。更にジロー手当の申請書も書きあげて行く。
ジロー手当とは次郎衛門専属のギルド担当者という役を押し付けられたパンダロンに支払われる特別手当の事だ。要するに危険手当みたいなものだと思って欲しい。
パンダロンから言わせればジロー手当程度では全く割に合わないらしいが他に誰もやりたがらない辺りから察するにパンダロンの主張も間違いではなさそうだ。
ようやく書類を提出し、一息つくパンダロンは今度こそメアリーを探すのだがその姿が見当たらない。
「仕事中に悪いがサラ、メアリーの奴を見かけなかったか?」
「え? メアリーさんですか? 確かパンダロンさんが来る前に帰りましたよ」
パンダロンは日が落ちてからギルドに戻ったので日勤のメアリーとは入れ違いになってしまったらしい。そんな事にも思い至らずにメアリーの事を探していたとはどうやら本格的に疲れているのかも知れないと一人苦笑するパンダロン。
「そうか。それじゃ、俺も帰るとするか。それと明日からしばらくは休み貰うからな」
「はいはい。分かってますよ。思う存分メアリーさんとイチャイチャして下さい」
等と、サラにからかわれながらも、いそいそと愛するメアリーの居る自宅へと帰るパンダロン。
「メアリー今帰ったぞ!」
勢いよく扉を開け放つパンダロン。
扉の向こうには一人で夕食の準備をしているメアリーの姿があった。
数カ月ぶりに見るメアリーはやはり美しかった。
「あ、あなた!? 帰って来たの?」
突然の出来事に戸惑いを隠せないメアリー。
だが状況を把握するとメアリーの目にはキラリと輝くものが溜まる。
「心配を掛けたのは悪かったが泣くなって」
新婚早々に出張する羽目になったのは次郎衛門の所為であってパンダロンに責任はないのだがとりあえず謝まるパンダロン。
そんなパンダロンに駆け寄るメアリー。
メアリーを受け止めようと両腕を広げるパンダロン。
メアリーはそのままパンダロンの胸に飛び込んで行くかと思いきや、その両腕をバックステップで華麗に回避。
「え!?」
感動の抱擁シーンを想像していたパンダロンは予想だにしなかった展開に戸惑いの声を上げる。
「この浮気者おおおおおおおお!」
そしてパンダロンの顔面にメアリー渾身のフライパンがクリーンヒット。
久しぶりに会えた嫁がいきなり泣きながら殴りかかってくるという事態に訳もわからずに殴打されるパンダロン。勿論パンダロンには浮気の心当たりはない。
いや、一つだけあった。
エレオノーラ姫お付きの女騎士との強制キスの件だ。
しかしあれは次郎衛門が悪いのであってパンダロンの責任ではない、と思う。
しかしパンダロンも歴戦の冒険者だ。
所詮は一般人程度の力しかないメアリーの攻撃なら痛い事は痛いのだが耐えきれると判断し只管耐えながら説得を試みる。
「お、落ちつけメアリー! 話を聞いてくれ!」
「いやよ! 言い訳だなんて聞きたくないわ! あなたを殺して私も死ぬうううう! 殺してやる! ころしてコロしテヤるうウ! コロコロコロロコココロしテやルるるルウウぅ!」
何だかメアリーの様子がおかし過ぎる状態になってきた。
噴きだす殺気が尋常ではない。
そしてメアリーの振るうフライパンアタックも一撃ごとに威力を増していく。
何が起きているのかは分からない。
だがパンダロンはこの状況に関して確実に一枚噛んでいるだろう人物には心当りがあった。
パンダロンの脳裏に一人の人物が思い浮かぶ。
その人物とは当然のようにあの男だ。
「ジローのやろおおおおお! メアリーに一体何をしやがったあああああ!」
そして訪れる本日二度目の魂の咆哮タイム。
それと同時にメアリーのフライパンがクリティカルヒット。
このままじゃまずい。そう判断したパンダロンは緊急事態用のポーションへと手を伸ばすがある筈のポーションがない。つい先ほど、死に掛けていた支部長に全部使ってしまっていたからだ。
パンダロンは思った。
あ、無理だ。これ死ぬかも。
メアリーの繰り出すフライパンアタックに意識を刈り取られたパンダロンなのであった。




