114話 一般人を巻き込まずには済んだようだな!?
次は水曜日に投稿しまっす。
次郎衛門達がラスクへと帰還し、幽霊ちゃんが奇妙なキャラ作りをし、パンダロンを王都に忘れて連れに戻ったり、支部長が死にかけたり、辺境伯が天パになったり、メルが何時の日か妖怪化する事が確定した日の晩の事である。
次郎衛門達が久しぶりに幽霊ちゃんの作る夕食に舌鼓を打ち食後の団欒を楽しんでいた時の事。
『ドンドンドン』
「ん? 何だ?」
どうやら何者かが訪ねてきたらしい。
「こんな時間に非常識な奴も居たもんだなぁ。面倒だし居留守でもするか?」
確かに夕食も済んだ時間帯に人の家に訪れるというのは非常識な行為といえるだろうが、最近では存在自体が非常識そのものと言える次郎衛門が言えた義理ではないと思う。
逆に言えば訪ねてきた相手が常識を弁えた者だった場合、かなり切羽詰まった重大な用件があるのだとも言えるだろう。
その事を理解した上で真っ先に居留守を選択肢に上げるところがとても次郎衛門らしいと言える。
「私ちょっと見て来ますぅ」
流石に居留守は相手が可哀そうだと幽霊ちゃんが玄関へと様子を見に行ったのだった。
しばらくすると幽霊ちゃんが一人の見覚えのある女性を連れて戻ってきた。
「あれ?メアリーさんじゃん」
来訪者はパンダロンの嫁であるメアリーだった。
メアリーはパンダロンと結婚した直後にパンダロンが次郎衛門の王都行きに同行する事が決まった為に、未だにほとんど夫婦としての時間が取れていないある意味次郎衛門の被害者とも言えるちょっと可哀そうな女性だ。
旦那であるパンダロンがやっと戻ってきたので本来なら今頃の時間は夫婦で良い感じにしっぽりしてそうなものなのだが。
「あの、こんな時間に申し訳ありません。夫の事で助けて頂きたいのです。実は……」
次郎衛門達の視線を感じ取ったのかは分からないがメアリーは次郎衛門宅へ訪れた理由を語りだした。
◆◆◆◆
辺境伯の屋敷での件が片付き、パンダロンはアイリィのパンチによって行方不明になってしまっていた支部長の捜索をしていた。
「支部長! どこだ! 生きてたら返事をしてくれ!」
延々と様々な物を破壊しながら一直線に続いていく支部長の軌跡を辿る。
ひょっとしたら辺境伯家の敷地からも飛び出てしまったのかと心配になってくるパンダロン。
もしも弾道兵器と化した支部長に一般人が巻き込まれたとしたら巻き込まれた側は確実に死ぬだろう。
そんな惨劇を想像してしまい思わず背筋が寒くなるパンダロン。
だが幸いな事に軌跡は辺境伯家を囲む堅牢な城壁部分を破壊し、瓦礫の山と化していたもののそこで止まっていた。
「ふう。どうやら一般人を巻き込まずには済んだようだな。しかしこれって支部長生きてるのか?」
そんな独り言をぼやきながらも支部長を探すべく積み上げられた瓦礫をどかし始めるパンダロン。
だが瓦礫の山に手こずり中々支部長は見つからない。
既に支部長の捜索というよりは発掘の様相を呈し始めた。
日も暮れ始めた頃にようやく支部長を掘り起こす事に成功した。
「ぜぇ、ぜぇ、支部長! 生きてますか!? 支部長!」
何度声を掛けてもピクリとも動かない支部長に不安になるパンダロン。
「おい! 支部長! 返事しろ! おい!」
どう見ても重症の支部長の体をガクガクと揺する。
するとパンダロンの必死な思いが通じたのか支部長は僅かに目を開いた。
「良かった。生きてたか!」
支部長が生きていた事にホッとするパンダロン。
しかしそれもつかの間の事だった。
支部長の次の一言でそんな気持ちも消し飛ぶ事となる。
「エカテリーナ…… 俺を…… 迎えに来てくれたのか……」
エカテリーナとは既に亡くなっている支部長の嫁の事である。
支部長とは長い付き合いであるパンダロンはエカテリーナさんとも旧知の間柄であった。
どうやらエカテリーナさんは生死の淵を彷徨う支部長の事を迎えに来てしまったらしい。
虚空に手を延ばし何かを掴み取ろうとする支部長。
「ちょ!? 支部長!? エカテリーナさんが迎えに来ちまってるのか!? ここに!? ダメだって! ってか夕暮れ時にこの話題は怖ぇよ!」
思わぬゲストの登場に軽くパニック状態に陥るパンダロン。
支部長はパンダロンにとって師匠のようなものである。
駆け出しの頃から目を掛け可愛がってくれた恩人である。
こんな死に別れ方は嫌だった。
そして何より…… 何より……
「あんたが死んだらジローの馬鹿野郎のやらかす事の責任を俺一人で背負う事になっちまうだろうがあああああああああああ!」
パンダロンの偽らざる本音だった。
己の保身の為にも支部長に死なれる訳にはいかないのだ。
恩人だから死んで欲しくない気持ちも少なからずある。
数値として表現するならば1万以上はある。
だがジローのやらかす事の責任が全部自分に来るから死んで欲しくないという気持ちは100億くらいはあった。
必死に手持ちのポーションを支部長に投与する。
非常事態に備えて持っていた最高級のポーションだ。
ラスクの街にならそれなりの屋敷が買えてしまう程の値のするポーションだ。
パンダロンは今がその非常事態だと思った。
いや、思ったなどという曖昧なものではない。
最早それは確信だった。
今、支部長に死なれてしまったら次の殉職者は間違いなく自分になると。
だからこそ虎の子のポーションを使うのに何の躊躇いもなかった。
そのお陰だろうか支部長は何とか現世に踏みとどまる事が出来たようだ。
どうやらエカテリーナさんも連れて逝く事を諦めてくれたらしい。
徐々に顔色もよくなって行き、脈拍も安定しだしたようだ。
「ふう。峠は越えたようだな」
容態の安定した様子を見せる支部長に安堵の息を漏らすパンダロン。
折角旦那を迎えに来たというのに無駄足を踏む事になったエカテリーナさんに呪われたら嫌だな。
などと思いつつも支部長を背負いギルドへと歩き出すパンダロンなのであった。




